もし県庁職員がドラッカーの「非営利組織の経営」を読んだら
有川 浩「県庁おもてなし課」、角川書店(2011)
お奨め度:★★★★(注:小説としての評価ではありません、ビジネス書としての評価です)
有川浩さんの「恋する観光小説」。小説であるが、昨年から大ブレーク中の「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」と同じくらい、ドラッカーのマネジメントの勉強になる。「マネジメント」だけでなく、マネジメントをベースにした非営利組織のマネジメントの勉強にもなる。
僕はドラッカーのもっとも大きな功績は、非営利組織のマネジメントについて体系的にまとめたことだと思っている。この著作だ。「非営利組織の経営」。もちろん、「マネジメント」の発明という大きな仕事があり、その上に立脚するものである。21世紀においてこの仕事は高く評価されるのではないかと思う。
また、非営利組織の経営の考え方に従って、ミッションマネジメントを具体的に展開するためのツールを提供する
ピーター・ドラッカー、ギャリー・スターン (田中 弥生監訳)「非営利組織の成果重視マネジメント―NPO・行政・公益法人のための「自己評価手法」 」、ダイヤモンド社(2000)(1995年の改版)
があることも素晴らしい。この本は、5つの質問に注目した書籍「The Five Most Important Questions You Will Ever Ask About Your Organization」の邦訳が、上田惇生先生の訳で、2009年に
ピータードラッカー「経営者に贈る5つの質問」、ダイヤモンド社(2009)
として出版されている。これは、まさに、ボランタリーな精神の経営が重要になってきていることを意味するものだろう。
前置きはここまでにして、
もし、県庁職員がドラッカーの「非営利組織の経営」を読んだら
という副題をつけたくなるような小説が登場。作者は、図書館戦争シリーズで注目され、最近では、「フリーター、家を買う」が連ドラになったり、「阪急電車」が映画化されたりで大ブレークしている有川浩さん。
実際に存在する高知県の「おもてなし課」を舞台にした小説。プロットは有川浩ワールド。高知県庁観光部の「おもてなし課」が、何をしようかということで、とりあえず、着手したアイデアが多くの自治体がやっている県出身の有名人の観光特使。観光特使の一人が、有川さん自身がモデルだと思われる吉門喬介。吉門喬介は観光特使を引き受けるが、お役所仕事にいろいろと注文を付け、アドバイスを送る。そして、おもてなし課をモデルにした新聞連載小説の執筆取材を口実に深く、関与していく。
小説なので、筋書きの説明はやめておくが、吉門や吉門推薦のコンサルタントを中心に、おもてなし課は「お役所」から、ミッション達成軍団に変身していく。
そこに描かれている姿は、まさにもしドラと同じものだ。ドラッカーの著作を引用して謎解きをしていくスタイルではないが、5つの質問に一つ一つ答え、着実に変化していく。その中に、有川ワールドの恋愛あり、親子のふれあいありだ。
ストーリーのパワーを感じさせる一冊でもある。もしドラと同じくらい勉強になる。非営利組織に勤務する人よりは、役所と同じDNAを持ちながら、欧米式のマネジメントを取り入れようとして、あまり、すっきりしていない日本企業のマネジャーやエグゼクティブにぜひ読んでほしい。
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