「論語」から、「指導力」、「決断力」、「人間関係力」を学ぶ
歴学編集部「論語ビジネス塾―世界一の教科書に学ぶ」、ダイヤモンド社(2010)
お奨め度:★★★★
「論語」から、「指導力」、「決断力」、「人間関係力」という3大スキルの本質を読み解くことをテーマにした本。ただの論語の解説本ではない。7章からなる本の筆者は、名だたる人たちなのだ。
目次に沿って、本書の各章で議論されているテーマを書き上げてみると以下のような感じになる。
・孔子に学ぶ「リーダーシップを磨く」法
・マネジャーの現場力を鍛える
・道徳と経済の両立
・リーダーの資質と条件
・孔子の生きざま、言葉の字義を洞察する
・孔門十哲の君子学
・古注、新注から日本独自の解釈へ
まず、最初の「孔子に学ぶ「リーダーシップを磨く」法」は、守屋洋氏のマネジャーの「論語」入門である。論語を貫く教えである、「仁・智・勇・礼・義・信・寛」はリーダーの志を教示するものであり、これらを積み重ねて始めて信頼が得られると説く。
次の「マネジャーの現場力を鍛える」は、齋藤孝先生の「声に出して読みたい「論語」10選」である。論語から、
・部下のミスのしかり方
・「指示待ち社員」の動機づけ
・努力を怠る部下への対処法
・「俺様」部下をたしなめる
・新しい仕事への不安
・上層部と意見が合わないとき
・転職すべきか否か
・多様な人材マネジメント
・公正な判断力をつける
・人生の限界を感じたら
の10のシーンに合わせた論語を声を出して読むことを勧めている。
三番目の「道徳と経済の両立」は、この中では唯一、論語に関する別の本を解説することによって、論語について語っている。別の本とは、リーマンショックのあとで、よく売れているという渋沢栄一の「論語と算盤」である。この本を三井文庫の文庫長の由井常彦氏が解説している。論語と算盤は現代訳になっていない本で、読みづらいので、この解説は貴重である。
(追記)denokuさんからちくま新書から現代語版が出ているという情報がありました。
四番目の「リーダーの資質と条件」はなんと、中曽根康弘元首相の「私が「論語」に学んだこと」である。中曽根氏は、論語には大きな影響を受けているそうで、インタビュー形式で、リーダー論を聞き出している。
次は、松岡正剛氏の登場だ。論語の読み方の極意として、字義を読み取るか、孔子の生き様を感じて読むかという命題をたてている。論語の解説は数百とも言われるが、こういう視点から論じたものはあまりないのではないだろうか?松岡正剛ワールド、全開的な章になっている。この部分はキャリアを考えるのに貴重なヒントを与えてくれる。
6番目の「孔門十哲の君子学」は、日本女子大学の三田明弘先生の「孔子と弟子たちの問答の読み方」である。論語のおもしろさの一つは弟子にある。三田先生は、子貢、宰予、顔回などの弟子と孔子の問答を読み解いている。
最後の「古注、新注から日本独自の解釈へ」は、澤井啓一氏の「江戸の儒学と論語」である。江戸時代に、孔子の新訳から、人々は儒学になじむようになったことを指摘している。
さしむき、ビジネス塾っぽいのは、1~4で、そのほかは、より深く学ぶために読んでほしい解説のような感じになっている。
マネジャーに考えろという指摘が増えてきている。その一つの方法は振り返りという意味でのリフレクションだと思うが、リフレクションの方法として、論語を読むというのはアリだと思う。教えを読み説く別の方法でもある。そのようなリフレクションのための素材としては適切だと思う。とくに、守屋先生と齋藤先生の章は適している。
ぜひ、考えながら読んでみてほしい!
お役に立ててよかったです。
投稿: 家主 | 2011年1月14日 (金) 08:15
最近、論語を読んでいます。そのときふと「リーダーシップ論として読むのも面白いかも」と思い、検索したところ、この記事を見つけました。このような本があるのですね。ありがとうございます。
投稿: sanotomo3 | 2011年1月13日 (木) 23:30
情報ありがとうございました。本文中に紹介を入れました。
投稿: 家主 | 2010年3月 1日 (月) 08:48
素敵な本をご紹介いただき有難うございます。
「論語と算盤」は、ちくま新書(ISBN:978-4480065353)
で守屋淳氏の現代語訳が2010年2月に出版されています。
原本を買ったものの、読みにくかったので避けていましたが
ようやく読めました。是非、手にとってご覧くださいませ。
投稿: denoku | 2010年3月 1日 (月) 06:57