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2011年2月 5日 (土)

「マネジメントという営み」を解く(2/2)

4822248364 ヘンリー・ミンツバーグ(池村千秋訳)「マネジャーの実像 「管理職」はなぜ仕事に追われているのか」、日経BP社(2011)

 

(前半はこちらです)

マネジャーの仕事には、

・どうして、もっと広い視野でものをみられないのか
・どうして、もっと権限委譲を行えないのか
・どうして、組織階層の下から上に情報が伝達されないのか

といった疑問がついて回る。このような疑問の根底にあるのはマネジャーの仕事には本質なジレンマがあることだ。ジレンマの中で折り合いをつける必要があることが、マネジャーの仕事を難しくしている。

ミンツバーグは、マネジャーのジレンマを13に分けている。

・思考のジレンマ:「上っ面症候群」、「計画の落とし穴」、「分析の迷宮」
・情報のジレンマ:「現場との関わりの難題」、「権限委譲の板ばさみ」、「数値計測のミステリー」
・人間のジレンマ:「秩序の謎」、「コントロールのパラドックス」、「自信のわな」
・行動のジレンマ:「行動の曖昧さ」、「変化の不思議」
・全体的なジレンマ:「マネジャーにとってのジレンマ」、「私にとってのジレンマ」

説明しなくても想像のつく、なかなか、印象深いネーミングである。このうちのいくつかはシステム思考の原型にもなっており、かなり、本質的なジレンマである。

最後の章では、マネジメントの失敗事例を元に、マネジャーの選考、評価、育成の3つの問題について論じている。

マネジメントの失敗のパターンには

・本人の資質が原因の失敗
・職務内容が原因の失敗
・適材適所でないことが原因の失敗
・成功が原因で生まれる失敗

などがある。このような失敗と成功がなぜ起こるかを考えるには、タペストリーを織りなす5つの「糸」のメタファが有効である。5つとは

・振り返りの糸
・分析の糸
・広い視野の糸
・協働の糸
・積極行動の糸

である。さらにここに、

・個人的なエネルギーの糸
・社会的な統合の糸

を加えることもできる。この章ではこのメタファにもとづいて、選考、評価、育成の議論をしている。

その中で、「自然」なマネジャーの育成について論じている。マネジャーを自然に育成できれば、マネジメントが自然におこなわれるのではないかという仮説に基づくものである。自然に育成するために求められる姿勢の要点は

・マネジャーは教室ではつくれない
・マネジメントとは、さまざまな経験や試練を通じて仕事の場で学ぶもの
・マネジャー育成プログラムの役割はマネジャー自身の経験の意味を理解する手助けをするもの
・マネジャー育成の取り組みは、マネジャーが学習の成果を職場に持ち帰り、組織に好ましい影響を与えることを目指すべき
・マネジャー育成に関わる活動はすべて、マネジメントという行為の性格に沿って構成すべき

などである。

自然にマネジメントをおこなうカギになるのがコミュニティシップである。

組織を得体の知れない階層の積み重なりと考えるのではなく、積極的に関わりある人々のコミュニティとみなすことほど、自然な発想はない。そのようなコミュニティでは、誰もが敬意を払われ、ほかの人たちに敬意を払う

と指摘する。そして、コミュニティの中で

マネジメントを成功させるためには、人々を関わらせ、自分自身が関わること、人々を結び付け、自分自身が結びつくこと、人々をサポートし、自分自身がサポートされることが必要である

と結論している。

本論は、ここまでで、最後に、付録として8ケースの観察の記録が採録されているが、本論の読み返しながら、この記録を読んで見ると実に面白く、有益であった。

この本では、文脈の中でおおよそ、考えられる文献は引用され、論が構成されている。その文献の年代が極めて広範である。だからといって、それらは過去の説として引用されているわけではなく、新たな知見は加わっても、今でも通用するものばかりである。

つまり、ドラッカー以来、50年以上の間のさまざまな知見を一つのタペストリーとして折り込んだのが本書なのだ。ミンツバーグはこの本の中で何度か、

私たちは変化しているものしか目に入らない。しかし、ほとんどのものは昔と変わっていない

と述べている。昨年はドラッカーの「マネジメント」がブームになった。多くの人は今なお、ドラッカーを読んで感激し、目からウロコが落ちるという。まさにマネジメントのほとんどは昔と変わっていないのだろう。それは、人間の活動を扱うものだからだろう。

この本を読んでいると、新しいマネジメントの手法だけに価値があるわけではなく、「基本」があるから、新しいものに価値があるということを痛感させられる。

 

 

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