プロデューススキルの全貌が明らかに!
佐々木 直彦「プロデュース能力 ビジョンを形にする問題解決の思考と行動」、日本能率協会マネジメントセンター(2008)
お薦め度:★★★★★
この本には誕生ストーリーがある。この本は、佐々木氏が1999年に日本能率協会マネジメントセンターから依頼され、一旦挫折したそうだ。同時期に、偶然、PHP研究所から同じ依頼があったが断った。ところが、PHP研究所でオファーした編集者の方がいつのまにか日本能率協会マネジメントセンターに転籍され、それを知った佐々木さんが日本能率協会マネジメントセンターに再チャレンジを持ち込んだというのだ。そして、最初から数えて10年かかり、やっと世の中にでてきたそうである。
そのストーリーを読んで、「これだけの本を作るにはやっぱり10年はかかるよな」と思わせるくらいよくできた本である。
この本が焦点を当てているのはプロデューサではなく、プロデュース能力である。プロデューサというと、映画やテレビなどのイメージが強いが、プロディース能力というのは何も、その人たちだけに必要なものではない。
というよりも、映画やテレビでは当たり前の話であって、必要性でいえば、むしろ、今、プロデューサという職業がない分野でのほうが大きいかもしれない。佐々木さんはこの本の中で、部長や課長にこそ、必要だと力説している。そのために、プロデュース能力というのをスキルとして切り出し、体系化している。
また、体系化の按配もよい。おそらく、これ以上細分化すると、全体像が分からなくなってしまうぎりぎりまで、形式化している。
さて、内容だが、まず、プロデュースの構造の構造を与えている。図示されているので、ここでは正確に紹介できないのが残念だが、ビジョンから始まるおおよそ以下のような構造を定義している(p20)。この図を書ききったことはイノベーションだと思う。
組織化
↑
↓
ビジョン ⇔ プロジェクト創造 ⇔ 自分
(ストーリー) ↑ (コンセプト)
↓
具体化
この構造をベースにして、本書の中核をなすのは「プロデュース思考」と呼ぶものである。これは
ビジョン:自分の欲求・動機と実現したいものはなにか
戦略:どんな方法によってプロデュースを実現するか
価値:どんな価値を生み出すか
という3つの要素と実現までの「ストーリー」で構成される。これによって、プロデュースを推進していく。
プロデュースを行う際に問題になるのは、行動の壁であるという。これに対して、プロデュース思考は、
・論理的に飛躍した発想を肯定する
・心に湧き起こる感情や直感を重視する
・反対多数でも実行できると考える
という3つの思考規範により壁を乗り越えていこうとする。そのためのポイントになるのが「小さな行動」であり、これは
・生の情報を収集する
・支援者・共感者をつくる
・より良い未来仮説をつくる
・自分のモチベーションを高める
の4つの目的を持って行われる行動である。この「小さな行動」により、
・深層心理的ブレーキ
・物理的ブレーキ
・身体的ブレーキ
の3つのブレーキに打ち勝つことができるというのが著者の主張である。
さらに話はプロデューサーの話に発展する。本書はプロデューサの行動は
・ビジョンを設定する
・戦略を提示する
・チームを育成する
・ネットワークする
・環境を最適化する
・プロモーションする
・成果を共有する
の7つだと述べている。ここでプロデューサと呼んでいるのは、著者の提案するプロデュース能力を持って行動する人材像であってあって、必ずしも普遍的なプロフェッショナルなプロデューサのあり方の議論ではないことに注意しておくべきだろう。
ちょうど、最近、「イノセンス」や「攻殻機動隊」で著名なプロデューサである石川光久さんの自伝的な本を読んだ。この本だ。
石川光久「現場力革命」、KKベストセラーズ(2008)
この2冊は併せて読むことをぜひお奨めしたいのだが、石川さんはこの本の中で、世の中にある「プロデューサー論」はすべて「幻想」だと言い切りながらも、自分のやり方にプロデューサー像を込めている。それはほぼ、佐々木さんの述べるこの7つのフレームの中に納まっていると思われる。
人材像(スキル)としてはそうなのだが、プロフェッショナル像としてはこれにスタイル(専門性)が入ってくる。それがそのプロデューサとしての価値になるというのが石川さんの主張。石川さんの場合だと佐々木さんのいうところの「環境の最適化」をもっとも重視しているように思える。
これに対して、佐々木さんが重視するのはビジョンである。これはかかわってきた分野の違いだと思われる。佐々木さんも単なるコンサルタントの域を超え、ビジネスプロデュースの活動をされているようなので、その中で生まれた価値観なのだろう。佐々木さんも石川さんも1958年生まれ。50歳である。両者の違いはキャリアの問題、プロデューサのあり方論も含めて興味深い。
おそらく、石川さんがプロデューサ論が「幻想」だといっているのは、どこを重視するかは個人のよって違うし、そもそも、「論」じることができない(意味がない)ということだと思うが、そうだとすれば、大いに共感できる。
さて、佐々木さんの本では、このあと、ビジョナリーリーダーシップを如何に育成していくかについて述べられている。ここでは、ビジョンとは何かということを、特にビジョンの創出と個人のキャリアとのかかわりで力説している。そして、それを如何に語っていくかというところで物語の効用を説いている。
最後にプロデュースを成功させるためのポイントとして、ロジックと熱(意)との両立の重要性を説いている。
以上のようになかなか全貌がはっきりしないプロデュース能力を体系化した力作。忙しいけどなかなか未来が見えてこないミドルマネジャー、これからそこに突入するジュニアマネジャーなど、プロデューサとして活躍してほしい年代はもちろんだが、新入社員にも読んでほしい一冊である。プロデュース能力はプロデューサだけのものではない。きっと組織を変える原動力になる思考法である。
【目次】
第1章 プロデュースとは何か
プロデュースとは
プロデュースの広がり
プロデュースが可能にする問題解決
第2章 プロデュース思考
実現する夢の描き方
プロデュース思考の特徴
未来を拓く鍵
第3章 壁を越える行動
プロデューサーの小さな行動
実行チームをつくる
なぜ行動できないのか
変化はあるとき急速に起きる
第4章 ビジョナリー・リーダーシップ
ビジョナリー・リーダーシップとは何か
ビジョンについて理解する
ビジョンの語り方
ビジョンはどこから生まれるか
第5章 「熱」と「ロジック」が推進力
プロデュース始動
熱が人を動かす
突破口を開くアイディアと戦略
◆関連セミナー
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好川さん
PM関係でどこかでお会いしているはずですが、ここのブログは初めて読ませていただきました。
触れられている佐々木氏は、知り合いなので、私も同じく「書評」を書こうとした矢先に、このブログに行きつきました。
彼は現役のコンサルタント会社社長であると共に、ノンフィクションを書いている作家でもあります。
10年かかった力作であることは、私も同感です。
投稿: 篠田 | 2009年1月 8日 (木) 11:27