3Dメガネをかけると管理職はどう見えるか?
大島 洋「管理職の心得―リーダーシップを立体的に鍛える」、ダイヤモンド社(2010)
お奨め度:★★★★★
リーダーシップを、「自己のあり方」、「他者との関わり方」、「組織との向き合い方」という3つの視点から捉え、管理職として効果的なリーダーシップをとるにはどうすればよいかを論じた一冊。フレームワークが適切なので、読めば間違いなくすっきり!
まず、最初に管理職のリーダーシップのフレームワークを定義している。まず、マネジメントとリーダーシップの違いを明確にしている。
・マネジメント=複雑性に対処すること
・リーダーシップ=変革・創造を推し進めること
としている。そして、管理職は、マネジメントだけではこの変動の時代を乗り越えることは難しく、効果的なリーダーシップを発揮することが重要であると説いている。これが、リーダーシップのフレームワークの前提である。
管理職が効果的なリーダーシップを発揮するには、リーダー、フォロワー、両者を取り巻く環境(内部環境、外部環境)の3つがある。リーダーシップの有効性を検証するには、リーダーの立場に管理職としての自分をおき、この3つの関係を正しく把握し、分析することがカギになる。それが、「自己のあり方」、「他者との関わり過多」、「組織との向き合い方」の3つの視点が必要である。
まず、最初の自己のあり方だが、マネジメントにおいては、「現状の組織のルールに基づく活動」であるが、リーダーシップでは「個人の力量に基づき、現状を変え、未来を切り開く活動」である。このために、
・既存の組織の権威に頼らず他者を動かすためには、影響力の源泉をどこに求めればよいか
・他者を効果的に動かすため自分の行動のあり方をどうとらえ、どのように行動をとっていけばよいのか
・あるべき行動を実現するための要件とは何か
・自分の内部に潜む落とし穴を避けるためには、自分とどのように客観視すればよいか
といったことを考えていく必要がある。
次に、他者との関係は、マネジメントでは「組織上の役割関係に基づく働きかけ」であるのに対して、リーダーシップは「相手の特徴を踏まえた働きかけ」である。このために、
・人間に共通な普遍的傾向と多様性の両面に着目した他者との関わり方
・コミュニケーションのあり方
・仕事の任せ方
について考えていく必要がある。
最後の組織との向き合い方については、マネジメントでは「所与のものとして既存の組織を受け入れるのに対して、リーダーシップは「内部環境としてのあるべき組織を構築する」ことである。このためには、
・管理職として組織における身近な活動単位であるチームの作り方
・人を効果的に動かすために組織を築くことの必要性と、組織の基本要件に対する認識
・事業との関係においてどのような組織を築けばよいのか、軽視の視点からあるべき組織の考え方
・自分のリーダーシップのあり方に合致した組織の築き方
を明確にする必要がある。
このフレームワークに従って、それぞれ、各1章を割いて、おもしろい方法で解説をしている。まず、最初にケースを入れている。そして、ケースに基づいたブリーフィングをしたあとで、読者の自己診断が行えるチェックリストが準備されている。そして、その結果を踏まえて解説がなされている。これだけであれば、よくあるパターンなのだが、チェックリストは具体的であり、対応策はかなり抽象的である。また、これまでの学説の中で、比較的有効性が認知されていたり、有名なものを使って解説をしている部分もある。たとえば、影響力についてであれば、
Q1 部下を従わせるために、部下をしかりつけたり、突き放したりすることがある
Q2 部下を指導する際、行動に改善がみられなければ評価に影響する旨、ほのめかすことが多い
Q3 部下を褒め、あるいは、部下の実績を認めてあげることが多い
Q4 目標設定や業務アサインの際、達成した場合に本人が得るメリットについて、言及することが多い
Q5 予算や業務アサインの権限を活用して、他者を動かすことが多い
(以下、略)
といったチェックリストで、フレンチ&ラーベンの「5つのパワーの源泉」を使って、傾向分析を行い、ポジションパワーと、パーソナルパワーのバランスの重要性、効果的な使い分けの重要さを指摘している。
この本がよいなと思うのが、この解説の部分がハウツーではないことだ。要するに自分の頭で考えろというスタンスで、そのためのインプット、ヒントを与えているだけである。
このスタンスは、管理職を対象とした本としては、あるべき姿だろう。酒井譲さんの「課長の教科書」以来、課長のハウツー本市場ができている。新任のマネジャーであればハウツー本に頼りたくなるのは分からなくもないが、ハウツー本でなんとかしようという人は管理職としてどうかと思う。ハウツーを求める人が、部下の指導をできるとは思えないからだ。
「考えろ」、「内省せよ! 」である。この点で、この本のアプローチには共感を覚える。この本の内容は、おそらく、実務を経験しなくては分からない部分が多いように思うので、すでに管理職になっている人にお勧めしたい。
新任の管理職には、同じ心得でも、こっちの方がよいかもしれない。
リンダ・ヒル「昇進者の心得―新任マネジャーの将来を左右する重要課題 (Harvard Business Review Anthology) 」、ダイヤモンド社(2009)
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