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2014年1月11日 (土)

良い現場はグローバルな競争戦略のベースになる

4106105497藤本 隆宏「現場主義の競争戦略: 次代への日本産業論 (新潮新書)」、新潮社(2013)

お奨め度:★★★★

藤本先生が日本橋の経済倶楽部で行われた講演会の記録に基づき、加筆された本。日本の製造業に対する悲観論への反論と、持論である能力構築競争の今日的な理解が述べられている。

藤本先生の本の中では読みやすく、藤本先生の持論を知るにはお奨めの本だ。


この本にまとめられいるのは、リーマンショックの後、東日本大震災の後、アベノミクスが打ち出された後の3つの期間で、それぞれの期間に行われた講演の内容がベースになっているようだ。

ア ベノミクスで船長戦略の議論をするときに、製造業をどうするかという問題は非常に大きな問題である。日本現場がなぜ強いかという問いに対して、藤本先生は 企業と現場は別ものだという立場をとられている。企業はステークホルダーのために利益を追求するという資本原理で動いていても、現場は地域的存在で、現場 として生き残る「集団的意思」を持っている社会組織であるのが日本の現場だという。

だから円高などで如何に困難な状況になろうと、本社か ら改善を中心にした能力構築をして生き残っていく。そのような現場は本社が変わっても関係ない。面白い例が紹介されているのだが、ある地方の電子機器系の 生産子会社が中国のグローバル企業の傘下に入った。これまでは本社の制約が多かったが、中国企業は

ここは力があるので全世界の生産革新の中核にする。どんどん、イノベーションをやってくれ

といわれ、従業員は意気軒昂だという。

ちょっとしたエピソードとして紹介されているが、この事例が意味することは大きい。もし、本当に日本の現場力に競争力があるなら(実際に藤本先生はあるとしている)、アホな本社から解放されて、グローバル企業の競争力になることがあるということなのだ。

藤本先生は、そのような現場を「良い現場」と言われており、その条件として、継続的に能力構築をしていることだとしており、良い現場と大切にしてくれる限り、本社が企業であろうと外資系であろうと構わないとしている。

大いに考えさせられる話である。

日 本の現場は、多能工のチームワークで動く、サッカー型の組織だと言っているが、このような現場に向いているのが、摺合せ型のアークテクチャーを持つ製品だ という。逆に、欧米が得意とするモジュラー型のアーキテクチャーの製品には向かない。この数年、電機メーカが軒並み失速したのは、デジタルでモジュラー型 アークテクチャーの製品にうまく対応できなかったからだ。

製造業悲観論の背景にあるには、摺合せ型の典型であった自動車でさえ、デジタル技術の発達でモジュラー型に移行すると考えられているからだ。

こ こに議論のポイントがあるが、そのポイントは顧客の要求は「きりがない」ことだと言う。きりがないない要求に対応しようと思えば、摺合せ型が必要であり、 そのようなニーズに対応できるのが良い現場であり、良い現場こそ、成長戦略のスタート地点になるだろうというのが藤本先生の考えだ。

もう一つはモノ作りにおける良い現場の考え方は、製造業に限ったものではない。ITやサービス業にも展開できる。そのように良い現場という考えを抽象化し、他の分野に展開していくような施策が求められるのではないか述べている。

良い現場を前提にして、これから成長の中で現場をどうしていくかを考えるための示唆に富んだ一冊だ。

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