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2009年5月31日 (日)

「語り」と「騙り」

4779503477 金井 壽宏、高井 俊次、中西 眞知子、森岡 正芳編著「語りと騙りの間―羅生門的現実と人間のレスポンシビリティー(対応・呼応・責任)  」、ナカニシヤ出版(2009)

お奨め度:★★★1/2

語りの真実や責任について考察した論文集。このテーマで3つのパートに分け、

○語りが生み出す「ともに生きる世界」
・語りと騙りの間を活かす ―セラピーの場で―
・看護師に内在する語りと傾聴の様相
・演劇と語り ―声と身体の共振・共酔の世界―
○語りを可能とする仕掛け 
・リーダー人物の語りとリーダーシップ現象の時空間 ―世代継承的夢の語り―
・叙事詩の語り口 ―日本人が「語る」チンギス・ハーン―
・語りと成熟の仕掛けとしての地域社会 ―中高年におけるコンボイの形成と自己の語りなおし―
○実践のなかの語り
・地域ブランドと「語り」建築の創作における語り
・建築の創作における語り
・言葉のなかの倫理的なまなざし ―組織の語りと不祥事―
・語りと再帰性 ―語りから社会・制度へ 社会・制度から語りへ―

の10本の論文を採録している。

やっと読み終えた。学術的(専門的)な書籍を読むのはあまり苦にならない方だが、この本は苦戦した。1章ずつ読んで、約1週間かかった。

さて、話は変わる。今日は年に一度のダービー。唯一、スポーツニュースでやるレースかもしれない。今回、ちょっとおもしろいことがあった。ちょうど、この本を読んでいる最中。

木曜日くらいに、日経新聞のサイトにある謝罪記事があった。以下、一部、抜粋。
=====
4月19日(日)付けのラジオNIKKEI競馬実況ウェブの記事に誤りがありました。
 皐月賞のレース後のコメントを紹介する際に、13着だったリーチザクラウンについて、武豊騎手のコメントとして「描いていた最悪の展開になってしまいました。短い距離で逃げるなら折り合いがつくんですけどね。これで見ていた人も分かると思いますが、長い距離は向かないです」という記事を掲載しました。
 しかし、その後、このコメントが誤りではないかとの指摘があり、取材者に確かめた結果、「短い距離で」のくだりは「単騎で」を「短距離で」と聞き間違えたものだということが判明いたしました。聞き間違いの結果、武さんの発言にはなかった「長い距離は向かないです」という結論を取材者の推測で付け足してしまった二重の大きなミスもありました。
http://keiba.radionikkei.jp/keiba/news/entry-168177.html より
=====

聞き間違いは記者も人間だから仕方ないとして、注目したいのは、「武さんの発言にはなかった「長い距離は向かないです」という結論を取材者の推測で付け足してしまった」という部分」。

興味深かったので、知人の日経系記者に尋ねてみたところ、付け足すことはあるとのこと。ただし書きがしゃれていているので、無断で引用(ごめんなさい)。

=====

それを読んだ発言者が、「そうそう、こういうことを言いたかった」と喜ぶように補強することが大事です

=====

という。後段のところがうまくできれば「語り」、できなければ「騙り」だ。

このミスの一番のポイントは、おそらく、記者がリーチザクラウンという競走馬について不勉強、あるいは未知だったことではないだろうか?悪気はなくても、「騙り」になる。ちなみに皐月賞は2000m、ダービーは2400mなので、この記事は騎乗した騎手が、この馬はダービーでは勝てないといっていると語ったわけだから騙りの範囲外かもしれないが。

またまた、話は変わる。

ISIS編集学校の中で、唯一、松岡正剛校長の名前がついた編集術がある。「セイゴウ知文術」。ある本を、著者と同化し、読者たる自分を意識しながら紹介するという編集術だ。松岡校長が、「千夜一夜」の中で使っている編集術でもある。

この編集術の稽古をしたときも、語りと騙りというのはかなり意識した。千夜一夜を読むと見事に「語り」になっているが、僕のような素人が書くと、どうしても「騙り」っぽくなってしまう。

物語や、語りというのが、リーダーシップ系のスキルとして普通に出てくるようになってきたが、この問題は結構、重い問題だと思う。

物語を使おうとする、もっといえば、ビジョンを語ろうとするまえに、一度、このような思考を巡らしてみる必要があるだろう。簡単に読める本ではないが、語りの影響の大きさを考えた場合に、はやり避けて通るべきではない。

(ということで、知文術にチャレンジしてみました)

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