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2010年8月22日 (日)

ESとCSと業績のエンゲージメント

4532316081 稲垣公雄、伊東正行「エンゲージメント・マネジメント戦略」、日本経済新聞出版社(2010)

お奨め度:★★★★★

この1~2年、課長本とか、マネジャー本、マネジメント本が続々と出ている。たくさん、あるのだが、「これで決まり!」という本がない。分野を区切ればとりあえず、「この本がお薦め」という本が存在するものだ。

例えば、戦略に関していえば清水勝彦先生の「戦略の原点」、意思決定に関していえば、昨年のAwardに選んだ「決めるマネジメント」をお薦めしている。動機づけに関していえば、最近話題になっているダニエル・ピンク氏の「モチベーション3.0」がその一冊だろう。リーダーシップであれば、ずっとマーティ・リンスキー氏の「最前線のリーダーシップ」をお薦めしていたが、今年の4月にジェームズ・クーゼスの「リーダーシップ・チャレンジ」が出たので、今はこちらを奨めることにしている。人間力に関していえば、ヘンリー・クラウド氏の「リーダーの人間力」だ。

しかし、マネジメント全般、あるいはマネジャー本で何がお奨めですかと聞かれると、答えに窮する。今、ドラッカーブームなので、「マネジメント - 基本と原則」という答えもあるかもしれないが、この本はそういう性格の本でもないように思え、帯に短く襷に長しの状況。

そんな中で、これが良いかもしれないと思わせる1冊。


■エンゲージメントとは何か

テーマは「エンゲージメント・マネジメント」。エンゲージメント、つまり、「従業員の一人ひとりが、組織に対して、ロイヤリティを持ち、方向性や目標に共感して、「心からの愛着」を持って、絆を感じている状態」を作ることで、エンゲージメントを高めることに成功した企業のみが、ES(従業員満足)やCS(顧客満足)を企業の業績に結びつけることができるという主張をした上で、エンゲージメントができるマネジャー(エンゲージメントマネジャー)はどのような特徴、行動特性、価値感を持つかを明確にしている。さらに、エンゲージメントマネジャーになるには具体的に何を実践すればよいかを提言している。


■CSとESの不思議な関係とエンゲージメント

本書では、エンゲージメントが必要だという背景としてCSとESとパフォーマンス、業績の関係について、具体的な調査結果に基づいて言及している。まず、CSと業績の関係については

CSの向上
 →ロイヤリティの向上
   →取引量の増加
     →業績の向上

という一般的な認識で、ロイヤリティの向上が取引量の増加に結びつくには3つの取引特性があると述べている。

特性1:継続的な取引
特性2:追加的な取引
特性3:口コミ

次に、CS戦略の上で重要とされるESと業績の関係であるが、

ESの向上
 →意欲が高まる
   →パフォーマンスが高まる
     →業績が向上

という一般的な認識があるが、ESと意欲、意欲とパフォーマンスのロジックも条件があるように思える。そこで、リッツカールトン、亀田メディカルセンター、伊那食品工業の事例に基づき、どのような関係があるかを検討している。

ここで注目すべき事実として、一般にいわれているように、ES向上がCS向上につながるという説は必ずしも正しくないことを指摘。ある企業で拠点毎にESとCSの調査をしたところ、無関係であることを確認している。一方で、ESとCSの両方が高い拠点は高い業績を示している。これより、ESとCSは戦略的にさまざまな取り組みを連携させながら取り組んでいく必要があり、CSとESを同時追求を可能にするエンゲージメント戦略とマネジメントが必要だとしている。


■エンゲージメントマネジメントモデル

ではエンゲージメントマネジメントはどのようなモデルで行えばよいのか。ポイントは以下の4つである。

(1)二重ループ構造
ES向上
 →商品サービスの質の向上・提供量の拡大
  →CS向上
   →業績向上
    →ES向上
というプールと
ES向上
 →商品サービスの質の向上・提供量の拡大
  →CS向上
   →ES向上
の2つのループが存在する。
(2)広い意味でのCS向上
(3)ES向上の4つの要素
やりがいや達成感/仕事を通じた満足感/モチベーション・やる気/スキル・知識の向上
(4)チーム力と使命感の醸成


