今いる地点から、未知のB地点にたどり着くために
エイミー・ウィテカー、山口周(電通 京都ビジネスアクセラレーションセンター編、不二 淑子訳)「アートシンキング 未知の領域が生まれるビジネス思考術 (ハーパーコリンズ・ノンフィクション) 」、ハーパーコリンズ・ ジャパン(2020)
お薦め度:★★★★★
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イェール大学でMBA、ロンドン大学スレードアートスクールで絵画のMFA(美術学修士)をとったのち、グッゲンハイム美術館、MoMA、テート美術館など主要なアート施設に勤務してキャリアを積み、ニューヨークの現代美術館であるニュー・ミュージアムのアーティスト養成所や数々の美術大学で経営学を教え、現在、ニューヨーク大学美術学部で助教授を務めるエイミー・ウィテカーさんの書籍に、ライプニッツの山口周さんがまえがきを加えた本。
この本でいうアートシンキングとは、今いるA地点から、未知のB地点にたどり着くことである。このためには、常に新しい問題を探さなくてはならないが、そのための様々な方法を適切な例を示しながら、説明している。
本書はまず最初に述べているのが、専門分野にとどまらず、ズームアウトして世の中を見ること。ビジネスの世界では、製品を効率的に生産することが求められ、物質的な価値が優先されがちである。しかし、実際には物質だけでなく、それを取り巻く環境が一体になって成り立っているので、人生全体を一つの風景として見立て、それを構成するパーツがどのように関連しあっているか考えてみるとよいという指摘をしている。
この思考の中で注目すべきなのが、本書で「スタジオタイム」と呼ぶ余白の時間における活動で探索を行うことが重要であるとしている。
次は結果でなく、プロセスに注目すること。草むらの中でもがくような創作活動を行うと、完成品を外からみるのと、制作過程の作品を草むらから見るのでは、見え方が違う。この違いを埋めるのは、判断をするのではなく、何がうまくいって、何がうまくいっていないかを理解する「把握」をすることだ。
この草むらでの活動が、失敗したとしても気づきを得て、未来のためになる。そして、このような経験を経て、新しいものに挑戦し、柔軟に対応する能力が身に付き、ブレークスルーを起こせるようになる。
三番目は前進させる問いを持つこと。これは、創造的な活動を行うときには、解決を見据えて進むのではなく、問いをもとに進むべきだという指摘。このような問いを著者は灯台に例え、深い本質を備え、周囲と繋ぎ、人生という筋書きを進めてくれる。
そして、その問いがビジネスにかかわるなら、新しさく、先行者になることができるようになるという。
四番目は、リスクをマネジメントして利益を保つことだ。前進できそうな問いをみつけたら、次に投資をしなくてはならない。ここで重要なのがリスクの管理だ。失敗する場合だけではなく、収益を上げることができる場合もリクすヘッジが必要である。
このために、ポートフォリオ思考と、知的著作権の所有というツールを使えばよい。ポートフォリオでダウンサイドリスク(損をするリスク)の管理をする。そして、知的著作権の所有はアップサイドリスクの管理をし、自身の収入を確保する。
五番目は、プロジェクトが育つ環境を作ることだ。アートシンキングの成果物を組織の内部で活用するためには、メンバーが安心して探求できる環境を作る必要がある。
そのためには、マネジャーは、完璧でなくてよいから、信頼のおける一環した態度で問題を解決し、メンバーの専門性を理解し、寛容さをもって創造的活動をするために求められるサポートをする必要がある。さらに、創造における理想と実行における現実を結ぶ懸け橋になる必要がある。
6番目は芸術的なビジネスモデルを作ることだ。このために、世の中におけるビジネスをモデルをよく観察し、知識とともに身につけ、応用していく。
未知のB地点を目指す場合、その価値を図ることは難しく、直観と想像力をもって創出そのものに焦点を当て、ビジネスモデルを発明しよう。
そして最後は、現在の複雑さの中で問いを発する力を身につけることだ。そして、この問いによってチーム全体を動かし、全員でジェネラスとになることだ。
以上のような活動で、新しい問題を生み出し、未知の地点(領域)にたどり着くことができるようになるというのが本書が述べているアートシンキングである。
このような活動の中で、特に印象に残るのが失敗の扱いである。四番目に示されているようにリスク管理を徹底することが述べられているのだが、これに関して山口周さんが非常に適切な指摘をしている。
すなわち、失敗コストが下がってきて、機会損失コストの方が大きくなるケースが増えている。このような時代であることを踏まえた上で、失敗に対する認識を考えよというものだが、まさに、これがこのアートシンキングの本質だといえよう。
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