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2009年9月 2日 (水)

戦略的なプロジェクトのマネジメント

4478009201 大木 豊成「ソフトバンク流「超」速断の仕事術―1か月かかる仕事を1週間でやり遂げる!」、ダイヤモンド社(2009)

お奨め度:★★★★1/2

久しぶりにプロジェクトマネジャーやプロジェクトスポンサーが読む価値のあるプロジェクトマネジメントの本に出会った。ソフトバンクグループで活躍されている大木豊成氏が、経験に基づき書いた「短納期」、「大規模」なプロジェクト推進方法論。

プロジェクトマネジメントはプロジェクト成功の触媒である。プロジェクトマネジメントをするからプロジェクトが成功するというものではない。しかし、プロジェクトの成功確率は高まり、さらに、大きな成功を得ることができる。その意味で、触媒である。

しかし、最近、プロジェクトマネジメントが本当にプロジェクトの成功の触媒になっているのだろうかと疑問に思うことがよくある。

確かに、プロジェクトは確実に実施できるようになってきている。特に、これまではプロジェクトを任せることが難しかったような人材をプロジェクトマネジャーに立てて、PMOや上司の支援を受けながらも、なんとかできるようになってきたというのは大変な成果だと思う。特に、受注開発をしているIT系の企業の場合には、直接的な売上のアップが見込めるからだ。

しかし、本来的にいえば、このようなマネジメントは組織マネジメントがきちんとできていれば済む話である。プロジェクトマネジメントは組織マネジメントの上に位置づけられ、付加価値を生み出すものである。この付加価値を一言で「成功」といっているわけだ。

そのように考えると、とても成功の触媒になっているようには思えない。最初は、第1ステップとして失敗しないというのがあって、第2ステップとして成功を目指すのだろうと考えていたが、どうもそうでもないようだ。失敗しないを「改善」することはあっても、第2ステップとして成功の獲得に舵を切っている企業は多くない。

では、付加価値とは何か。難しい問いであるが、プロジェクトマネジメントが、組織にマネジメントに付加する価値としては、要求の変化に対する対応というのがもっとも大きいのではないかと思う。組織マネジメントでは、それはできない。

なぜなら、プロジェクトの場合、実施期間中に要求が変わる可能性が高いからだ。経営にとって、現場は、車の足回りのようなものだ。いくら正しい判断ができ、ハンドルを切っても、足回りがついてこなければ事故になってしまう。その足回りの機敏さを作り出すのがプロジェクトマネジメントである。

前置きが長くなったが、この本は、ソフトバンクという、とてつもなく、時定数が小さな組織において、その時定数をクリアするには、プロジェクトマネジメントはどうあるべきかを、経験に基づき、述べている。細かなポイントはたくさんあり、それぞれ、興味深いが、本質的な話は、

準備に時間をかけ、「まず、やらないこと」をしっかり決め、始めたら最後まで走れるようにする

ことだ。これにより、繰り返し発生する経営的要求の変化によるプロジェクト計画の変更を実現することができる。

この際に、品質とスピードのトレードオフをいうプロジェクトマネジャーが少なくないが、著者によると品質を落とさないでスピードを上げるためには、コストを即座に算出できるだけの情報が必要で、日常的にそのような情報収集の必要性があると述べている。

大木氏の述べていることを、我々は「戦略的な計画を作る」と表現している。平易にいえば、目標を実現するために、何を捨てるかをよく考え、余計なことは一切せず、達成できる方法を考えるということだ。これを走りながら考えようとするプロジェクトマネジャーが少なくないが、これは間違いである。覆水盆に返らずである。やってしまったことはその成果を捨てることはできるが、やってしまったという事実自体を変えることはできない。つまり、使ってしまった時間は取り戻すことはできない。だから、準備の時間をきちんととることが重要である。

しかし、これが以外と難しい。なぜか?上司が許さないのだ。プロジェクトにおいて上司は課題を与えるだけでよい。そして、その課題解決を目標化し、そこで合意すればあとは、放っておけばよい。

ところが、これらの仕事をせずに、つまり、課題も明確にしないし、目標の合意もしない代わりに、思いっきり仕事の仕方に口を出す。これでは、プロジェクトマネジャーがいくらがんばってみても、著者が実践しているようなプロジェクトの運営はできない。

この本を読んで改めて認識したのは、プロジェクトに課題を出す上司のあり方である。ソフトバンクの場合は、孫正義という優れたリーダーがどんどんと目標を変えているが、その達成は任せている。すると、プロジェクトは否応なしに、次はどういう風に変わるかということを予測しておかなくては仕事にならず、おのずと、リスク計画の質があがり、そのためにさまざまな情報収集の活動を自発的に行うようになっている。

結局ここの部分は組織能力に他ならない。プロジェクトマネジャーが与えられた情報だけで動いているようでは、プロジェクトの成功は実現できない。これがこの本からもっとも学んでほしい点である。

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