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2010年1月19日 (火)

プロデュースのバイブル~プロジェクトをクリエイティブに変えたいリーダーに!

4781602932 平野 暁臣「プロデュース入門―オリジナリティが壁を破る」、イーストプレス(2009)

お奨め度:★★★★★

ビジネス書の杜Award2009は太田芳徳さんの『「決める」マネジメント』を選んだ。太田さんの本は、時代に即した概念をふんだんに取り入れ、また、極めて実践的であるゆえ、この3年間にAwardに選んだ本の中では、もっとも良い本だと思っている。しかし、もし、この本がもう少し、早い時期に出ていたら、相当、悩んだと思う。そのくらい、すばらしいプロデュース論の本。

この本は大きく2つのことについて述べている。一つは、プロデューサーの役割と責任である。もう一つは、プロデュースという活動の構造とデザインの方法である。いずれも、六本木ヒルズアリーナ、「日本デザインの遺伝子」(タイ、バンコクで開催)というケースを使って論じられている。

まず、プロデューサーの役割と責任(仕事)は

構想:基幹アイデアを生み出す
計画:具体的枠組みを組み立てる
編制:実務執行体制をつくる
解述:理念と構造を語る
監修:実務作業を監修する
予測:仕上がりと成果を予測する
調整:予測結果に基づき調整する
管理:進行をマネージメントする
承認:重要案件を判断・承認する
渉外:対外的な説明と折衝を行う

の10個。著者は「決め技」だと言っているが、これには著者のプロジェクト感がある。プロジェクトはルーティンとは異なる。与えられたミッションを達成することがすべてであり、最初の段階でどのように進めていくかを描くことは難しい。「何をやるか」が問題ではなく、「どうやるか」が問題なのだ。プロジェクトマネジメントの用語でいえば、これは段階的詳細化と言われる進め方である。

すると、プロデューサの仕事は、順序立てられるものではない。臨機応変に対応していく必要がある。たとえば、構想と計画と編制を考えてみると、ルーティンでは(1)構想、(2)計画、(3)編制となることが多い。しかし、クリエイティブなプロジェクトでは、何をするかよりは、「誰とするか」の方が重要なこともあり、すると、この3つは徐々に収斂していくことになる。つまり、3つの活動を適宜行いながら、調整をしていくことが必要になる。

そのような意味で、プロジェクトにはルーティンのように最初に決まった道筋はなく、航海のようなものだというプロジェクト感がある。ゆえに、上に10個を決め技として、必要に応じて繰り出して、困難を乗り越えていく必要があるのだ。

プロデューサーの仕事は「旗」を立て、いろいろな分野の専門家(コアメンバー)とコラボレーションをしながら、ミッションを達成することである。そのために、「解述」を行う。つまり、ミッションを共有し、プロジェクトの思想を徹底的に語り、理解させ、その上で、仕事としてやるべきことを示す。

プロジェクトが動き出したときに、一人でプロジェクトの状況を管理することは難しい。そこで、コアメンバーの中からディレクターを選ぶ。プロジェクトディレクターだ。ディレクターは自分のパートの管理を行い、プロデューサーはそれらを束ねていく。ディレクターとプロデューサーの関係はフラットで、自分の思い通りに動かすパワーは持たない。その代わりに接着剤の役割をするのが、「コンセプト」であり、プロデューサーという存在そのものである。プロデューサーはコンセプトによって、各パートをつないで、プロジェクトの形を作っていく。このような活動を監修という。

プロジェクトを進めていく上で重要なことはリスクをうまくとることだ。そのためには、予測と調整が必要である。航海のたとえでいえば、危機を早く察知する洞察力と、巧みに船を操り危機を回避する操船技術になる。

プロデューサーが予測すべきことは、「変数」、「仕上がり」、「成果」の3つだ。変数は見積もり(計画パラメーター)。仕上がりは作業をそのまま進めたときに最終予想。そして、成果はプロジェクトのデリバリーが社会に出たときの状況や反応。この3つを予測しながら進めて行かなくてはならない。

