「プロジェクト」を経営に活かす
鈴木 成裕「実践「経営プロジェクト」講座―会社の未来づくりに、取り組む人のための実践テキスト」、プレジデント社(2008)
おすすめ度:★★★★★
偶然、書店で見つけて、一気に読んだ。こんな本があるとは知らなかった。
「プロジェクト」を経営でどのように活用し、それを成功させるには、どのようなマネジメント、組織、リーダーシップ、人材が必要かをタイトルの通り、実践的に説明している。
現代経営技術研究所というコンサルティング会社の経営者が、これまでに行ってきた数百の経営プロジェクトに基づき執筆した書籍で、研修テキストとして活用することを目的に書かれたようだが、単独の書籍としても十分に役立つ説明がされており、いわゆるテキスト本ではない。
日本でもプロジェクトマネジメントが一時ブームになり、かなり普及してきた。IT系企業を中心にして普及に向けてかなりの投資をしてきたが、十分な成果が得られているとは言い難い面がある。特に、新規顧客、新規領域など、戦略的色合いの濃いプロジェクトでは失敗しているケースが多い。
なぜ、成果が得られないのか?そして、どうすれば成果が得られるのか?その答えがこの本にある。
プロジェクトには2つのビューがある。一つは現場にとってのプロジェクト。もう一つは、経営にとってのプロジェクトである。現場にとってのプロジェクトはオペレーションである。これははっきりしている。これに対して、経営にとってのプロジェクトはどのような意味があるのかとなると、明確になっていないことが多い。
このようなプロジェクトをいくら賢明にプロセスマネジメントしてみても、うまく行かない。これが上に述べたIT企業で戦略的プロジェクトがうまく行かない理由である。
鈴木氏はこの本で、まず、プロジェクト成功の鍵として3つのポイントを上げている。
(1)未来、未知、未踏を前提にしたプロジェクトプラニングをせよ
(2)今まで踏み込んだことのない領域に行動範囲を広げよ
(3)プロジェクトとは問題解決プロセスであることを認識せよ
と述べている。このような発想で、まずは、プロジェクトの選択に関して
・リスクへの対策の要
・環境変化へのチャレンジ
の2つを柱にプロジェクトの選択をすることを提唱し、それそれについて具体的な評価方法を述べている。
さらに、このようなプロジェクトを実行するためにはプロジェクトリーダーに
・自発力
・構想力
・統率力
・親和性
などからなる「牽引力」のある人が必要だと主張する。そして、このようなリーダーがプロジェクトを「大成功」させている場合には、必ず、
・プロジェクト推進で得たい成果と起こる変化を「最初に」徹底的に分析
・プロジェクト成功に関わる内外環境の分析を見落としなく分析
・成功のための因子を整理し、社に影響を及ぼす重要因子を解明
・全体構想を推進する場合に直面する行動障壁を把握し、その打破の方法を立案
・リーダーと参加者が構想実現に強い熱意とプラン達成意志をもっている
・論理的、抽象的思考により、困難な問題解明に参加者が集中
・個々の情報の重要性を参加者が認知し、必要情報を交換しあう状況を作り出す
の7つの因子があると述べている。そして、このそれぞれを具体的にどのように進めていけばよいかを詳しく解説している。当たり前かもしれないが、このあたりまではPMBOKにかなり近い。問題はこの後だ
その中で、プロジェクトを成功させるために欠かせないのは、組織力であるとし、組織のプロジェクト力を強化するための具体的な方策を数々提唱している。ここが非常に参考になる。また、実際に経営として取り組むべきテーマ、立案のポイントについても多々アイディアを紹介している。ここも経営にプロジェクトを活かしたいと考えている人にはとても参考になる情報である。
さらには、プロジェクト推進の際に起こるさまざまな障害について、具体的な例を挙げながら、どのように対処行けばよいかを示している。
この本ではプロジェクトを
・意志決定のためのプロジェクト
・組織・行動設定のためのプロジェクト
・政策推進プロジェクト
・課題解決プロジェクト
・管理・技術・営業システムおよび制度開発プロジェクト
・ハードウエア設定・開発プロジェクト
の6つに分けることを推進している。そして、それぞれのプロジェクトで異なるプロジェクトマネジメントの方法を求められるとしている。たとえば、ITに関していえば、情報化投資は、ハードウエア設定・開発プロジェクトに相当する。あるいは一部のものは、課題解決プロジェクトをして実施されるべきものである。また、SI企業が行っている受注プロジェクトの中で、大規模なプロジェクトは政策推進のプロジェクトである。これらは、マネジメントの方法を変えていく必要がある。
また、小さなSIのプロジェクトはそもそも、プロセスを徹底的に洗練してうまくできるようにすべきであり、プロジェクトとして扱うべきではないことも同時に良くわかる。
経営企画業務に携わる人はもちろんだが、SI企業のマネジャーにもぜひ、読んでほしい本である。
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