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2011年1月 4日 (火)

難局を乗り切るリーダーシップ

4820119575 ビル・ジョージ(梅津 祐良訳)「難局を乗り切るリーダーシップ―ハーバード教授が教える7つの教訓」、生産性出版(2010)

お奨め度:★★★★1/2

メドトロニック(世界最先端の医療テクノロジー企業)のCEO在任中の12年間に時価総額を11億ドルから600億ドルに高め、“Executive of the year”や“Director of the year”等に選出され、現在はハーバードビジネススクールの教授である著者が、難局におけるリーダーシップについて7つの教訓(レッスン)をまとめた一冊。一般的なリーダーシップではなく、難局におけるリーダーシップを、多くの知人やビジネススクールのケースなどを通じて得た教訓だけに気付かされることが多い。

話は変わるが、2011年の箱根駅伝は早稲田大学の18年ぶりの勝利で幕を閉じた。今年度の大学駅伝三冠で、見事な勝利だ。中継の中で所々で語られる早稲田の渡辺康幸監督のこれまでの苦難の道を聞いていると、ビル・ジョージ教授の苦難のリーダーシップ論を思い出した。渡辺監督が早稲田の監督を引き受けた2004年当時、早稲田は箱根ではシード権もとれず、予選落ちも危惧されるような状況だった。その現実を知るOBからの反対を押し切って、監督に就任する。そこから、リーダーシップを発揮し、7年目の今年、出雲、全日本、箱根の三冠を達成したのは見事の一言に尽きる。

本書で紹介されているビル・ジョージ教授の得た教訓は、次の7つである。渡辺監督のたどって来た道と重ね合わせながら、紹介していこう。

教訓1:あなたを取り巻く現実を直視する
危機の現実に向き合い、あなた自身が原因となって生み出すこともある深刻な問題に直面していることを自覚する。これが解決のスタートになる。

渡辺監督は就任当初練習の強化による方針の失敗で故障者の増加を招いて苦しんだが、合宿所で選手と寝食を共にしながら選手が継続的な練習が行なえるように方針を変更する。量だけを求める練習を良しとせず、現実的な動機付けと目標設定を重視した練習に切り替えた。「自ら育つチーム」を目指した。

練習の強化で故障者が増え、チームが弱くなることは、チームの現実であり、渡辺監督自身の原因でもあったわけだ。

教訓2:すべてをあなた一人の肩に背負うべきではない
自分一人ですべての問題を解決することは不可能である。あなたの組織のだれかか、個人生活に関わりのあるだれかと連帯して、その負荷を分かち合い、あなたが勝者になることを支援して貰うとよい。これはあなたのチーム内の調和を生み出す絶好の機会となる。もっとも強力な連帯は危機状況で生み出されるからだ。

渡辺監督は、監督就任時に一緒に戦うコーチやトレーナーを新たに招いた。彼らと連携することはもちろんであるが、練習の方針を変えたあたりから、選手との連携を意識するようになったのではないだろうか。もちろん、それがチーム内の調和になることはもちろんである。実際に、2年続けてシード権が取れず、3年結果が出ないと責任問題だという意識を持ったそうである。ここが最大の危機だと思われるが、チームはまとまり、3年目にはシード権を得ている。

教訓3:問題の原因を深く掘り下げる
危機状況からのプレッシャーのもとでは、即効性のある解決策に飛びつきたくなる。その結果、問題の真の原因を見逃し、あなたの組織が同じような危機状況を繰り返しがちだ。問題をきちんと解決する最善の方法は、根本的な原因を理解した上で、恒久的な解決法を推進することだ。

渡辺監督が、練習の強化による選手の故障、そして、チームの弱体化という問題に直面したときに行ったことは、まさにこれだと言える。根本的な原因は選手のスキルの低さではなく、継続的なスキルアップをすることへのコミットメントの弱さであり、これに気付いた渡辺監督は、練習の量を求めることから、自発的な練習による質の向上を目論んだわけだ。

教訓4:長期戦に備える
大きな問題に遭遇したときに、氷山の一角をみて深刻な問題だと思わないことがよくある。多くの場合、問題はさらに深刻であり、危機を乗り越えるためには、最悪の事態を見越して、長い戦いに備えておく必要がある。

渡辺監督の監督就任時の状況はまさにこうではなかったかと想像する。選手のスキルが低く、思うように結果がでないことが問題だと思った。しかし、問題はもっと深いところにあり、体質の問題があった。そこで、長期戦に切り替え、目標管理と、動機づけによる体質改善に取り組んだ。

教訓5:危機状態からの学習を無駄にしない
あなたの直面する危機は、あなたの組織に大改革を実現する絶好の機会をもたらす。

渡辺監督の改革は、少しずつ、結果が出てくるとともも、大きな変化になっていった。個々の選手が目標を持ち、自主的に目標をクリアしていくための工夫をしているようだ。これが、試合にでない選手にまで浸透しているとのことで、まさに、チームが大きく変わっていったということで、これは4年生が卒業しても、ずっと引き継がれている財産だといえよう。


教訓6:あなたがスポットライトを浴びているなかで、どのようにキャリア上の真の目的を追求することができるのか

自らの真の目的に向けて進む。危機時には、ステークホルダはあなたに注目しているし、いろいろと介入がある。そこで、自分自身の真の目的に従うのか、プレッシャーに負けて妥協を化させるかがキャリアの分かれ目になる。

はっきりしたことは分からないが、早稲田のような伝統校では、特に危機時には指導者に対する注目は凄いと想像される。その中で、早稲田を復活させるという目的をもち、成績がでない中でも自分のやり方を信じてついに結果を出した渡辺監督は、まさにキャリア上の真の目的を達成できたといえる。


教訓7:攻撃に転じ、勝利を目指す
危機を脱したときには、周囲の環境は危機に突入したときとは変わっている。そこで、あなたが有利になるように環境を再編していく必要がある。

今年の早稲田を見ていると、大人のチームという感じが強い。ひとりひとりが明確な目標を持ち、それを大舞台で確実に達成していく。「汗のしみこんだたすきリレー」に象徴されるメンタルな面が強調されがちな箱根駅伝であるが、早稲田のスタイルは新しいスタイルだと思う。数年前からこのようなスタイルを目指していたように思えるが、昨年まではブレーキがあった。今年はなくなり、その意味で一応の完成を見たといえる。このスタイルがこれからの大学駅伝のスタイルになるとすれば、早稲田は単に今年優勝しただけではなく、一歩、先んじたことになる。

これからのリーダーに求められるのは、早稲田・渡辺監督のようなリーダーシップである。そのようなリーダーシップを身につけるために、本書は非常に参考になることは間違いない。

なお、本書と一緒に読んでみてほしい本がある。


4820717316 渡辺 康幸「自ら育つ力 早稲田駅伝チーム復活への道」、日本能率協会マネジメント

センター(2008)渡辺監督のシステムを詳細に紹介した本であり、上に述べたそれぞれの教訓を活かしたリーダーシップの発揮方法において、参考になることが多いと思う。

 

 

 

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