原子力関係の本の紹介~技術・政策・個人
3月のベスト1は、広瀬隆さんの「原子炉時限爆弾」だったかが、ベスト3紹介記事を書くときに、アマゾンで原子力関係の本が軒並み、一時品切れ・入荷未定になっていることに気付いた。ちょっとした驚き。紙不足なので、すぐに品切れが解消するとは思えないが、原発事故も長期戦なので、事故が収束するころまでには手に入るだろう。
これまで、原子力発電は安全という「前提」のもとに考えられてきたが、いよいよ、パンドラの箱を開けた感がある。僕の実家は、今、原子力発電所の建設が進んでいるところから、半径20Km以内にあるが、これまで推進派だった人が今回の事故で反対派に変わったという噂を聞く。
これまで、安全であることを理由に、原子力政策や、原子力発電所は情報公開をしてこなかった。そんな中でも、ジャーナリストが調査をし、まとめた本がたくさんある。いずれも力作ばかりである。
僕はチェルノブイリの事故が起こった時期に、発電プラントの計装の仕事をしていたので、この問題は当時から興味があり、新しい本が出たらできるだけ読むようにしている。僕が読んだことのある本で、何冊か、「今」、読んでおくとよい本を紹介しよう。
まず、技術的な視点から、今、起こっていることをおおざっぱに把握しておきたい人にお奨めは以下の2冊をお勧めする。
小出 裕章「隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ」、創史社(2011)
非常に科学的に書かれている。実は震災の前に読んだのだが、素人向けに工夫して書かれているが、内容は素人向けの内容ではないと思った。しかし、テレビでこれだけ基本技術の解説をしてくれると、この本を一冊読めば、だいたい、いま、どういうことが起こっているかがわかるのではないかと思う。
広瀬 隆「原子炉時限爆弾」、ダイヤモンド社(2010)
ビジネス書の杜で、3月に一番売れた本。書き方に癖があるが、書いていることは妥当であり、また、小出先生の本に比べると読みやすい。
なお、広瀬隆さんは、原子力ジャーナリズムの草分けのような人で、チェルノブイリの年にこんな本を出している。
広瀬隆「東京湾に原発を!」、集英社(1986)
次に、エネルギー政策的な観点から、いま、起こっていることを理解したい人には、以下の2冊をお勧めする。
七沢 潔「原発事故を問う―チェルノブイリから、もんじゅへ」、岩波書店(1996)
今回の事故でもさっそく、放射能拡散情報の情報隠ぺいが発覚したが、なぜ、情報を隠すのかは、住民のパニック防止といった単純な理由だけではない。原発が事故を起こすというのはどういうことかがよくわかる一冊。
鎌田 慧「原発列島を行く」、集英社(2001)
鎌田さんワールドの本。現在のエネルギー政策の矛盾は、国のあり方のひずみである。東京電力が当事者能力を失った今、エネルギー政策が元の鞘に収まることはないだろう。その時に、何が起こるかが手に取るようにわかる本。
最後に、社会的(個人的)な観点から、いま起こっていることを理解したい人には、広河隆一さんの本をお奨めしたい。今、市民が読むべき本として、一番、お奨めなのはこの本。
広河 隆一「チェルノブイリ報告」、岩波書店(1991)
1986年に起こったチェルノブイリの事故のその後を、取材を重ね、書かれている。今回の事故が現状で収束しても、構造的には同じことが起こるのではないかと思われる。そして、この構造は、風評などもあっておそらく事故の規模には単純に比例するものではない。市民目線から、原子力プラントが事故を起こすというのはどういうことかを理解するために、読んでおくといい本。ただし、絶版で、アマゾンでは古本は軒並み2千円以上。
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