自分の中の自分をコントロールする
鈴木義幸「セルフトーク・マネジメントのすすめ」、日本実業出版社(2008)
お薦め度:★★★★1/2
日本のビジネスコーチングの祖である鈴木義幸氏がセルフコントロールについてまとめた一冊。もともと、臨床心理学の専門の鈴木氏だけあって、周辺分野も含めて体系的に述べているので、説得力のある一冊になっている。
この分野に興味を持っている人なら、ティモシー・ガルウェイのインナーゲームという本をご存じの方は少なくないだろう。もう30年以上前にテニスのコーチ理論をテーマにして書かれた本で、スポーツにおける指導に衝撃を与えた本で、コーチングの原点だとも言われている本である。
ティモシー・ガルウェイ(後藤 新弥訳)「インナーゲーム」、日刊スポーツ出版社(2003)
ティモシー・ガルウェイが示した理論は、テニスプレイヤーには、自分自身に話しかけ、叱責し、支配している自分と、その命令によってボールを打つ自分がいる。前者の口数が少なくなればなるほど、実際のプレイがよくなることを臨床的に証明した理論である。
その後、この理論をゴルフや、仕事に応用した本が出版されている。
ティモシー・ガルウェイ(後藤 新弥訳)「インナーワーク―あなたが、仕事が、そして会社が変わる。君は仕事をエンジョイできるか! 」、日刊スポーツ出版社(2003)
さて、鈴木氏の本は、ティモシー・ガルウェイの理論を拡張し、「自分の心の中の会話(セルフトーク)」をコントロールすることによって、セルフコントロールをするセルフトークマネジメントという方法論を示したものである。
セルフトークマネジメントが何かを理解するには、本書の最初に示されている例がよい。部下が約束を守らないとどなりちらす事業部長がいる。この事業部長の心理的な動きを分析すると
(1)まず、「許せない」というささやきが自分の中で生まれる
(2)すると、目の前の部下以外は誰も見えなくなる
(3)胸の辺りが圧迫され、息が詰まる
(4)大爆発!
というフローが起こっていることがわかった。そこで、事業部長に「許せない」と思うのではなく、「何があったんだろう」とささやいてみてはどうかと相談したところ、その後、事業部長の爆発はなくなったという例が述べられている。
「許せない」、「何があったんだろう」というのがセルフトークであり、それをうまくコントロールすることにより自分の行動をコントロールするのが、セルフトークマネジメントである。
このようなセルフマネジメントが有効な理由として鈴木氏は以下のような理由を述べている。人間の反応というのは
刺激
→ブリーフ(価値観、アイデンティティなど)
→セルフトーク
→感情
→行動
のような反応をする。行動を変えるためには、このうちのいずれかを変える必要がある。ここで、ブリーフを変える自己啓発セミナー、感情を変えるアフォーメーション、ポジティブシンキングなどは、なかなか、定着しない。また、認知行動療法は一人では難しい。そこで、セルフトークをコントロールするのが現実的な方法である。
この本では、セルフトークには感情を呼び起こし「反応」を引き起こすもの(セルフトークA)と、理性を呼び起こし、「対応」を引く出すもの(セルフトークB)がある。そして、セルフトークAにはポジティブな感情を引き出すものとネガティブな感情を引き出すものがある。
セルフトークをコントロールすためには以下のような方策がある。
セルフトークを「変える」……ネガティブな感情から脱する方法
セルフトークを「使う」……行動を強化・修正する方法
セルフトークを「減らす」……集中力を高める方法
セルフトークを「なくす」……最高の実力を発揮する方法
本書では、それぞれについて具体的な方法の述べている。それぞれ、どういう方法が有効なのかは本を読んで頂くとして、支援のない環境で取り組むには、この本で述べられている方法は極めて現実的で、試してみる価値のある本だ。
この本で書かれている手法が有効になるのは、自分自身が解放されることが前提になっていると思われる。これは言うのは簡単だが、結構、難しい。性格の問題があると思う。ここをどう克服していくかは課題である。
最後に少し、脱線したい。鈴木氏は、究極的な状況は4番目のセルフトークをなくすことだという。これはスポーツであればゾーンであり、一般的にはフローである。
フローは、最近リーダーシップの分野でシンクロニシティとの関連が議論されており、セルフトークマネジメントは、セルフマネジメントを超える可能性がある感じた。その点でも興味深い一冊である。
この点についてはこの記事を参考にしてほしい。
目次
Part1 セルフトークとは何か
Part2 セルフトーク・マネジメントのための基礎知識
Part3 セルフトークを「変える」……ネガティブな感情から脱する方法
Part4 セルフトークを「使う」……行動を強化・修正する方法
Part5 セルフトークを「減らす」……集中力を高める方法
Part6 セルフトークを「なくす」……最高の実力を発揮する方法
Part7 セルフトーク・マネジメントで何が変わったか
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