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2011年4月 6日 (水)

日本型マネジメントの神は細部に宿る(ファンが選ぶビジネス書4)

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岡本 薫「なぜ、日本人はマネジメントが苦手なのか」、中経出版(2011)

お奨め度:★★★★★+α

世間様が許さない~日本的モラリズムの存在を指摘されている政策研究大学院大学の岡本薫教授のマネジメント手法Ph.Pを一般のマネジャーに向けて解説した一冊。Ph.Pに関してはすでに、「Ph.P手法によるマネジメントプロセス分析―国・自治体・企業・団体・学校などあらゆる組織のガバナンスのための方法論」という専門書があるが、これよりはずいぶん、平易に、また、ウィットに飛んだ例を挙げながら書かれているので、楽しく読める。

◆日本的モラリズムとは

まず、岡本先生の言われる「日本的モラリズム」について簡単に説明しておく。民主主義であれば、ルールを決め、ルールの範囲で何をやっても許される。ところが、日本の国はそうはいかない。「みんなと一緒(世間様が許さない)」というモラルが支配しており、「迷惑をかけることは悪」とみなされ、ルールに基づき正当な権利を行使しても社会的に避難を浴びることがある。これが、岡本先生の日本的モラリズムである。

たとえば、朝青龍を引退に追い込んだ事件。朝青龍は報道された暴力事件も起訴・立件されていないし、相撲協会のルールに対する違反もなかった。ところが、ここに日本的モラリズムが登場し、品格なるものを持ち出してきて、外国人である朝青龍を排斥したというのが岡本先生の見立てである。

もっと興味深いのは、民主党の小沢一郎元代表の政治資金問題。最近、オランダ人ジャーナリストのカレル・ヴァン・ウォルフレン氏が、

カレル・ヴァン・ウォルフレン(井上実訳)「誰が小沢一郎を殺すのか?画策者なき陰謀」、角川書店(2011)

という本を出版し、話題になっているが、この話も岡本先生のいう、日本的モラリズムの話だろう。

岡本先生は本書の中で、「マネジメントの実践者」にとって、日本的モラリズムは「共産主義」より厄介だと断言している。その理由は、共産主義社会は「全体が持つべき思想・価値観」が明示されているが、日本的モラリズムはどこにもかかれておらず、かつ、うつろいつつあるかだら。


◆日本でマネジメントする人がすべきこと

そして、日本でマネジメントをする人は、日本的モラリズムがあることを認識し、

(1)日本では「自由」は十分に機能しておらず、民主的に定められた「ルール」も機能しないということを「現状」としてよく認識しておく


(2)ルールを無視して「モラル感覚」に基づく「超ルール的正義」で動く日本人は、現時点では具体的にどのようなモラル感覚を持っているのか、という「現状」をよく把握しておかなくてはならない

の2つをすべきであることを指摘している。そして、このようなややこしい構造がある中で、PDCAとして、計画をひとくくりにしてもなかなか、うまくいかない。そこで、計画をいくつかの「フェーズ」に分けたPDCAのサイクルを考えてみよう。それが、岡本先生の提唱する、PDCAに代わるマネジメント手法、Ph.Pである。


◆Ph.Pのプロセス

まず、Ph.Pではマネジメントの定義は極めてシンプルである。つまり

マネジメントとは目標を設定してそれを達成するための手段を選択・実施していくプロセスのことである

と定義する。そのためのプロセスとして、Ph.Pは7つのプロセスを基本としている。

ステップ1:現状把握
現状を正確に把握すること
ステップ2:原因特定
現状をもたらした「原因」を正確に特定すること
ステップ3:目標設定
達成可能で具体的な「目標」を設定すること
ステップ4:手段選択
実行可能で有効な「手段」を選択すること
ステップ5:集団的意思決定
関係者間の「集団意思」を十分に形成すrこと
ステップ6:手段実施の確保
決定どおりの「手段実施」を確保すること
ステップ7:結果と目標の比較
「結果と目標の比較」を実施すること

この7つのサイクルを企画(実行前)、実践(実行中)、検証(実行後)において忠実に回していきながら、プロジェクトをロジカルに進めていくのがPh.Pのフレームワークである。ただし、この後でわかると思うが、岡本先生のロジカルとは、一般的に言われるような意味でのロジカルではなく。


◆マネジメントの持つ特徴

岡本先生の説かれるマネジメントには、3つの特徴がある。

(1)マネジメントはルールが許す範囲で行われる。
言い換えると、マネジメントの実践力とは、自由を使いこなす能力である。
(2)マネジメントは本質的にイデオロギー・フリーである。
マネジメントの善し悪しがあるとすれば、目標達成ができたかどうかだけで決まるものである。重要なことは、目標の善し悪しとマネジメントの善し悪しは別だということだ。
(3)マネジメントには階層がある。
マネジメントの内在する唯一の価値は目標の達成であり、目標と手段を混乱してはならない。ただし、マネジメントは組織のなかでの活動であるので、上位マネジメントの手段が下位マネジメントの目標になるという重層構造を持つことがある。したがって、ステップ7において、マネジメントの適切さを議論する際には、どのレベルのマネジメントを議論しているかを明確にしながら行う必要がある。


◆日本的なものを徹底的にロジック化する

この3つの特徴を踏まえて、各ステップの全体的な流れと、Tipsをまとめている。非常に興味深いのは、Ph.Pというフレームワークはロジカルなフレームワークで、その意味で西洋的なものである。

しかし、その中に日本的モラリズムをはじめ、日本人の組織行動特性を踏まえて、とるべき対処をどのように落とし込んでいくかを徹底的に論理的に論じている。おそらくこの本に書かれていることを、Ph.Pのフレームワークを取り除いて書くと、「マネジメントはグローバルに通用するものでなくてはならない」という今はやりのモラリズムの餌食になるようなものではないかと思う。その意味で、Tipsは極めて面白いし、僕が普段言っているようなことがほとんど書かれているので、すべての人に自身を持ってお勧めしたい。
たとえば、僕は分析は答えがあるものだし、認識は共有すべきだが、目標をどう設定するかは趣味の問題だとよく言っている。まさにそう書いてある。

この本に書かれていることは、米国でも、欧州でも実践できるだろう。目標の決め方が異なるだけである。興味深いのは、Ph.Pのステップ1~ステップ4(あるいは、5)は、実はPMIが提唱しているプロジェクトマネジメントの方法にきわめて近い。しかし、日本に導入する際には、多くの企業はこれをひとくくりにしてしまっている。まさに、岡本先生が本書で指摘することが起こっているわけである。

マネジメント、特にプロジェクトマネジメントにかかわっている人は、プロジェクトスポンサー、プロジェクトマネジャーにかかわらず、ぜひ、読んでみてほしい。自分たちがどのようなマネジメント行動をしているか、客観的な認識ができるだろう。

なおかつ、今の枠組みを使って、日本的なプロジェクトマネジメントをどのように組み立てていけばよいかについてのヒント満載である。

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