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2020年7月16日 (木)

知識の「幅」でVUCAな世界に対応する

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デイビッド・エプスタイン(中室 牧子解説、東方 雅美訳)「RANGE(レンジ)知識の「幅」が最強の武器になる」、日経BP(2020)


(Kindle)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0868DR36/opc-22/ref=nosim
(紙の本)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822288773/opc-22/ref=nosim

 

お薦め度:★★★★★

  

  

  

  

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本書はアメリカの科学ジャーナリストであるデイビッド・エプスタイン氏の著書で、知識の幅について議論した本である。簡単に言えば、ジスペシャリストが活躍するにはどういう態度が望ましいかという議論だ。

世界的にこの10年くらいのトレンドとして、「早期教育」、「1万時間の法則」、「グリット」といった概念が広まっているように、専門特化の必要性がさまざまな分野でよく言われている。本書はこのトレンドに意義を唱えるものである。特に、グリッドの批判には1章割いているのが、注目される。

本書の冒頭でタイガー・ウッズとロジャー・フェデラーの両者がスターになった道のりが詳しく述べられている。

簡単にいえば早くからメジャーの制覇を目指してトレーニングをしてきたのがタイガー・ウッズであり、いろいろな分野に興味を持って手を出し、結果としてテニスで成功したのがロジャー・フェデラーである。

そして、本書は、専門特化以外の人材の育て方もあるという提唱をするもので、そのポイントとして「知識の幅を武器にする」ことを挙げている。

実際に専門特化への流れは強くなっている。特に最近単なる個人レベルの細分化にとどまらず、システム全体の細分化が目立つ。専門に特化したグループを作り、小さな部分に目を向けていくというやり方だ。この背景には専門の高度化があるとされるからだが、これが非常に大きな問題を引き起こすようになってきた。本書では金融や医療の例が紹介されている。

例えば、2008年の世界金融危機の分析で明らかになったのは、大手銀行組織の細分化である。全体の中でごく小さな専門に特化した多くのグループが、自分のグループのためにリスクを最低化していたため、大惨事が起こった。2009年に連邦政府のプログラムが立ち上がり、苦労しながら部分的に借り入れの返済ができる人たちに対して、月々の返済額を引き下げるように銀行を支援しようとした。これに対して、銀行の住宅ローン貸し付け部門は住宅所有者の返済額を下げたが、差し押さえ部門は、住宅所有者の返済額の減額に気づき、債務不履行を宣言し、住宅を差し押さえた。

もう一つの例として挙げられているのが、医療で、医療分野では高度に専門化された医療関係者が「金槌を持っているとすべてが釘に見える」症候群が起こっていると指摘している。その例として取り上げられているのが心臓の医療の例で、カテーテルによる治療を専門とする専門医は、胸の痛みをステントで治療することに慣れており、ステントを用いることが不適切な場合にもステントを利用するという。その証拠として、学会で心臓専門医が全国で何千人レベルで病院を留守にした期間に、入院した心臓病の患者の死亡確率が小さくなっているという現象を取り上げている。

この問題に対して、ある国際的に著名な科学者は専門特化の傾向が進むにつれて、「平行溝のシステム」ができていると指摘している。つまり、誰もが自分の溝を深く掘り続けることに専念しており、隣の溝に自分が抱えている問題の答えがあるかもしれないのに、立ち上がってみようとしないというのだ。

そして、未来の科学者の教育を「非専門化」しようとしている。これは彼自身が専門に特化するように求めらたにも関わらず、幅を広げたことで莫大な効果を得てきたためだ。まさに、タイガー・ウッズ方式ではない道を歩ませようとしているのだ。

これらの例から学べることは、世界がVUCAになり、複雑さや複雑さは増し、テクノロジーでつながってることにより、どんどん大きくなっていき、個人やチームが見える部分はごく小さくなっている。その中で、タイガー・ウッズのような早熟さや、明確な目的意識が求められることはある。しかし、幅広く始めて、成長する中でさまざまな経験をし、多様な視点を持つ「レンジ」のある人たち、つまり、ロジャー・フェデラーの必要性も高まっている。

本書はこのような問題を指摘し、かつ、

・少なく、幅広く練習する効果
・速く学ぶか、ゆっくり学ぶか
・未経験のことについて考える方法
・「いろいろな自分」を試してみる
・時代遅れの技術を水平思考で生かす

といった基本行動の解説を踏まえて、解決するための方向性として

・慣れ親しんだ「ツール」を捨てる
・意識してアマチュアrになる

という2つを示している。このような形でレンジを広げていけばよいという助言をしているわけだが、興味深いのはなぜレンジを広げるのは難しいのかを示した上で、「後れを取ったと思わない」という指摘をしている。これはその通りである。

日本では事務職と専門職という区分がある。そして、実務も事務もオペレーションはどんどん専門化し、さらにどんどん細分化している。このような専門職については、レンジを広げた方がいい。

ただし、漠然といろいろな経験をしたジェネラリストになるとキャリアは行き詰る。マネジメントも含めて専門性が必要だ。そのためには、応用力などのコンセプチュアルスキルを身につけ、隣でやっていることを自分の専門に活かしていくことが不可欠である。

このように考える人は、ぜひ、この本を読んでみて欲しい。考えない人は、一度、第10章の「スペシャリストがはまる罠」を読んでみられるといいだろう。

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