「インテグリティの輪」を拡大しよう!
ヘンリー・クラウド(中嶋 秀隆訳)「リーダーの人間力 人徳を備えるための6つの資質」、日本能率協会マネジメントセンター(2010)
お奨め度:★★★★★
僕は「ビジネス書」を読むときには、誰かを念頭において読むことが多い。しかし、まれに読んでいるうちに、自分ゴトとして、自分を念頭においた読み方になっていることがある。久しぶりにそんな本に出会った。インテグリティに関する本である。そして、その衝撃は生半可ではなかった。
本書の前提になっているのは、「ひとかどの成功者やリーダー」は3つの条件を整えているということ。
・しっかりとした専門能力
・自分から専門能力や得意なスキルを差し出し、能力も資源もある相手と手を組み、お互いに有利な関係を創り出す提携構築力
・すべてを生かす人間性
の3つである。ここでいう人間性は、
現実が突きつける要求に応える能力
のことである。人間性の中でも、特別な人間性をインテグリティと呼ぶ。
インテグリティとは、一人の人が人格として統合されており、個々の部分がすべてうまく機能し、目指す効果をあげているということを言う。著者は、この状態をすべてのシリンダーが本来の意味で稼働している状態だと喩えている。
この本はインテグリティについて、その要素を具体的に洗い出し、現実が突きつけるどんな要求にも応えられる人へと成長するための方向性を提示している。
著者は、インテグリティのある人間性を持つには
1.本当の絆を結ぶ能力
2.真実を求める能力
3.成果を上げ、物事を完結する能力
4.逆境を引き受け、向き合い、処理する能力
5.成長・発展を求める能力
6.自己を超える能力
の6つの資質が必要であるという。この6つの資質をうまく機能させることによって、望ましい「仕事の業績」と「人間関係」(この2つを著者は「航跡」と呼んでいる)を実現することができるが、生身の人間であればどこかに未成熟な部分がある。
そこで、インテグリティについて考えていくビジョンが重要になる。本書では、
・現実の世の中での、成果や成功の特性を解明する
・人間性を構成する要素を理解する
・個人として、人間性の完全な統合と全体性を目指す
の3つをビジョンとして、インテグリティについて考えている。このビジョンを掲げ、本書では、6つの資質に対して、
・信頼を構築する
・現実と向き合う
・成果を上げる
・逆境を受け止め、問題を解決する
・成長する・発展する
・自己を超え、人生の意味を見つける
の6つについて、著者がコンサルタントとして経験した、さまざまなエピソードを交えながら解説している。
かいつまんで紹介しようかと思ったが、ちりばめるように非常に重要なことがたくさん書いてあり、「インテグリティ」を以て紹介できるような気がしないので、あきらめた。そのように思うこと自体、この本で述べられていることが僕自身に統合されていないからかもしれない。とりあえず、はっきりいえることは、非常に構成的に述べられているが、ハウツーものでないことだ。そして、一つ一つが種子のようで、インテグリティを高めるには、それをうまく自分の中に植える仕事が必要だと言うこと。
最後のまとめでは、「インテグリティの輪」について述べられている。6つの資質の中からどれからに絞って向上に取り組んでいくとよい。6つは互いに連動しているからだ。一つの資質が上がれば別の資質も向上する。たとえば、相手との信頼感を高めることによって、安心感を高め、現実を安心してみれるようになる。このようにして、徐々に「インテグリティの輪」が大きくなっていく。
僕は、インテグリティの議論には昔から興味があった。もう3年近く前になるが、この本の訳者の後書きに、翻訳企画を示唆した人物として出てくる、プロジェクトプロの峯本展夫さんという方に、弊社のプライベートセミナーで講師をやっていただいたことがある。この本の著者である。
峯本展夫「プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル―論理と知覚を磨く5つの極意」、社会経済生産性本部(2007)
プライベートセミナーは弊社のお客様にお越し頂き、いろいろな情報交換や議論をして頂くイベントであるが、峯本さんの講演に対してインテグリティの議論になったのがとても印象的だった。関心はあると思っていたが、議論になるとは思わなかった。このあと、峯本さんとインテグリティを議論するイベントをやろうと相談したが、よいアイディアがなく、そのままになっている。この本が世の中に出てきたのをきっかけにインテグリティの議論が盛んになり、峯本さんとも何かできるといいなと思った次第だ。
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