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2010年4月 4日 (日)

全世界で180万人のリーダーに読まれているリーダーシップのテキスト、ついに日本に上陸

4903212157 ジェームズ・クーゼス、バリー・ポズナー(金井壽宏監訳、伊東奈美子訳)「リーダーシップ・チャレンジ」、海と月社(2010)

お奨め度:★★★★★

この本は、1987年に発行以来、180万部を突破し、世界でもっともよく知られたリーダーシップのテキストで、2007年に発行された第4版の翻訳がやっと出版された。「ザ・ゴール」のように著者が日本での出版を拒否していたわけでもあるまいから、23年というのはまさに、待望の出版である。この本の監訳を担当された金井壽宏先生いわく、

「もしも、英語が分かる人で10年以上リーダーシップの研究や研修に携わっていながらこの本を知らない人がいらた、その人は「もぐり」だ

とのことだ。そのくらいよく知られた、欧米では定石のテキストだ。


◆300冊の持論がすべて書かれているバイブル

いきなり脱線で恐縮だが、3月31日に書いたこの記事で、ビジネス書の杜も1000記事になった。

課長の知るべき原理原則

1記事1冊の紹介を原則としているが、関連書を紹介している記事は少なくないので、1200~1300冊くらいの本を紹介しているのではないかと思う。数えるのは大変なので、数えようとは思っていないが、おそらく、一番、多いのは、プロジェクトマネジメントを含む技術経営関係の本か、あるいはリーダーシップ関係の本のいずれかだと思っている。どちらにしても、150~200冊くらいは紹介していると思う。

記事にしている本は、2~3冊に1冊だと思うので、単純に計算すれば、少なくとも300冊くらいのリーダーシップの話題を含む本は読んでいることになると思う。リーダーシップの研究家ではないので、図解本とかハウツー本も読むし、専門書も読む。

読んでいるとこ、ほとんどのリーダーシップ行動がどこかの本で目にした記憶があるような印象を持ちながら読んだ。読み終わって、この本に含まれていない話題はないかなと30分ほど考えてみたが、思い浮かばない。そのくらいこの本の体系は広いし、網羅的である。

リーダーシップにはいろいろな概念と言葉があるが、言葉こそ使われていないが、リーダーシップ行動として考えられているものは網羅的に取り上げられており、また、それが実践を考えて体系化されている、バイブルとでも言いたくなるようなテキストである。少なくとも日本におけるリーダーシップの実務書よりはこの本の方が古いので、正確な言い方ではないが、日本で出版されているほとんどのリーダーシップ本のエッセンスはこの本を読むことによって得られるといってよいだろう。その意味で、唯一無二の本である。さらに、リーダーシップ行動としてあるべき姿を示すときには、極めて適切で、簡単な事例や物語がついている。


◆リーダーシップの旅のガイドブックとその前提

ちなみに、著者のジェームス・クーゼス、バリー・ポズナーは「リーダーシップ」という旅のガイドブックであると言っている。旅のガイドブックは、そこに納められているところにすべていくわけではない。自分がこれから行く土地の全体像を把握し、自分が行きたいところを探し、そこへの行き方や、その土地での過ごし方を知ることが目的である。まさに、そういう本である。

ガイドブックの構成を説明する前に、この本の大きな前提になっていることが3つある。
一つ目はリーダーシップの定義に関わるもので、リーダーシップとは他者をみちびこうとする者と、ついていくことを選んだ者の関係であるということだ。二つ目は、誰もが、メンバーを導き、偉業を成し遂げることができるようになるということだ。もう一つは、仕事を「職務」の集合ではなく、一続きのプロジェクト(プログラム)と見ていることだ。その中でのリーダーシップ行動について言及しているように思える。事例の大半は、プロジェクトの局面を切り出したものになっている(必ずしもそうではない部分もあるが、それは23年という時間の推移のためだろう)。


