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2010年3月22日 (月)

「やらなくてはならない」から、「ありたい」へ

4478013020 北垣 武文「ビジョナリー・リーダー―自らのビジョンを確立し、組織の成果を最大化する」、ダイヤモンド社(2010)

お奨め度:★★★★★

ビジョナリーリーダーシップを、リーダーシッププロセスと、ピラミッドモデルを中心に解説し、また、キャリアデザインの手法を応用したビジョンの獲得の提案と、エンパワーメントによるビジョナリーリーダーシップの実践を解説した一冊。誰もが感心を持つ、ビジョンとリーダーシップについて、極めて実践的な解説をした、今までにはなかった本。すべてのリーダーに読んでほしい一冊。


経営やリーダーシップにおけるビジョンの重要性は諸説が語られてきた。また、最近ではプロデュースという新しい視点で、ビジョンの重要性が語られるようになってきた。リーダーシップにしろ、ビジョンにしろ、そのこと自体はそんなに難しい話ではない。しかし、それを実行するのは難しい。このギャップは3つくらいの理由があるように思う。

・リーダーシッププロセスがよくわからない
・ビジョンの作り方がわからない
・マネジメントとリーダーシップのバランスが分からない

この本はこの3つの問題を解決している。まず、本書では、リーダーシップを

集団に目標達成を促すような影響力を与える能力

だと定義している。能力と定義しているが、そのプロセスとして

(1)達成したい目標を設定する
(2)その達成を促すように影響を与える

というプロセスだとしており、行動を指しているものと思われる。(1)と(2)には強い関係があり、(2)を熱意を持って行って行くには、(2)で想いのこもったビジョンを持つことが必要である。著者のいうビジョンとは

リーダーが真に望む「ありたい姿」にリーダーの強みや環境からの要請が加わったもの

である。そして、目標の設定は

ビジョン→ビジョンに導かれて何をすべきか

というプロセスに細分化される。そして、このようなリーダーシッププロセスを持つリーダーシップをビジョナリーリーダーシップだとしている。

ビジョナリーリーダーが重要になってきた背景には、オープンネットワーク組織がある。これまでのように階層組織で、マネジメントに固執して仕事をしていたのでは、不確実性の大きくなった環境に対応できず、ネットワーク組織が不可欠になっている。そこで、成果を上げて行くには、異質な人たちが参加したいと思うような、「強い」ビジョンが必要であり、それを持つのがビジョナリーリーダーである。

ビジョンの構成は、Must-Can-Wantのフレームワークで説明している。つまり
Must:リーダーがそのポジションで求められる役割
Can:遂行能力
Will(Want):どうしても成し遂げたいこと
の3つが交わるとことを目標として設定するのがよいというものだ。

ここで、Wantではなく、Willとしているのは、Wantより強い想いだとのこと。

ちょっと脱線するが、ここはよく分からないところがあった。Willとは意思である。著者はリーダーシップの基軸力の説明で、金井先生と野田先生の「意思力」が基軸力であるという考えに意義を唱え、基軸がビジョンであるといっている。意思力というのがスマントラ・ゴシャールが「意思力革命」で使っている意味での意思だが、このフレームワークの定義を見ると、やはり、同じことをいっているように感じた。たぶん、僕が著者の意図をよく理解できていないのだろう。

さて、本筋に戻る。この本の非常に共感できたところの一つは、このあとで、著者はこれはベン図のような交わりではなくピラミッドであるという。つまり、この3つの関係は

Will>Can>Must

のピラミッドで、まず、Willありき。その表現のために、Canを磨き、環境からの要請であるMustに応えていくという関係である。著者はこのことを、ソニーの創業者の井深大と、名古屋で在宅医療コミュニティを立ち上げた舩木医師の活動を使って説明している。

実際に難しいのはそのようなビジョンを作ることである。この点については、「ありたい姿」に忠実なWillを発掘することで、そのためには、
・現在の自分について考える
・過去の自分と向き合う
・未来の自分からメッセージを受け取る
という3ステップを踏んで、Willを発掘し
・Willを明確にする
・Willを実現するCanを明確にする
・WillとMustを一致させる
の手順を踏めばよいとしている。
こうして生まれるWillやビジョンの「よさ」について、おおむねは、ありたい姿の条件である

・いかなるときも変わらない価値観を反映している
・相対的ではなく絶対的なものである
・自分本位ではなく周囲に好影響をもたらすものである

の3つの条件を満たしているかどうかでわかるという。たとえば、よくないWillは

・お金にかかわるもの(2番目、3番目を満たしていない)
・リーダー個人の名誉欲が刷り込まれているもの(2番目を満たしていない)

といった例を挙げている。一方で、よいビジョンとして

・貢献
・あくなき好奇心

の2つを上げている。

そして、よいビジョンはリーダーをサーバントにするので、サーバントリーダーシップが重要だと述べている。

サーバントリーダーシップの実現形態として、エンパワーメントでマネジメントとリーダーシップのバランスをとることを進めている。そのために、エンパワーメントのステップとして

(1)相手の見極め
(2)ビジョンの共有
(3)アサインメントの決定
(4)サポート
(5)事後の振り返り

のステップで行うことを詳細に説明している。

とにかく実践的であり、僕自身も学ぶことが多かった。この本でも指摘されているとおり、ビジョナリーリーダーシップ行動の難しさは、Want=Mustを如何にして作るかである。この点についてもかなり踏み込んで説明がされているので、ぜひ、読んでみてほしい。その上で、もし、不十分だと思ったら、この本を読んでみることをお勧めする。

ティナ・シーリグ(高遠裕子訳、三ツ松新解説)「20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義」、 阪急コミュニケーションズ(2010)

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