日本組織の抱えるジレンマ
鈴木 博毅「「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ」、ダイヤモンド社(2012)
お奨め度:★★★★
facebook記事:なぜ、日本は同じ過ちを繰り返すのか
一応、組織論の名著「失敗の本質」の入門本と謳った本。「失敗の本質」は、MBAで授業で課題図書になっていたので、かなり読み込んだ。実は、この本をさっと読んで、失敗の本質を引っ張り出してきてもう一度、読んでみた。なぜかというと、そんなことを書いてあったかと思わせる箇所が結構あったからだ。
結論としては、そういう箇所はあるが、それはそれとして、指摘されているジレンマ、また、その指摘のために取り上げているビジネスにおける事例は面白く、日本軍の行動と、現在の企業の行動を比較して「変わらない」という発見は貴重なものだと思う。
そういうことでこの本を紹介しておきたい。この本は、失敗の本質の「本質」を
(1)なぜ、「戦略」が曖昧なのか?
(2)なぜ、「日本的思考」は変化に対応できないのか?
(3)なぜ、「イノベーション」が生まれないのか?
(4)なぜ、「型の伝承」を優先してしまうのか?
(5)なぜ、「現場」を上手に活用できないのか?
(6)なぜ、「真のリーダーシップ」が存在しないのか?
(7)なぜ、「集団の空気」に支配されるのか?
の7つの問題として切り出している。この7つは、まさに日本企業の組織の問題であり、この本の作りとしては、この問いを立てた後で、失敗の本質と結びつけたのではないかと思う。
この問いに対する答えを数ポイントに絞って失敗の本質として解説する形になっている。
(1)なぜ、「戦略」が曖昧なのか?
01 戦略の失敗は戦術では補えない
02 「指標」こそが勝敗を決める
03 「体験的学習」では勝った理由はわからない
04 同じ指標ばかり追うといずれ敗北する
(2)なぜ、「日本的思考」は変化に対応できないのか?
05 ゲームのルールを変えた者だけが勝つ
06 達人も創造的破壊には敗れる
07 プロセス改善だけでは、問題を解決できなくなる
この答えがそのまま、本の構成になっているので、(3)以降の問いの答えは、目次を参考にしてほしい。
この中で、今の日本企業を考えたときに、重要な指摘だと思うポイントをいくつか挙げておく。まず、
・戦略の失敗は戦術では補えない
という点。戦術とはいかに目の前の状況にうまく対応するかということであって、局地戦で勝っても戦略目標を達成できるとは限らない。
二番目は、
・達人も創造的破壊には敗れる
という点。これはまさにグローバルな世界で今起こっていることで、一つのことにいくらこだわって、深掘りしていっても、競争のルールが変われば(破壊的イノベーション)、そのこだわりは水泡に帰すということ。
この文脈で、戦略オペレーションとして
・効果を失った指標を追い続ければ必ず敗北する
という指摘も重要だ。さらに、さんざん、言い尽くされ感があるが、
・技術進歩だけではイノベーションは生まれない
という指摘も重要である。また、現場の問題に対しては、戦争の時代から変わらず、
・司令部が「現場の能力」を活かせない
という問題が残っている。古くて新しい問題だというか、現場を知らない、知らないから信用しない、信用しないから、権限委譲しないというのは、まあ、そういうものだと考えた方がいい類の問題なのかもしれない。
また、興味深い指摘は、
・リーダーこそが組織の限界をつくる
という指摘だ。リーダーシップについてはポジティブな面が語られるので、あまり、この問題は語られないが、日本軍の白兵銃剣主義にこだわった例などは、まさに、リーダー自身の限界を組織の限界にしてしまった例だと言える。このような例は、プロジェクトから、経営まで、日本企業では至るところに散見される。まあ、組織というのはそういうものかもしれないが。
あと一つ上げておくと、
・居心地の良さが、問題解決能力を破壊する
という指摘がある。これは、まさに、日本企業が昔からやってきたことで、問題を指摘し、不均衡を引き起こす社員に居心地の良さを提供し、安定を保とうとする。そうしているうちに、問題解決能力自体を失う。ぬるま湯にカエルを入れると、そのまま死んでしまうという逸話があるが、これは気持ちよいから「出ない」のではなく、「出れなくなる」のではないかと思う。
この問題を解決するには、
「覚悟」
が必要だということだ。
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