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2010年7月29日 (木)

自分をドライブ!する(読書会あり)

4062144492 ダニエル・ピンク(大前 研一訳) モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」、講談社(2010)

お奨め度:★★★★★

内発的動機について、過去の研究、自身の考察、事例などを踏まえて、「モチベーション3.0」として体系的にまとめた一冊。

内発的動機づけは、何となく気になる概念であり、いろいろな本で、いろいろな研究者の説が引き合いに出されることが多い。古くは、エドワード・デシのソーマキューブの実験であったり、マーク・レッパーのモチベーションと報酬、ポジティブ心理学の流れからミハイ・チクセントミハイのフロー理論であったりする。あるいは、事例として、3Mの15%ルールやグーグルの20%ルールなど、一つ一つの説や事例はなかなか、インパクトがあるが、その関係性や、関係性を踏まえた動機づけ方法となると、はっきりしない。そんな状況の中で、今までの内発的動機研究の流れを整理し、自律性、マスタリー(熟達)、目的という3つの要素に拠り所を体系化し、モチベーション3.0を高めるには、個人や組織は何をすればよいかまで言及した、内発的動機づけに関するバイブル的な一冊である。


まず、この本では、モチベーションをOSになぞらえ、3つのバージョンに分けている。

モチベーション1・0:生存(サバイバル)を目的としていた人類最初のOS
モチベーション2・0:アメとムチ=信賞必罰に基づく与えられた動機づけによるOS
モチベーション3・0:自分の内面から湧き出る「やる気!=ドライブ!」に基づくOS

の3つだ。そして、ルーティンワークですばらしく機能してきたモチベーション2・0は、創造性が求められる社会では機能しなくなり、その代わりに活気ある社会や組織をつくるための新しい「やる気!」の基本形になるのがモチベーション3・0という位置づけがなされている。

まず、モチベーション2・0、つまり、アメとムチがどうして時代に合わなくなってきたかを説明している。それによると7つの理由がある。
(1)内発的動機を失わせる
(2)かえって成果が上がらなくなる
(3)創造性を蝕む
(4)好ましい言動への意欲を失わせる
(5)ごまかしや近道、倫理に反する行為を助長する
(6)依存性がある
(7)短絡的思考を助長する

一つひとつに例や過去の研究における実験結果を取り上げ、説明している。ただし、興味深いことに、モチベーション2・0の「バグ」を指摘している2章には、補章が設けられており、モチベーション2・0がうまく機能する「特殊な」状況について述べられている。まず、ルーチンタスクに対しては
・その作業が必要だという論理的な根拠を示す
・その作業は退屈であること認める
・参加者のやり方を尊重する
の3つを実現することだ。そして、指示以上の成果を期待するなら、条件つき報酬に対する工夫が必要で、
・具体的でない報酬を検討する
・有効な情報を与える
の2つを実践することである。このような考え方は、内発的動機付けの構成要素、自律性、マスタリー、目的につながっていく。

ここで、モチベーションに対応する行動特性の定義をしておこう。モチベーション2・0の前提としているのは、タイプXという行動特性で、内部からの欲求というより外部からの欲求によってエネルギーを得る。つまり、活動から自然と生じる満足感ではなく、その活動から得られる外的な報酬と結びついた行動である。これに対して、モチベーション3・0の前提は、外部からの欲求よりも内部からの欲求をエネルギーの源とし、活動によって得られる外的な報酬よりも、むしろその活動そのものから生じる満足感と結びついている。このような行動をタイプIと呼ぶ。すると以下のようなことがいえる。

・タイプIの特徴は後天的に作ることができる
・タイプIはほとんどの場合、長期的にはタイプXをしのぐ成果を上げる
・タイプIは金銭や他者らの評価を軽視しているわけではない
・タイプIの行動は再生可能な資源である
・タイプIの行動は、肉体的にも精神的にも大いに満足できる状態をもたらす

