ヤクザに学ぶプロジェクトマネジメント
山平重樹「ヤクザに学ぶ組織論」、筑摩書房(2006)
お奨め度:★★★1/2
この種の本をどのように評価するかは難しいところだ。いくら、ヤクザのシノギが経済活動になったといっても、ビジネス組織とヤクザ組織はまったく違うだろう。極端な例で、役に立たない。まずは、こういう評価があるだろう。
一方で、組織としての本質は変わらない。コンプライアンスに目をつぶれば、組織としてうまく行っていることは事実であるので、大いに参考になるという評価もあるだろう。
一ついえることは、山平重樹氏はよく業界を知っており、読み物として非常に面白い。これは間違いない。
実は、ビジネスを睨んだ本はこれが初めてではない。非常に話題になったのはこの本。
山平重樹「ヤクザに学ぶ交渉術」、幻冬舎(2002)
この本の内容もさることながら、アマゾンの書評を見て非常に興味を持った。役に立つ、くだらないという意見が二分されているのだ。
僕自身がどう思ったかというと、ヤクザというのは組(織)を背景にして動いているのだと思っていたが、意外とそうでもないなということ。ビジネスでいえば、ベンチャー企業などはこういう発想でやらないとなかなか、既成ビジネスや大きな企業に対抗できないだろう。
逆に大企業の発想でいけば、品がない、まともな発想ではないという理屈になる。実際に、ベンチャー企業を「ヤクザ呼ばわり」する大企業の社員には、何度となくお目にかかったことがある。
もう一冊、こんな本も出ている。
山平重樹「ヤクザに学ぶ指導力」、幻冬舎(2003)
こちらも同じような感じ。
さて、肝心の今回の新書だが、上の2冊は幻冬舎のアウトロー文庫というやや、際物シリーズから出たものであるが、今回は、筑摩新書である。その分、書き方はおとなしく、読み物としてはそんなに面白くない。その分、考察が多くなっており、ちゃんとした組織論の本である。
違う見方をすれば、前の2作は人の行動を問題にしたものに対して、今回は組織なので、その違いもあろう。
しかし、プロジェクトの組織マネジメントをするときに、非常に役に立つ内容である。
プロジェクトマネジメントのコンサルティングをしていると、組織の品格がプロジェクトとしては足かせになっていると感じることがちょくちょくある。「お行儀がよい」というやつ。もう少し、タフなネゴをすればいいのにと思うようなことも少なくない。
ちょうど、今、「テレビで行列のできる法律相談所」をやっていて、「電気屋で16万3千円のテレビを競合店で15万円で売っているとうそをいって、値引きさせたら詐欺になるか」という問題で、意見が真っ二つに割れているが、結局、こういうレベルの交渉をどう考えるかだ。コンプライアンスに問題ありだと考えるか、方便だと考えるか?
法律的な問題はよくわからないが、ビジネスとしてみれば、15万円で売って赤字がでるなら、期末決算期のような特別な状況を除くと、値引き交渉には応じないだろう。仮に何らかの理由で応じたとしても、何らかの利益はあるのだ。それは間違いない。ビジネスとはそういうものだ。そう考えると、必ずしもビジネスエシックスを逸しているとも言い切れない部分がある。あくまでも、CIのレベルの問題だろう。
組織の品格を保ち多少の経済的犠牲はよしとするか、タフなネゴをして何とかしてプロジェクトを成功させるかは自由だ。ただし、両立ができるケースは少ないということはキモに命じておく必要がある。
まあ、死に物狂いで、対面をきにぜすに、しかし、エシックスは保ちながらプロジェクトを薦めていくようなプロジェクトマネジメントをするのであれば、この3冊は、全て役に立つ本だと思う。
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