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2013年6月 3日 (月)

会社の老化を解く

4750513059 細谷 功「会社の老化は止められない――未来を開くための組織不可逆論」、亜紀書房(2013)

お奨め度:★★★★★

細谷功さんの集大成の一冊。人間と会社とのアナロジーで会社にも「後戻りのできない「不可逆プロセス」の進行」としての老化現象があるという仮説のもとに、会社が老化してくると何が起こるか、そして、どのようにどのように対処すればよいかを示した一冊。

老化とは

・数が増える
・均質化する
・複雑化する

ことで会社が劣化する現象である。この劣化は具体的には以下のようなことが起こる。
・ルールや規則の増加
・部門と階層の増殖
・外注化による空洞化
・過剰品質化
・手段の目的化
・顧客意識の希薄化と社内志向化
・「社内政治家」の増殖
・人材の均質化・凡庸化
・・・

などである。これらはいったん始まると、プロセスを逆戻りして若返ることはない。つまり、不可逆なのだ。

具体的な現象を別の視点から整理してみると、まず、人間の心理の不可逆性として

・変化に抵抗し、それまでの習慣に根拠もなく固執する
・一度得たものは手放せない
・期待値ではなくリスクの大きさに反応する
・低きに流れる
・手段が目的化する
・縄張り意識を持つ
・知れば知るほど近視眼的になる
・自分を中心に考える

といったことが起こってくる。まさに老化現象だ。

さ らに、会社が老化してくると思考停止が起こる。本書でいう思考停止とは「上位概念で考えられなくなること」である。つまり、考えるとは自らを客観的に見る ことであり、手段だけでなく目的と手段を併せて見ることであり、部分ではなく全体と部分を併せてみることであり、また、具体的なものと抽象的なものを併せ てみることである。

下位概念しか見えなくなると、自分が客観的に見えなくなり、他責になってしまう。また、手段は目的より具体的で目に見 えやすいので、手段の目的化が起こる。この結果、仕事をルーティン化し、クリエイティブな仕事を減らす一方になる。手段の目的化の中で、顧客意識が希薄に なり、社内の組織の論理がまかり通るようになってくる。さらに思考停止により、ムダな定例会議が増えてくる。会議すらもルーティン化するためだ。

もっ とも重要なことは、目に見える範囲でしか仕事をしなくなる。たとえば、顧客の声を聞くことだ。顧客は目に見えるものしか要求しない。真の要求は目に見えな いところにあり、顧客の声を適切に聞けなくなる。そこに、組織の論理が合わされると、顧客は蚊帳の外というような組織になってしまう。

老化の怖いところは、一旦始まると止まらないことだ。たとえば、

・数の増殖
・細分化
・肥大化
・コミュニケーションコスト
・性善説から性悪説への流れ

などは始まると止まらない。そこに加えて大企業だと、触媒が存在する。

・ブランド力を高めれば社員の依存心が増す
・組織化すれば付加価値が失われる
・評価指標を多様化すれば人材が凡庸化する
・外注化すれば空洞化する
・成熟すればみんな同じになる
・M&Aが老化の拍車をかける
・規模の経済が頭の固い人材を増やす

などである。

そこで何とか変わろうとするのだが、残念ながら社内評論家・政治家が増殖し、イノベータ―が迫害される。よって、パラダイムシフトはかなわず、老化していくのみである。

ではどうすればよいのか。

老化は、防ごうとしても防げるものではない。期待できるのは世代交代である。つまり、子会社が親会社を逆転する。これが一つ。

しかし、現実にはそれも難しいとなると、残された道はそんなにない。まずは、運命だと思って受け入れる。次に、老化を遅らせる。ポテンシャルイノベータに期待するなどだ。

アナロジー思考の著者だけあって、人のメタファで組織をとらえ、いろいろと考察している。読んでいると胸がすくような本だが、結局のところ、人と同じように不老不死はないってことだ。

た だし、老化は本質的には肉体的な現象である。そこに、精神面とか、態度とかいろいろとついてくるわけで、本当に防げないのは肉体的な現象だけであり、事 実、この本でアナロジーしているような精神や態度を持つ立派な老人も少なくない。そう考えると年の取り方の問題であって、よい年の取り方というのは会社に とってもあるはずだ。

それを探し、組織文化として定着させていくのがリーダーの役割だと言える。誤解を恐れずにいえば、この本を読んでみんながアルアルと思うというのは、日本の企業にはその程度のリーダーしかいなかったというだけのことかもしれない。

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