リーダーはパラダイムシフトに如何に対応すべきか
ジョエル・バーカー(仁平 和夫訳)「パラダイムの魔力―成功を約束する創造的未来の発見法」、日経BP出版センター(1995)
お奨め度:★★★★★
トーマス・クーンの提唱したパラダイムをビジネスに定着させたきっかけになった書籍。パラダイムが如何に重要かを多くのパラダイムシフトの例を上げて説明し、リーダーはパラダイムに如何に対応すべきかを述べている。
1968年に60%のシェアを持っていたスイスの時計は、1980年代には、なんと10%以下になった。6万2千人いた時計職人のうち、5万人が職を失った。理由はいうまでもなくクオーツの登場である。ここで注目されることは、スイスはあぐらをかいていたわけではないこと、継続的な品質改善や新製品の開発に積極的に取り組んでいた。もうひとつ。当時、スイスのクオーツ技術の研究は世界一進んでいたこと。ところが、それを時計メーカに持って行っても相手にされなかった。
イノベーションのジレンマを地でいくような話であるが、ポイントは企業の対応ではない。ジョエル・バーカーが言っているのは、機械式からクオーツへというパラダイムの変化(パラダイムシフト)が如何に大きな影響をもたらすかということである。
では、パラダイムとは何か。語源はギリシャ語で、「モデル、パターン、範例」を意味する言葉だが、ジョエル・バーカーの定義は
パラダイムとはルールと規範であり、(成文化されている必要はない)(1)境界を明確にして、(2)成功するために、境界内でどう行動すればよいかを教えてくれるもの
というものだ。パラダイムになるのは、
理論、モデル、方法論、原則、基準、プロトコル、日課・手順、前提、慣行、パターン、常識、通念、思考様式、価値観、評価基準、伝統、しきたり、偏見、イデオロギー、タブー、迷信、儀式、社会的強制、悪癖、教義
といったものである。文化や(たとえばIBMという)企業はパラダイムの集合であり、それ自体はパラダイムではない。
このようなパラダイムに対して、ジョエル・バーカーは4つの観点からパラダイムの原理を考察をしている。
(1)新しいパラダイムはいつ現れるのか
(2)どんな人がパラダイムを変えるのか
(3)パラダイムを変える人のあとを最初に追うのは誰か?なぜ、そうするのか?
(4)パラダイムシフトは、その渦中にいる人にどんな影響を与えるか
(1)に対しては、パラダイム曲線と呼ばれるS字曲線を定義し、パラダイムそのものは、必要とされる前から現れると下上で、
あらゆるパラダイムが、新しい問題を発見していく過程で、解決できない問題を浮き彫りにしていく。そして、解決できない問題が引き金になってパラダイムシフトが起こる。
と結論できる。
次にパラダイムを変えるのは「アウトサイダー」である。アウトサイダーには、
カテゴリ1:研修を終えたばかりの新人
カテゴリ2:違う分野からきた経験豊富な人
カテゴリ3:一匹狼
カテゴリ4:よろずいじくりまわし屋
の4つのカテゴリーがある。
つぎにパラダイムシフターが発見した未開の未知を、真っ先に進むのがパラダイムの開拓者であり、彼らはあまたで考えるのではなく心で考える。そのため、パラダイムの開拓者には直感だけではなく、勇気も必要である。
そして、パラダイムシフトが与える効果は「目から鱗が落ちること」だ。人間は自分のパラダイムによって、自分が何を知覚するかを決める。つまり、パラダイムの外にあるものは全く見えない。これが見えるようになってくる。
このようなパラダイムに対して、マネジャーは何をしなくてはならないか?まず、パラダイムのしなやかさを部下に求めるなら、みずから模範を示さなければならない。次に、クロストークの場を設け、活発に意見が交換される環境をつくらなければならない。そして、ばかげた考えに耳を傾けることによってイノベーションの力を手に入れることができる。
ジョエル・バーカーの本は、1992年の本なので、1990年代に世紀に起こりそうなパラダイムの予想など、時代に合わない部分はある。また、事例も新しいものではない。しかし、逆にそれはこの本を読むときには、パラダイムというものを理解する上で、プラスの効果になっている。
その点を含めて、時代を問わずに読むことのできる、定番的な本であるといえる。
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