プロデュースの構造が理解できる
楡 周平「プラチナタウン」、祥伝社(2008)
お勧め度:★★★★
年末に佐々木さんのプロデュース能力の本を紹介したが、プロデュースに対して一層の具体的なイメージを持ちたい方にはこの本をお勧めする。
人口1万5千人、税収6億円足らずの緑原町はご多分にもれずハコモノ行政の繰り返しで150億円もの負債を抱えていた。負債は周辺自治体の倍で、平成の大合併からもはじき出され、財政再建団体への道を一直線。そこに緑原町の出身で、日本一の商社四井商事で部長まで上り詰めるも出世の道を閉ざされた山崎鉄郎が、同級生のクマケンの頼みで町長となり、古巣とのコラボレーションで町を立て直していくという物語。
どこでもありそうなストーリーだ。状況設定のポイントはいくつかある。最大のポイントは、血を流したくないという問題解決上の制約。人員削減や、人員削減に睦びつくハコモノ施設の廃止などは論外。二つ目は前提。住民には都会と同じようなサービスを快適さ、利便さを求めている、権利があるという思い込み。この思い込みは役所の職員の存在意義にもなっている。三つ目は自分たちだけでなんとかしなくてはならないという思い込み。四つ目は自分の利益をひたすら追求するステークホルダの存在。
要するにすべては負の資産なのだが、唯一、プラスの資産といえそうなのは病院施設。これもハコモノなのだが、検査設備がそろっているわりには利用者が少ないので、待なくてよいという理由で近隣地域からもやってくるという設定。
基本的なストーリーとしては、ここに8千人規模の老人や要介護者の街をつくり、それによって介護士やモールなどの雇用創出をし、人口を増やし、商いが生まれ、税収が増えていくというもの。まさに、目に見えていないものを作り出すということだ。
問題解決のポイントはいくつもあるので、実際に読んで確認してほしい。僕が特に響いたポイントを紹介しておく。
一つ目は、常識的に考えたのではステークホルダ全員が満足する方法はないという状況で、みんながちょっとずつ我慢することによってしのごうという発想がないこと。こういう状況では、議員も公務員も給与を下げ税金を節約、、住民は不便を我慢する、新しい都市機能はほしがらない、作らない、といった縮退を基本にした問題解決が行われることが多い。いわゆるリストラだ。
「リストラ」が問題解決になるのはまだ、余裕のある状況である。パイでいえば、まだ、全員が食べるだけのパイがあればそれもよい。しかし、どう分けても足らないという状況ではこんな発想ではどうしようもない。パイを食べた人は新しいパイを作ってみんなに食べさせてくれないと話にならないのだが、みんなが足らなければ誰も自分が新しいパイを作ろうとはしないだろう。ここで誰かが犠牲になって、おなかいっぱいパイを食べた人が新しいパイを作るというヒーロー待望的な発想もなくはないが、ナンセンス。
ビジネスでいえば、1~2年で不況が変わるのであればリストラというのは一つの手段である。しかし、3~4年続けば「リストラ」は解決にならない。リストラの語源であるリストラクチャリングとは、事業の再編成である。事業をやめるだけではない。したがって、新しい事業の創出が伴う。この話では、それが老人の街を作ることだったわけだ。
二つ目は、目的(ビジョン)の重視。もっとも重視すべきことは、住民の利益を守ることだが、興味深いのは「可能性」という利益には目的を考えたトレードオフを徹底していること。たとえば、作ろうとしている施設は、都会のサラリーマンにとっては格安だが、地元の給与水準からするとかなり高く、誰もが手を出せるものではない。この状況で迷うのは必ずしも役所の発想だけではないが、
三つ目は自分ができることを前提にしてものごとを考えていないことだ。日本のエリート階級には自分の中でものごとを考えることを潔しとする文化がある。「武士は食わねど高楊枝」という文化がその典型だ。二つ目とも関係してくるが、まず、目的を創る。この際に何ができるかということは考えない。そして、目的が決まったら、どのように実現していくかを考えていく。実現性を全く無視するわけにはいかないので、実際にはある程度、この2つは並列して進めることになるが、そこで重要なことは箱に閉じこもって考えるではなく、今回の主人公が四井との間で行ったように、コラボレーションをしながら考えていくことだろう。
四つ目は、病院はもちろんだが、ハコモノとして厄介扱いされていたものが、どんどん、資産に変わっていくことだ。負の資産がある中でリストラクチャリングをするということは、新しい世界を定義することによって、今まで負の資産だと考えられてきたものを、(正の)資産として位置づけることができるようにしたことだ。管理人の人件費すらでない、ゴルフ場、プール、養殖されて捨てられ、巨大化したイワナ、等など。
実はこの4つはいずれも、プロデュースを行う際のポイントになるところである。
最後にこの本のお勧めの読み方。
まず、プロデュース能力を読みます。
佐々木 直彦「プロデュース能力 ビジョンを形にする問題解決の思考と行動」、日本能率協会マネジメントセンター(2008)
もう少し、簡単に知りたい人はこちらでもいいでしょう。
そして、プロデュース能力に書かれていることと照らし合わせながら、プラチナタウンを読み進めていきます。プロデュース能力の理解が深まるでしょう。
コメント