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2011年2月28日 (月)

シックスシグマからデザインへ

4152087994 奥出 直人「デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方」、早川書房(2007)

お奨め度:★★★★1/2

デザイン戦略やデザイン思考について勉強しようとしたら、まずはこの本だろう。古くから、デザイン思考について実践的な研究を続けてきた著者の書いたデザイン思考の解説書。哲学、ビジョンをしっかりと説明しながら、自らが実践するデザイン思考のフレームワークである「創造の方法」について紹介している。

最初にこの本では、興味深い思考実験を行っている。GEで名経営者の名をほしいままにしたジャック・ウェルチが引退し、ジェフ・イメルトがCEOの座についた。そして、2004年から毎年、2桁の成長を実現してきた。その理由を聞かれたイメルトは、成長分野の発見と高い技術力の賜物だ。特に、環境分野では、「エコマジネーション」というプロジェクトを発足させ、利益を上げながら環境負荷を減らすことに成功したとも答えたそうだ。

一方で、トヨタ方式とシックスシグマを取り入れた「リーン・シックスシグマ」という方法で経営し、コスト削減とリードタイムの短縮を両立したという。

このような経営を2005年の「日経ビジネス」は

GEは高い利益を貪欲に求める軸を持ちながら、どの市場に入るかという高所からの分析と、自社の人材と技術の開発という地道な活動を妥協なく続けている

と分析した。つまり、経営者が意思決定するときに、しっかりとした基礎研究を行い、技術を磨き、よき人材を育て、顧客の意向をよく聞き商品開発を行うことが大切だという価値観に立脚している。

これに対して、著者はそんなに単純な話なのだろうかと疑問を投げかけている。

そして、同時期のフォーブスの「The Next Big Business Up the World GE Goes Green」という記事を紹介している。GEの顧客であるエネルギー会社、重工業会社、鉄道会社などはいずれも、環境を破壊しているとして消費者から嫌われていた。それが悩みだったが、それならと、GEは環境を浄化する仕事をして顧客やその先の消費者から喜ばれようとした。そのために、顧客の意向を調査し、イノベーションとイマジネーションに正面から取り組んだ。それこそが、「エコマジネーション」で、大きく売り上げを伸ばした。

イメルトの採用した方法こそが、デザイン思考である。「エコマジネーション」のために、マネジャーたちには、消費者の視点でものを考え、研究と市場にニーズを結びつけるプロジェクトを立案して責任をとるように要求した。そして、そのイノベーションの方法はシンプルであり、CENCORと呼ばる以下のプロセスであった。

(1)ステップ1:観察
(2)ステップ2:仮説構築
(3)ステップ3:デザイン
(4)ステップ4:市場での検証

本書で著者が提案しているのも基本的には、デザインによりイノベーションを起こす方法「創造の方法」である。「創造の方法」を説明する前に、本書の言葉の定義を紹介しておく。デザイン思考は、いま、起こっている「知識」や「生産性」に代わって経営資源として「創造性」を使う動きの中核をなすものである。デザイン思考の背景になるのは、デザインプロセスである。デザインプロセスはデザイナーの自分が普通に暮らしている日常世界を他者の目で眺めるところから始め、何か新しいアイデアを思いついたらそれを表現する構成を考え、さらに最終的なスタイルを決定するという一連のプロセスであり、デザイン思考とデザインプロセスを経営戦略のかなめとして用いるのがデザイン戦略である。

著者は、デザインによるイノベーションのプロセスとして、「創造の方法」を提唱している。創造の方法はプロセスとプラクティスからなる。

創造の方法のプロセスは、

(1)社会的背景や哲学的背景を踏まえてものづくりの考え方、作り手の問題意識を表す「哲学」を考える
(2)具体的に何を作りたいかビジョンを決める
(3)技術の棚卸をする
(4)フィールドワークをする
(5)どのようなものを作りたいか、コンセプトを決め、モデル化する
(6)機能やインタラクションを検討しながら、デザインを行う
(7)実証する
(8)ビジネスモデルを構築する
(9)運用(オペレーション)をする

というものである。このプロセスを回していくのに、

(1)経験の拡大
(2)プロトタイプ
(3)コラボレーション

の3つのプラクティスを身につけ、使っていく必要がある。そして、

(1)トータルデザイン
(2)ソリューション
(3)ダイナミックデザイン

の3つの作業をしていく。これらの作業で、創造の方法は、反復型である。つまり、システム要件が明確でなくても、まず、開発に入り、設計、実装、テストを短い周期でシステムの品質を高める方法が「創造の方法」である。

実際の創造においては、ラリー・キーリーの示したイノベーションを評価する10の指標が役立つ。

(1)財務的イノベーション
・ビジネスモデル
・ネットワークおよび、他社との連携
(2)プロセスイノベーション
・実現プロセス
・コアプロセス
・(3)商品やサービスのイノベーション
・パフォーマンス
・プロダクトシステム
・サービス
(4)デリバリーのイノベーション
・チャネル
・ブランド
・顧客体験

の10個の指標を評価すればよい。

この本が書かれた背景には、ビジネスウィークの2005年8月号で、もはや、生産性では利益は上がらず、従来の経営方法では生産性に直接関係しないと思われていた「創造性」に着目せよという指摘がある。この中で、戦略は

第1段階:技術と情報がコモディティ化とグローバル化を引き起こす
第2段階:コモディティ化に伴う空洞化、アウトソーシングの時代
第3段階:デザイン戦略がシックスシグマを代替し始める
第4段階:創造的イノベーションが成長を促進する
第5段階:新しいイノベーションDNAを持つ企業が勃興する社会

という変遷をたどるとし、現在は、第3段階に差し掛かっている。この流れを見ればわかるように、この段階はマインドセットの変革が求められる、ある意味でもっとも難しい段階である。この本はその変革の水先案内になるだろう。

 

 

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