そして、タイプIの行動は「自律性」、「マスタリー」、「目的」をよりどころとしている。

モチベーション3・0とタイプIの中心は、自己決定性であり、人間の性質が本来自律的であるという自己決定理論の考えの中核になるものである。ここで自律は独立とは異なり、選択をして行動することを意味している。つまり、他者から制約を受けずに行動できるし、他者と円満に相互依存もできるということだ。また、モチベーション2・1ともいうべき権限委譲と自律は違うことにも注意する必要がある。権限委譲は組織の持つ権限を少しだけ個人に分け与えるという考え方である。

タイプIの行動は4つのT、課題(Task)、時間(Time)、手法(Technique)、チーム(Term)に関して自律性を得たときに現れる。

自律性を養うためには、人間は本来責任を果たすことを望んでいると考え、4つのTを確実に任せることが早道である。

次に、モチベーション2・0では自律の反対の統制を行う。統制においては従順に、自律においては、関与(エンゲージメント)へと導かれる。この相違により、タイプIの行動にはマスタリーがもたらされる。マスタリーとは何か勝ちのあることを上達させたいという欲求である。

マスタリーには3つの法則がある。

(1)マスタリーは心の持ち方次第(マインドセット)である
(2)マスタリーは苦痛である
(3)マスタリーは漸近線である

タイプIの行動の3つ目の構成要素は目的である。目的は、自律性とマスタリーのバランスを保つために必要であり、この2つの背景になるものである。マスタリーを目指す自律的な人々は非常に高い成果を上げる。だが、高邁な目的のためにそれを実行する人々はさらに多くを達成でき、また、高い満足を得る。

目的は、目標、言葉、指針という3つの領域で見て取ることができる。ここで、指針とは、企業が語る言葉を、目標に変換するために実行すべきことである。

第3部では、第2部までの議論に基づき、ツールなどが紹介されている。まず最初は、個人向けのツールで、モチベーションを目覚めさせる9つの戦略。
・フローテストを受けてみる
・まず大きな問いかけをする
・次に小さな問いかけをする
・サギマイスター(まとまった休暇)を取る
・自分自身の勤務評定を行う
・オブリーク・ストラテジーズで行き詰まりから抜け出す
・マスタリーへ近づく5つのステップを実行する
・ウェバーに倣い、カードを使う
・自分用のモチベーショナル・ポスターを作る

次に、組織向けのツールで、会社、職場、グループの能力を向上させる9つの方法。
・補助輪つき20%ルールを試してみる
・同僚間で思いがけない報酬を推奨する自律性をチェックしてみる
・コントロールを手放す3つのステップを実行する
・目的は何かと問いかける
・ライシュの代名詞テストを実施してみる
・内発的動機付けを利用するシステム設計をする
・グループでゴルディロックスの仕事法を促進する
・オフサイトミーティングの代わりに、フェデックス・デーを設ける

このほかにもアペンディックスのような感じで

・タイプIの報酬
・子供を助ける9つのアイデア(保護者・教育者向けツール)
・お奨め書籍
・意見を聞きたい6人のグル
・フィットネスプラン
・概要

といった資料がある。

その中に、ちょっとびっくりした資料がある。それは、ブッククラブ(読書会)のディスカッション用の20の質問リストが掲載されていることである。そして、それは本書やモチベーション3.0を理解し、動機づけをしていく上で実に的確なものだと思われる(あたり前!)。逆説的に考えると、著者はこれらの20の質問に対して、明確な答えを持っているが、本書には明確に書いていないということになると思われる。つまり、それは読者が考えろということであり、まさに、内発的動機を持って、考えながら読む本であるということを強く訴えているように思える。

実は、以前からこの本で使われている内発的動機「づけ」という言葉に多少違和感を持っている。内発的動機は「つける」ものなのか?この疑問に対するダニエル・ピンクの言葉がアペンディックス、とくに、ブッククラブ用の質問リストにあるのではないだろうか。


◆読書会のお知らせ

9月25日(土曜0にこの書籍の読書会を開催します。詳しくは、こちらをご覧ください。

ビジネス書の杜 第2回おとなの読書会(モチベーション3.0)

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