◆5つの実践指針

さて、前置きが長くなったが、本書では、まず、「5つの実践指針」というのが大きな枠組みになっている。5つとは

(1)規範となる
(2)共通のビジョンで鼓舞する
(3)現状を改革する
(4)行動できる環境をつくる
(5)心から励ます

この5つは、初版の出版された25年前の調査でも有効性が確認され、第4版の執筆の際の調査でも有効性が確認されている普遍性のあるものだ。


◆メンバーの求めるリーダー像

ただし、これはあくまでも、リーダーの側からの視点であり、メンバーが何を期待するかは別の問題である。リーダーシップがリーダーとメンバーの参加するプロセスである限り、メンバーの願望を満たさない限り、すべてはうわべだけになる。

この本では、この点についても初版時から調査をしており、それもほとんど変わっていないと指摘する。すなわち

・正直である
・先見の明がある
・わくわくさせてくれる
・有能である

の4つである。このうち上位の3つは、リーダーの信頼性に関わるものであり、メンバーはリーダーに信頼を求めていることが分かる。つまり、いくらすばらしいビジョンを掲げていても、メンバーから信頼されていなくては、それは全く信用されず、意味を持たない。そのようにならないためには、リーダーは常に自分の信頼性を維持する努力を怠ってはならないと指摘している。


◆10の実践と20の具体的行動

さて、上の5つの実践指針には、それぞれ、2つの実践(計10の実践)が示される。

(1-1)価値感を明確にする(3章)
(1-2)手本を示す(4章)
(2-1)未来を思い描く(5章)
(2-2)メンバーの強力を得る(6章)
(3-1)チャンスを見つける(7章)
(3-2)実験し、リスクをとる(8章)
(4-1)協働を促す(9章)
(4-2)メンバーに力を与える(10章)
(5-1)功績を認め、感謝を伝える(11章)
(5-2)価値感をたたえ、勝利を祝う(12章)

さらに、各実践には2つの具体的行動が示され、それぞれに対して詳細な説明と、小さな物語(事例)を使いながら有効性を説明している。

例えば、(1-1)であれば

具体的行動1:自分自身の声で語る
具体的行動2:共通の価値感を確立する

という行動規範が示されている。また、一つの行動規範に対して、いくつかの視点から具体的な行動事例を示している。


◆この本は読者のリーダー

この本の作り方をみていると、この本自体がガイドブックであると同時に、リーダーシップを具現化しようとしていることに気がつく。つまり、この本は自身が、5つの実践方針を踏まえた読者のリーダーであろうとしているように感じる。何を言っているかピンと来ないと思うので、、ぜひ、この本を読み、もう一度、思い出してほしい。

ということで、仕事であろうと、家族であろうと、人生であろうと、地域コミュニティであろうと、人を導くことがある人はこの本1冊あれば、家宝になるだろう。ぜひ、購入し、一度と言わず、迷ったら開いてみてほしい。


◆国民性について

最後にこの本を読む上で、ぜひ、考えてほしいことがある。最近、加護野忠男先生の「経営の精神」という本が出版された。この本に、こういうエスニックジョークが紹介されている。

「船の救命ボートが定員オーバーになって誰かに降りてもらわなくてはならないときにどうするか」という話。アメリカ人を降ろすには「降りたらヒーローになれるぞ」、イギリス人には「あなたはジェントルマンじゃないか」といえばよい。ドイツ人には、「これは絶対的命令である」といえばよい。日本人には「みんな降りたぞ」といえばよい。

というものだ。僕は研究者ではないので、グローバルリーダーシップの研究にどのようなものがあるかは知らないが、経験的にこのような国民性はリーダーシップ行動の前提になるものだと思う。この本の中で、10の実践までは普遍性があるように思えるのだが、具体的行動、あるいは事例になると、やはり、アメリカ人を動かすための規範、あるいは説明というものが多いように感じる。僕の個人的な経験であるが、同じく、米国生まれのプロジェクトマネジメントの実践の中で、日本では通用しないのではないかと思われるようなリーダー行動が所々に紹介されている。この点はよく考えながら読んだ方がよいように思う。

著者も言っているように、リーダーシップは他者をみちびこうとする者と、ついていくことを選んだ者の関係だからだ。リーダーシップは人間関係でも、人間関係のすべてがリーダーシップではない。人間関係は難しい!

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