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2010年4月11日 (日)

ポジティブの探究

4093878633 金井 壽宏編著『 「人勢塾」 ポジティブ心理学が人と組織を鍛える』、小学館(2010)

お奨め度:★★★★★

神戸大学大学院経営学研究科の金井 壽宏教授が中心になり、立ち上げた「ポジティブ心理学を組織と人事に応用する」ための研究会の内容を書籍化した一冊。ライブ感が伝わるような編集の工夫がされているため、逆に内容がすっと入って来ない。普通であれば、紹介しないのだが、あえて紹介したのは理由がある。記事の最後を見て欲しい。

序章は「人勢塾」という研究会の紹介と、全体のテーマであるポジティブ心理学を巡る動向について金井先生が説明されている。この部分だけでもこの本を読む価値はあるように思う。

第1章以降が、具体的な研究会の内容の採録になっている。紹介のスタイルは、各テーマに関する金井先生の解説、ゲストがある場合にはその中でゲストの仕事についても触れられている。次に、ゲストの話の要約、最後に塾生の演習の結果や感想の紹介というスタイルをとって入る。

第1章では、課題図書として、

スーザン・セガストローム(島井 哲志、荒井 まゆみ訳)「幸せをよぶ法則―楽観性のポジティブ心理学」、星和書店(2008)

が設定されており、訳者の島井 哲志先生(南九州大学教授)がゲストである。島井先生は、ご自身も

島井哲志「ポジティブ心理学入門 幸せを呼ぶ生き方」星和書店(2009)

という本を書かれたり、

島井 哲志編「ポジティブ心理学―21世紀の心理学の可能性」、ナカニシヤ出版(2006)

といった形で論文集をまとめられるなど、熱心にこのテーマに取り組んでおられる先生である。

島井先生の話は、ポジティブ心理学とは何かという話で、学習的楽観性を中心に、簡潔に説明されている。最後に幸せ度は人間力と関連があるということで、人間力の構成要素の話題になり、24要素で定義すると、日本人のトップは「感謝」であり、米国人のトップは「親切」だが4位に感謝が出でくるという指摘がある。

そこで第2講は「感謝」について考えるセッションになっている。ゲストは資生堂人事副部長の深澤晶久さん。資生堂は会社の存在意義を顧客の思いに応え「感謝の言葉をもらう」ことだとしている会社で、社員同士にもそれが浸透するような教育をしているとのこと。それにより何が起こったかをお話されている。このセッションは「まず、相手の奉仕し、その後に導く」という「感謝」の浸透と、サーバントリーダーシップの関係を探ることを狙ったセッションだと思うが、書籍の採録を見ている限り、もうひとつはっきりしていない。興味深いテーマであるので、ちょっと残念。

なお、このセッションは、資生堂の池田守男さんと金井先生の書かれた

金井 壽宏、池田 守男「サーバントリーダーシップ入門」、かんき出版(2007)

が課題図書になっている。

セッション3は、「強み」についてである。このセッションでは、

マーカス・バッキンガム、ドナルド・クリフトン(田口 俊樹訳)「さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす」、日本経済新聞出版社 (2001)

で有名なギャラップ社が開発した「ストレングス・ファインダー」によるアセスメントを受け、結果を知った上で、同社の小屋一雄さんの講義を受けるという趣向のセッション。このセッションで言っていることは、スキルと才能(タレント)を混同するなということで、強みを活かすというのは才能を活かすということで、そのように考えることがポジティブな態度を生み出すというもの。僕自身は、このセッションが一番、受講してみたいと思った。

セッション4は金井先生の単独セッション。「フロー経験」に関するもの。

M. チクセントミハイ「楽しみの社会学」、新思索社; 改題新装版版(2001)

を課題図書とし、フロー経験とは何か、どのようなときにフローを経験しやすいか、感情とフロー経験の起こりやすさの関係などを解説している。フロー経験とポジティブ心理学の関係は、集中すること自体が楽しみになると、ポジティブになっていくというもの。非常に良く分かる。

そして、塾生のフロー経験がいくつか紹介されている。

次のセッション5は、マズローの自己実現とポジティブ心理学の関係のセッション。このセッションも金井先生の単独セッション。マズローといえば、自己実現という言葉を生み出したことで有名だが、もうひとつ「ピーク経験」という概念も提唱しているということで、ピーク経験とはどういうものか、フロー経験とどう違うのか、自己実現にどのような意味を持つのかという議論がされている。また、もう一つのアジェンダとしてサーバントリーダーシップの役割として、ピーク経験を提供する役割があるのではないと指摘されている。

このセッションの課題図書は

アブラハム・マズロー(金井 寿宏監訳、大川 修二訳)「完全なる経営」、日本経済新聞社(2001)

である。

セッション6は、行き方、キャリアの歩み方がポジティブ心理学の実践というような人がいるということで、その一人として、増田やよいさんという方をゲストに招き、講演、塾生との対話、金井先生とのコラボレーションの様子が収録されている。

セッション7は、逆境を乗り越える力ということで、シンクロナイズドスイミングから、コンサルタントになられた田中ウルヴェ京さんをゲストに招き、「セルフトーク」について紹介してもらっている。課題図書は、

田中ウルヴェ京「自分に自信がつくリラックス法―たった1分!不思議なほど心が強くなる!」、 三笠書房(2008)

田中 ウルヴェ京「立ち止まってもすぐに前進できる 「打たれ強い心」のつくり方」、日本実業出版社(2008)

の2冊。

セッション8はまとめ。ポジティブ心理学の活かし方、感想などと加えて、受講半年後にどのように実践されているかを紹介している。

たまたまであるが、この塾で課題図書、参考図書に上げられている本は、すべて読んでいた。塾のセッションに参加すればともかく、本を読むだけだとその内容は、課題図書と一緒に読まないと、うまく理解できないのではないかと思った。少なくとも、この本を読まれるのであれば、最低限、課題図書と一緒に読んでほしいが、それも現実には難しいだろう。

が、あえて紹介したのは、帯にあるように、「気づき」が多いことだ。僕は本を読むときに、気づいたことを本に書き込みながら読んでいく。だいたい、書き込むのは1冊で10~20くらいだと思うが、この本はなんと50個近い書き込みをした。ゲストの話の質がよいためだと思う。正確な理解はともかくとして、ゲストの話を聞き、気づくだけでも価値があるのではないかと思って紹介した。

もちろん、ポジティブ心理学という分野がこれから活性化していくことを願って。

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コメント

コメントありあとうございます。ポジティブ心理学のことをいろいろと調べているとポジティブ度が上がるって、同感です。

東京で金井先生の講演を聴き、神戸大学のHPに行きつき、本書がでるとの予告を知り、楽しみにしていました。内容の深い浅いはありますが、本音トークは心地よいです。本書を参考にポジティブ心理学の森を探索しています。なにより、私自身のポジティブ度が上がったことを実感します。

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