組織は管理欲求を満たすためにウソを定着させる
マーカス・バッキンガム、アシュリー・グッドール(櫻井 祐子訳)「NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘」、サンマーク出版(2020)
(Kindle)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B089N4JW6H/opc-22/ref=nosim
(紙の本)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4763138162/opc-22/ref=nosim
お薦め度:★★★★★
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「最も影響力のある経営思想家」トップ50人にも選ばれているマーカス・バッキンガムの待望の新刊。
バッキンガム氏は、定石とされているマネジメントについて斬新な考えを示し、過去にも
「まず、ルールを破れ―すぐれたマネジャーはここが違う 」(日本経済新聞出版社、2000)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532148677/opc-22/ref=nosim
「さあ、才能に目覚めよう」(日本経済新聞出版社、2001)、
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532149479/opc-22/ref=nosim
「最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと」(日本経済新聞出版社、2006)
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などの著書で日本でも人気のある思想家だ。今回の新刊は、
なぜ職場で「ホント」のこととして定着している考えや慣行の多くが、働く人々を助けるどころか激しくいらだたせ、疎んじられているのだろう
という疑問を出発点にしている。
そして、マネジメントのさまざまな思い込みをさまざまな例を挙げて、9つのウソという形で分けている。その9つとは
ウソ#1 「どの会社」で働くかが大事
ウソ#2 「最高の計画」があれば勝てる
ウソ#3 最高の企業は「目標」を連鎖させる
ウソ#4 最高の人材は「オールラウンダー」である
ウソ#5 人は「フィードバック」を求めている
ウソ#6 人は「他人」を正しく評価できる
ウソ#7 人には「ポテンシャル」がある
ウソ#8 「ワークライフバランス」が何より大切だ
ウソ#9 「リーダーシップ」というものがある
である。一つ一つ見ると、このウソに違和感を感じない人はマネジメントがうまくいっていないと思う。もちろん、社内では評価されていないという意味ではなく、価値を生み出すマネジメントができていないという意味でうまくいっていない。
例えば、#3。組織の目標を上から分割して与え、すべての目標を連鎖させることが業務においてもプロジェクトにおいても仕事での連携を図り、人材を評価するために最適だとされている。プロジェクトマネジメントに至っては、ワークブレークダウンだとか、目標のブレークダウンといったツールすらある。
しかし、現場はこのようなプロセスを邪魔になるとすら感じている。
このように、仕事の世界に満ち溢れている欠陥の多いシステムやプロセス、ツール、前提などにより、我々の仕事で個性を発揮することができなくなっている。
調査をしてみると、高業績チームはそんなことはしていない。意味と目的だけを伝えて、仕事を動かしている。
このようなマネジメントに関わるウソが通用しているために、結果として熱意をもって仕事に取り組んでいる労働者、言い換えるとエンゲージメントの高い労働者は20%に過ぎないことが分かっている。
ということで、この本ではウソの陰に隠れたより普遍的な真実を明らかにすることを目的としている。実は上に述べた9つのウソの背景にある問題点はいくつかのカテゴリーに分かれている。
ウソの1から3は、組織の文化や計画、目標がなぜこれほど、一方的に押し付けられているのかを考えている。そして、これらの問題を乗り越えて全員が力を合わせるためのよい考え方を示している。
ウソ4から7は、人間の性質の別々の側面を取り上げ、一人ひとりの人間が異なっている中で、どうしたら自分や周囲の人の力を最大限に伸ばしていけるかを考えている。これこそ、日本でもっとも重要なポイントかもしれない。
次にウソ8では、なぜ仕事と私生活のバランスが取れた状態が理想的とされるかを明らかにし、まったく違う目標を示している。
最後にウソ9では、リーダーシップに対して抱く恐怖の念について考えた上で、誰かのビジョンに情熱を吹き込むと起こることを新しい観点から考えている。
いずれも日本の組織においても信じられているウソばかりであるが、この本の素晴らしい点はこういったウソがなぜ定着したかが示されていることだ。それは、簡単にいえば、管理をするためである。そのように考えると日本でも対処のしようはあるだろう。
ぜひ、そのような読み方をしてほしい本である。
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