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2011年5月20日 (金)

しきる技術(ファンが選ぶビジネス書8)

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克元 亮「 「しきる」技術 誰にでもできる超実践リーダーシップ」、日本実業出版社(2011)

お奨め度:★★★★1/2

数々のプロジェクトで、プロジェクトマネジャーを務める著者が、自分の失敗や経験に基づき、「しきる」技術について解説する一冊。SEはしきることを難しく考える傾向があるが、それは決して難しいことではなく、基本を押さえていけば、必ず、できると説く。

著者によると、いま、しきる技術が必要な理由は2つある。一つは、働き方や働くことの価値観が多様化し、マネジメントが難しくなってきたことで、リーダーはしきる技術を持つことが必要になってきた。もうひとつは、時間の流れが速くなり、昨日までうまくいっていた方法がうまく行かなくなってきた。したがって、リーダーが自分の経験に基づいて、指示をするのは難しくなり、メンバーに任せざるを得なくなってきた。

このような背景の中で、しきる技術が重要になってきた。著者はしきる技術を持ったリーダー像を老子の

偉大なリーダーはリーダー自身が評価されず、メンバーが自分たちでなり遂げたと考える

という趣旨の言葉を引用し、先頭にたってチームを引っ張るのではなく、メンバーの活動を後ろからサポートするリーダー像を描く。

しきる技術を身につけたリーダーは、メンバーを巻き込んで仕事をし、チーム力をベースアップできるというのが著者の指摘である。

著者が考える基本とは

・ゴール設定
・マインド
・スピード
・フェア
・リスク管理
・コミュニケーション技術

は6つである。

この中でもっとも大切なのはゴール設定だという。ゴールには目的と目標がある。目的は何のためにその仕事をするかであり、目標はいつまでに、どこまでするかだという。そして、目標は明確になっていることが多いが、目標だけではやらされ感が出てくるので、目的を与えることによって納得させて仕事をできるようにすることが重要だという。

面白いのは、それでも、目的や目標に納得するとは限らない。そこで、裏の目的や目標を設定すべきだという。裏の目的や目標は、組織のためではなく、チームや自分自身のためのゴールである。

次はマインド。マインドを身につけるには、うまくしきっている人を観察し、その人を真似、自分のものにしていくというステップが重要だ。そして、その中で、自分についても冷静に観察し、自分のありたい姿とのギャップを意識して埋めていくとよい。

三番目はスピード感をもつこと。このためには、STD(See-Think-Do)のサイクルをスピーディーに回していくとよいだろう。

次のポイントはフェアに会議をしきることだ。ここでも面白い指摘がある。それは、メンバーがリーダーに対して問題を切り出せないのはリーダーのフェアではない態度に問題があるという。そして、フェアであるためには、意見や議論を可視化することが有効だと述べている。

次は、リスク管理。ここでいっているリスク管理は、プロジェクトマネジメントでよく言われるリスクをできるだけ回避しようという話ではない。リスクを取ることによって、チームに緊張感を与えることがチームのパフォーマンス向上に結び付く。その代わりにしきり役であるリーダーはリスクをきちんと管理しなくてはならないというもの。著者の思想が色濃くでている部分だと思う。

最後はコミュニケーション。ここで言っているコミュニケーションはホウレンソウではない。ゴールを共有するためのコミュニケーションの重要性を説いている。

弊社の研修で行っているロボットを作るというエクスサイズがある。プロマネ役とメンバー役を決め、

・プロマネ役はロボットの全体像や組立図を見て、メンバーに伝えたり、指示することはできるが、組み立てはできない
・メンバーは直接、全体像を見ることはできない

という2つの基本ルールの中で、できるだけ早く、安いコストで、できるだけ完全なものを作ったチームが勝ちというエクスサイズだ。ロボットの部品点数は40点程度。

簡単に想像できると思うので、あなたがプロジェクトマネジャーだと思って想像してみてほしい。

このエクスサイズで勝利するチームは、例外なく、この本の6つの基本を押さえた行動をしている。とくに、ゴール設定とコミュニケーション、スピードの3つを欠かすと、まず、ロボットは完成できない。

この本では、6つのそれぞれの基本行動に対して、具体的な知恵がたくさん示されているので、とても実践的。プレイングマネジャーから、プロジェクトマネジャーの変容過程にある人には必読書だ。

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