実践的イノベーションマネジメントのガイドライン
ポール・スローン(若林 暁子訳)「ポール・スローンの結果を出せるリーダーのイノベーション思考法」、北辰堂(2012)
お奨め度:★★★★★+α
facebook記事:「イノベーションをマネジメントするために、マネジメントをイノベーションする」
「ウミガメのスープ」で有名な水平思考の大家、ポール・スローンのイノベーションマネジメントの本。原題は、「The Innovative Leader - How to inspire your term and drvive vreativity」である。イノベーションに関する本は増えてきたが、マネジャーレベルでイノベーションのマネジメントを実践方法をまとめた本はあるようでない。内容も、ポール・スローンの面目躍如といったところ。イノベーションの概念的な議論から一歩抜け出し、実践に移したい人には、ぜひ読んで欲しい一冊だ。
◆イノベーションリーダーは部下にイノベーションを起こさせる
イノベーションの本を読んでいると不思議に思うことがある。それは、できるだけたくさんの失敗をすることがイノベーションの質に通じるとどんな本を読んでも書いてあるのだが、これを合理的にやろうとすると、マネジメントが不可欠で、その方法に言及しているものがほとんどないのだ。
この本は、まず、ここのスタンスを明確にしており、イノベーティブなリーダーとは、自分自身がアイデアを出したり、創造的な活動をするリーダーではなく、
誰かが革新的なアイデアを出したり、創造的な取り組みをしたりするときに、それを認め、支援し、期待を超えた結果を出すように鼓舞するリーダーである。この本は、その具体的な方法を述べている。
まず、全体的なマネジメントとしては、どのようなビジョンを明確に示すこと。ビジョンから生まれた目標がイノベーションのパフォーマンス評価の基準になる。そして、「イノベーション宣言」をする。これは組織が変わるというマニフェストになる。そこには、
・イノベーションが不可欠な理由
・重点分野
・要望
・確約
・プロセス
・決意
・前向きなスタンス
などが書かれていなくてはならない。
といったことが、15項目書かれている。
以下、各論として
・解決すべき問題を分析する
・イノベーションの源泉を生み出す
・イノベーションのプロセスを実行する
という具体的なプロセス、そして、イノベーションを育む企業風土を築くという組織開発の問題、最後は、創造的な生き方をするという個人の問題にまで言及している。
◆解決すべき問題を分析する
問題の分析では
・客観的なデータと主観的な心情を総動員して、現状を見極める
・問題を多面的に分析する
・「なぜなぜ分析」で問題の本質を探る
など6つのポイントを上げている。特に重要だと思われるのは、質問の切り口を変え、問題を定義しなおすというポイントである。問題の定義を見直すことによって、まったく新たな課題が見えてくることが多いからだ。
◆イノベーションの源泉を生み出す
次のイノベーションの源泉は、いわば、ネタ作りの方法である。ここでは
・誰もが提案できる制度を作る
・アイデア募集をイベントにする
・直属の上司を超えても許される提案制度を作る
・ブレーンストーミングをうまく機能させる
・異業種のプロを招き、「体験を共有」する
など、26のポイントが挙げられている。全体を通じて主張しているのは、とにかく、アイデアをたくさん、出すこと。ブレーンストーミングは有効な方法であるが、ブレーンストーミングの原則にあるように、アイデアが出なくなったアイデアがイノベーションの源泉になる可能性が高いことだ。
ここはひとつ重要なポイントで、普段、アイデアがでなくなると遊びに入る人は結構多いと思うが、そこにイノベーションの源泉があるのかもしれない。
◆イノベーションのプロセスを実行する
イノベーションの実行では、
・イノベーションのための自由時間を正規の就業時間として認める
・全員に常に2つの仕事を与える
・過去に誰かが生み出した解決策を正々堂々と借用する
・イノベーションの進捗状況を計測する
・顧客を深く観察すると、画期的なイノベーションが芽吹く
・顧客とともに想像する
・イノベーションのプロセスごとにゲートを設ける
など、かなり、現実的なマネジメントの方法が24ポイント示されている。イノベーションは基本的には管理できない。しかし、その中で、目標達成やゲートなどの方法で、節目の管理をすることが大切だという指摘は重要だ。
この問題分析、源泉(ネタ作り)、実行の3つは、あまり、書かれている本がないので、非常に参考になる。
◆風土の問題と個人の問題
次の風土については、11ポイントあるが、そんなに目新しいものはない。失敗を認める、ポジティブであるなどだ。
最後の生き方では、個人的なスタンスの問題として
・当たり前と思い込んでいる前提を見直す
・探究心を持ち、質問力を鍛える
・ぬるま湯に浸からず、大胆な行動にでてみる
・プロセスを簡略化し、必要不可欠なものだけを追求する
・物事を別の角度から見る
・論理的にあり得なくても、「直感」を信じる
・解決すべき問題点を寝かせておく
・最初の答えに飛びつかない
・個人レベルの創造性を高める
・「前向きな反乱」を歓迎する
・本当に大切なことに時間を使うために、生活をシンプルにする
・誰ともつながらない時間を作る
・頭の中を図解する
・体調管理はしっかりと
・運勢は変えられる!そして、運のいい人になれ
という15のポイントを示している。
最近、マネジャーから、上からイノベーションをやれという指示が下りてくるが、何をやってよいかわからないという話を聞くことがある。この本を読んでよく分かるのは、イノベーションだからといって特別なことをしなくてはならないわけではない。ただ、少し、今までやってきたマネジメントをちょっとだけ変えればいいだけだと分かる。ただし、それには勇気がいる。それがイノベーションの難しさだ。
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