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2011年1月 3日 (月)

「思い」を実現するマネジメント

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一條 和生、徳岡 晃一郎、野中 郁次郎「MBB:「思い」のマネジメント ―知識創造経営の実践フレームワーク」、東洋経済新報社(2010)

お奨め度:★★★★★

目標管理(MBO)を補完する新しいコンセプトのマネジメント手法MBB(Management by Belief)=「思いのマネジメント」について、概念化し、ベストプラクティスを紹介しながら解説した一冊。MBOを左脳マネジメントとし、その限界を明確にし、新たに、右脳マネジメントとしてのMBBを提案している。

本書の問題意識は相互に関連しあう2つである。一つは、MBOの限界であり、もうひとつは著者たちが古くから唱える知識創造理論の実現を実現する人事マネジメントはどうあるべきかという問題だ。つまり、MBBを実践することが知識創造を促進し、MBOの弱点を補完するという構図になっている。

まず、MBOの限界とは何か。

MBOがいかに論理的であっても、具体的であっても、そこに働く人の思いや顧客や社会、さらには地球や人類に対する思いがなければ、成果は数字上のものではなく、イノベーションや創造性もつまるところは株価や利益の手段でしかなくなる。この結果、創造性そのものが価値のあるような世界は排除されてしまう(p23)

というのが本書の指摘である。今、疲弊している企業のマネジメントは、働く人、ひとりひとりの思いを実現することこそが重要であり、そのための仕組みがMBBだと主張する。つまり、MBBとは

会社の目標や組織の背景にある経営陣や上司との思いを、自分自身の仕事やキャリアに対する思いをぶつけ合う「創造的対話」によって、会社にとっても自分にとっても意味のある業務上の目標を見いだし、それを設定して、実行すること(p25)

と定義される。知識創造との関係でいえば、仕事への思いこそ、知を創る原動力である。知識創造のSECIモデルを回し、より高質な知、普遍的な価値、真理を追求する。そして、共通善(Common Good)に到ることばMBBの目的である。

そのためには、ひとりひとりが、「自分が何をしたいのか」、「何をすべきなのか」、「何が正しいのか」を「主観をぶつけ合う」というディシプリンで実践していくことが重要である。

MBBにより、高質な思いを持つ社員のいる会社は自ずとパフォーマンスが高くなる。それは

・自律自走型で、あきらめないプロデューサー型社員の誕生
・行動・体験・実践重視
・考える組織、常識を疑う組織、コンプライアンス志向の組織
・自らの枠を壊し横串で仕事を改革する大きな当事者意識

などによってもたらされる。

このような理論の具体的な実践知として、

・アウディデザインパートナー 和田智さん
 「美しいものは人を幸せにする」
・サイバーエージェントコーポレートIT部シニアマネジャー 西村規子さん
 「いい仕事をしたいという思いをぶつけ合う」
・ユナイテッド・シネマ 宮田昌紀さん、内橋洋美さん
 「ビジョンを本当に実現しよう」

などの興味深いストーリーが紹介されている。

自分の主観を育むには、思いをいろいろな形で発展させることが大切である。そのためには、ストーリー化する、つまり、自分の将来イメージを膨らませることが重要である。つまり、「未来は自分で創造する」という実存主義的なスタンスが必要で、そのスタンスを可能にするのが

・仮説思考
・シナリオ思考
・アプダクション

などの思考法であり、これらの思考法を身につける。同時に、常に問題意識を忘れないことも重要であり、問題意識リストを作るとよいだろう、

組織の中で実際にMBBを実践しようとすると、MBB単独でということにはならない。経営計画からの左脳のプログラムが前面にある。MBBはその背後で、その質を高め、個人が主体的に左脳プログラムに参加できるようにすることが役割になる。現実には、左脳プログラムに個人の思いが介在する余地は少ない。そこに、仕事をへの思いを差し込むには、

・なぜ、そういう経営目標を目指すのか
・なぜ、それが正しいのか
・どういう世界観を実現しようとしているのか

といった根源的な「問い」をおろそかにせず、自分のやることに対して意味づけをすることが重要である。そのため、MBBでは、上位者は目標をブレークダウンして個人に割り付けるのではなく、思いを伝え、部下にそれを具体的な目標案として提案させることが必要である。

このようなマネジメント活動のポイントになるのが、チームコーチングである。また、SECIモデルで、「いかに自分なりの、もしくは組織なりの知が創造できたか」をフォローしていくことが求められる。

このようなマネジメントの実践知として

・星野リゾート 星野佳路さん
・レコフグループ 吉田允昭さん
・日本エマソン 三島大二さん

などの事例を紹介している。

さらに、本書ではMBBとMBOの具体的な統合の方法の枠組みを提案している。

まずは計画ステージである。MBOではビジョンと経営戦略の策定を行う。この際に、MBBトップセッションをもち、経営トップ層の思いや、信念を確認する。

さらに、年度計画や部署のコミットメントが決められる。ここでは、MBBのミドルセッションを持ち、経営トップの意図を反映したミドルアップダウンでの方策の決定や具体化を行う。

最終的にはMBOは個人目標設定を行うが、ここではMBB面談、セルフコーチングなどの手法で、「しみじみとした」目標設定をする。

次に実践ステージでは、MBOはプロセスを決定し、プロセス評価をし、業績の計測をするが、MBBでは、ここでもMBBセッションなどの方法で、

・コミットメントの醸成
・思いの達成度確認
・新たな気づきや思いの育成

に取り組む。また、これらの活動を人事制度として確立することも重要である。

ここで個人レベルでみたときに「しみじみ感」が一つのポイントになる。しみじみ感のある思いを出すには、以下の5つの問いに答えることが必要になると指摘する。

・WHAT
・背景
・ストーリー
・しがらみ
・ポリシー

概念的な話から始まり、具体的な実践知、MBBセッションやチームコーチングの進め方など、実践的な話まで「思い」を込めて書かれている一冊である。とくに、この議論で常に壁になる、組織との折り合いの付け方について相当踏み込んだ議論をしており、気付くことも多い。

MBBという言葉にひっぱられることなく、自分の「主観」を大切にして仕事をしたいと思っている人には、一読をお勧めする。きっと著者達の思いが背中を押してくれると思う。


 

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