■エンゲージメント戦略の共通要素

つぎに、エンゲージメントマネジメント戦略の事例として、「ネッツトヨタ南国の全従業員を勝利者にする経営の実践」、NTTデータの「ビジョン再構築による企業風土変革」の分析も踏まえて、戦略として

(1)CSを中心にしたビジョンの(再)定義と徹底した共有
(2)人材育成・評価のプログラムの見直し、注力
(3)個人ナレッジを組織ナレッジに変える仕組み
(4)顧客視点・現場視点での業務の改革
(5)エンゲージマネジャーの育成

の5つがあることを指摘している。そしてそれぞれについて、具体的な方策やポイントを挙げている。


■エンゲージメントマネジャー

戦略の中でキーになるのは、エンゲージマネジャーの育成である。本書の後半はこの問題を具体的に述べている。まず、ダメマネジャーの20の特性を説明したのちに、エンゲージメントマネジメント企業のマネジャーの行動事例を通じて、エンゲージメントマネジャーのイメージを示した上で、特徴などを示している。

まず、特徴は3つ。

(1)しっかりしたビジョンを持ち、実践的に仕事をしている
(2)話を聞き、必要に応じて解決に向けて動いている
(3)責任感、人間への配慮、個人のプライドの適切なバランス

次に特性だが、行動特性、仕事のスタンス、価値感について以下のような特性を持つ。
(1)4つの行動特性
・ぶれない信念・ビジョンを持ち、部下に伝え、実践する
・決断、意思決定力、部下に命じ、部下に任せる
・話を聞き、褒めて叱るコミュニケーション
・上、横との調整力、交渉力
(2)3つの仕事のスタンス
・業務/顧客/現場感覚への理解と共感
・目標達成へのこだわりと割り切り
・部下・同僚の一人ひとりへの成長へのこだわり
(3)3つの本質的価値感
・人間への関心/理解力
・人間的明るさ/論理的思考力
・責任と前向き意識/欲求

調査によると、エンゲージメントマネジャーは全体の22%であり、現状ではそれ以外のタイプのマネジャーが多い。そのタイプは、「ビジョン・実践力」、「コミュニケーション・実践力」を軸にして以下の5つに分け、それぞれについて課題を明確にしている。

(1)エンゲージメントマネジャー
・「ビジョン・実践力」、「コミュニケーション・実践力」とも強い
・平均以上の成果
(2)オールドタイプマネジャー
・「ビジョン・実践力」は高いが、「コミュニケーション・実践力」に課題
・平均以上の成果
(3)新人類マネジャー
「コミュニケーション・実践力」は強いが、「ビジョン・実践力」が弱い
(4)自己中心的マネジャー
「ビジョン・実践力」はやや強いが、「コミュニケーション・実践力」が弱い
(5)全体課題マネジャー
・「ビジョン・実践力」、「コミュニケーション・実践力」とも弱い
・平均以下の成果


■エンゲージメントマネジメントの実践課題と具体策

最後に、マネジャーの課題も踏まえて、エンゲージメントマネジメントの実践課題を整理し、具体的な方策を述べている。

(1)空気をつくる
(2)部下視点で、ビジョンを示し、目標設定をする
(3)部下の一人ひとりを把握して、声をかける
(4)自分自身も実践する
(5)基本的スタンスや価値感を見直す

そして、それぞれについて具体的な取り組みを述べている。例えば、(1)の空気をつくるであれば

・あいさつをする
・笑顔ですごす
・できないことを素直に認める

といったことである。

エンゲージメントマネジメントが万能のマネジメントの考え方だとは思わないが、この本で提唱されている、エンゲージメントマネジャーは、マネジャーに必要なおおよその要素を持ち合わせた人材であるように思える。その意味で、マネジメントの本としてこの本を薦めるというのはありかなと思う。

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