「調整」はある意味でもっとも重要なことである。調整なしに、初期計画通りに終わるプロジェクトにはクリエイティビリティがない。調整とは、「選択」であり、「決断」であるので、「責任」を伴う。責任を持って調整を行うためには
・現状を見極める
・判断のよりどころ
・履行を保証する原理
の3つが必要である。

プロジェクトには4つの「管理」すべきものがある。「品質」、「予算」、「工程」、「安全」である。プロデューサーはプロジェクト全体でこれらを把握し、マスターコントロールしなくてはならない。ここで問題になるのが、プロデュースにおいて品質とは何かという問題である。著者は、「効果」だという。効果を管理するためには、走りながら決めていくことが重要である。また、予算、工程、安全についても、同様な考え方で管理する。

管理と同様に、プロデューサーは重要な事項に対して、決断をしなくてはならない。決断が必要になるのは、自分が決断すべきだと気づいたときと、コアメンバーからの決断を求められたとき。後者においては、「承認」という形で決断をする。

もう一つのポイントは部外のステークホルダである。クライアントとメンバーはプロジェクトの共同遂行者であるが、これ以外のステークホルダには
(1)周辺協力者
(2)周辺理解者
(3)ユーザ
の3種類のステークホルダが存在し、彼らをうまく巻き込んでいくことが、プロジェクトの成功につながっていく。

このような活動のおおもとになるプロジェクトのプロデュースは以下の要素から構成される。

Mission=基本使命:そのプロジェクトで何を実現し、何を獲得するのか
Principle=基本思想:どんな哲学の下にプロジェクトを進めていくのか
Strategy=基本戦略:プロジェクトを通じて発信すべき概念とはなにか
Theme=基本主題:プロジェクトを通じて発信すべき概念とはなにか
Vision=基本情景:プロジェクトでどんなシーンを現出させたいのか
Structure=基本スキーム:プロジェクトの展開形式をどう組み立てるか
Contents=基本エレメント:プロジェクトに織り込むべき成分とは何か
Formation=基本フォーメーション:プロジェクトを進める体制をどうつくるか

これらの要素を考え、答えを出し、推進していくために、10の仕事が必要だというのが本書のスキームである。

平野 暁臣さんは空間プロデューサーとしてとても有名な方であり、数々の業績を残されているが、この本は空間プロデュースを例にしながら、概念的か、実践的な理論構築をされている。基本的に、プロデュースは「プロジェクト」を手段として行われる。従って、プロデュースという活動は、ある意味で「プロジェクトマネジメント」の活動である。そのようにみていくと、この本で示されている活動フレームワークは、PMBOKのフレームワークにほぼ収まっているのではないかと思われる。

ところが、そのフレームを使って行われる活動における思考規範や行動規範は、いわゆる「プロジェクトマネジメント」とは全く異なるものであり、それを「プロデュース」と読んでいる。これによって、プロデュースという考え方が必要だと思っている人たちが、今のスタイルの進化形としてプロデュースをとらえることができる。

これは実行性という点で極めて重要であり、その意味でこの本は、理系のためのプロデュースのバイブルと呼んでもいいものではないかと思う。

また、プロデュースにあまり興味のないプロジェクトマネジャー、特に、この本でいうところのハードのプロジェクトのプロジェクトマネジャーにとってもこの本の内容は有効なのではないかと思う。この本ではプロデュースを浮き上がらせるために、ハードのプロジェクトをステレオタイプに位置づけているが、今、最初に決めてそのとおりにやるというハードのプロジェクトなどはほとんどない。仕事柄、そのような仕組みの構築に関わったことが何度もあるが、できない。結局、プロデュース的な要素を仕組みの中に入れている。その意味でハードプロジェクトのマネジャーにも参考になる一冊だろう。

最後に、この本で平野さんがプロデューサーと呼ばれているものは、通常のプロジェクトマネジメントのフォーメーションでは、プログラムマネジャー(あるいは「プロジェクトスポンサー」)と呼ばれるロールである。プログラムディレクターがプロジェクトマネジャーだ。その図式を念頭において読むと、また、見え方も違ってくるだろう。

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