「素敵な」リーダーのバイブル
國貞克則「悩めるマネジャーのためのマネジメント・バイブル」、東洋経済新報社、(2008)
お薦め度:★★★★★
著者が自分のマネジメントに対する想いをまとめた本。書籍としてみれば決して読みやすい本ではないが、この本に書けた熱意はひしひしと伝わってくるし、何よりも述べられていることが素晴しい。書き方もよく考えられているように思う。おそらく、MBA理論の部分を除いてしまうと、結構、ありがちな経営の精神論か、成功したコンサルタントの経験論のような内容になってしまうのではないかと思うのだが、あくまでもベースはMBA理論であって、それを現場でどのように解釈し、どのように適用していくかを書いた内容になっている。
MBA理論を書いた書籍は3種類ある。ひとつは、特に欧米のMBAコースでテキストとしてよく使われる定番本を翻訳した書籍だ。二つ目は独自のMBAコースのプログラムを作り、そのプログラムで使うテキストとして執筆された本だ。MBA理論と呼ばれるものの90%以上は欧米の理論なので、結局のところ、このタイプの本は欧米で使われている分野ごとのテキストを編集したような内容のものが多くなる。グロービスのMBAシリーズはこのタイプの本だ。もうひとつは、MBA理論を簡単に噛み砕き、教えてくれる本だ。三つ目はMBA理論を噛み砕いて、エッセンスだけを教えてくれるような入門書だ。
この本は、マネジメント理論、組織行動論、戦略論を中心に書かれているので、基本的にはMBAの本だと思うが、上の3つのいずれでもない。ある程度、マネジメントの実践をしている人を中心に、MBAの理論を背景してマネジメントのあり方を説いた本である。その意味で、まさにバイブルであるし、ターゲットになるのは守破離でいえば、破や離の段階に差し掛かったマネジャーではないかと思う。こういう人たちが本を読んで勉強するかどうかは別にして、読ませる内容に仕上がっている。
また、逆引きのような使い方もできる本だ。つまり、自分が著者の考えに共感できる部分があれば、そこにどのようなMBA理論があるのかを知り、その部分をより詳しく勉強してみるような使い方もできるだろう。これはひょっとすると、日本のようなキャリア環境の中で必要な人がMBA理論を勉強し、役立てていく方法としては画期的によい方法かもしれない。
戦略、マーケティング、組織行動論など、全体を通じて主張されているのは、自責(自分に矢を向ける)、相手中心、人間中心の3つである。この3つの概念は深い含蓄と相互関係があるが、著者は「東洋的論理思考」という言葉で
・分類から全体へ、分析から感性へ
・因果の間に縁がある
・人間を中心にした非合理的判断の尊重
という提案している。
著者がこの本で描くマネジメントのあるべき姿は「素敵」である。素敵な上司、素敵なリーダー、素敵な人、素敵な会社、素敵な組織。
素敵を実現するためのいろいろな考え方がぎっしりと詰め込まれた本である。どこが響くかはその人のスタイルやおかれている立場、今困っている問題でさまざまだと思う。ちなみに僕は、マネジメントは計画と管理ではなく、「創造」と「貢献」であるというのが一番響いた。あなたにもっとも響くのはどのくだりだろうか。時間がかかると思うが、しっかりとひとつひとつのセッションを読んでほしい。
最後にひとつだけ余計なことを書いておく。この本の中にもダイバーシティの重要性の指摘が何度が出てくるが、この本を読むには、その点をよく認識しておく必要がある。表現が結構エッジが聞いているので、言葉に引っ張られると著者の意見の本質を見失ってしまい、考え方に共感できるかどうかを問うようなファン本になってしまう。著者がどういうつもりで書いているかは別にして、そのような本として読んでしまうのはもったいない。特にMBA理論を知っている人には、冷静に著者の言わんとしていることの本質を考えながら読んでいただきたい。それに応えることができる本である。
【目次】
第I部 マネジメントとは何か
第1章 会社とマネジメントにまつわる誤解について
第II部 組織と人に関する問題
第2章 すでに私たちはマネジャーには何が必要なのか知っている
第3章 自己中心性が問題を引き起こしている
第4章 この複雑なる人間とどう向き合うか
第5章 部下の「やる気」と「能力」を高めるために知っておくべきこと
第6章 優しさだけでは人を引っ張っていけない
第III部 戦略思考について
第7章 戦略思考にまつわる誤解について
第8章 戦略論の本質
第9章 戦略論への新しい考え方の提案
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