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2014年1月25日 (土)

「情けは人のためならず」を理論化した一冊

4837957463アダム グラント(楠木 建訳)「GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代」、三笠書房(2014)

お奨め度:★★★★★+α

対人行動の基本関係をギバー(人に惜しみなく与える人)、テイカー(真っ先に自分の利益を優先させる人)、マッチャー(損得のバランスを考える人)の3つのタイプに分けて、事例と心理学実験などを通じて、仕事におけるタイプと成果の関係を分析した一冊。米国でウォートン校史上最年少の終身教授になった著者のデビュー作として米国を始め、全世界で話題になった書籍の翻訳。

監訳者の楠木先生が「情けは人のためならず」を実証実験し、理論化された本だと述べられているがまさにそんな感じの本である。「情けは人のためならず」に共感できる人にはお奨めしたい。

まず、3つのタイプについてもう少し詳しく説明しておく。テイカーは常に与えるより多くを受けとうとする。ギブアンドテイクの関係を自らの有利になるよう にもっていき、相手の必要性よりも自分の利益を優先する。ギバーはギブアンドテイクの関係を相手の利益になるようにもっていき、受け取る以上に与えようと する。テイカーは自分を中心に考えるが、ギバーは他人を中心に考え、相手が何を求めているかに注意を払う。

この2つの中間にあるのが、 マッチャーで、与えることと受け取ることのバランスをとろうとする。この3つの関係は自分の役割や相手との関係でどのタイプになるかは変わるし、また、給 料の交渉をするときはテイカーになるが、未熟な相手に助言をするときにはギバーになるというふうに、変化する。ただし、仕事においてはたいていの人は、ど れか一つのタイプになっていることが多い。これが3つのタイプの前提である。

最初に非常に興味深い話から始まる。著者が行った販売員の調 査では、テイカーとマッチャーはギバーの年間2.5倍の売上げを上げていた。ギバーは強引に売りつけるようなことをせず、客にとって何がベストなのかを常 に気にかけるため、このような結果になったと思われる。ところが、意外なことに売り上げトップはギバーで、テイカーやマッチャーの平均より50%以上多く の売上げを上げていた。

同じような傾向は、エンジニアの生産性や医学大生の学業成績の調査でも見られた。ギバーのエンジニアは同僚の仕事 を手伝っているので自分の仕事が遅れ、生産性が低い。医学大生は同級生に勉強を教え自分の勉強に手が回らず、自分のテストの成績が悪くなる。ところが一番 生産性の高いエンジニアも成績のよい医学大生もギバーなのだ。

この本はこの不思議な現象を種明かしするとともに、パフォーマンスの悪いギバーではなく、パフォーマンスの高いギバーはどういう特徴を持っているかを解き明かし、さらに、そのようなギバーになるにはどうすればよいかを示唆している。

本書によると成功しているギバーは

(1)人脈作り
(2)協力
(3)人に対する評価
(4)影響力

の4つの点において、独自の、しかし共通性のあるコミュニケーション法を用いている。その方法の概要は

(1)人脈作り
新しく知り合った人々と関係をつちかい、以前から付き合いのある人々の結びつきを強めるための画期的なアプローチ
(2)協力
同僚と協力して業績をあげ、彼らの尊敬を得られるような働き方
(3)人に対する評価
才能を見極めてそれを伸ばし、最高の結果を引き出すための実用的なテクニック
(4)影響力
相手に自分のアイデアや関心事を支持してもらえるようなプレゼンテーション、販売、説得、交渉をするための斬新な手法

である。本書はこのようなアプローチ、働き方、テクニック、手法について、成功した例と失敗した例、その理由を説明するための心理学実験の例を始めて具体的に説明している。
また、テイカーがどういった失敗をするか、さらに、パフォーマンスの悪いギバーにならないためにはどうすればよいかについても論じている。

この本の読み方はいろいろとあると思うが、僕の場合は、一つ一つのポイントについて内省をしながら読み進んでいった。なかなか、適切で、納得性のある内容だと思う。

こ の本を読む前には、自分の周囲(あるいは日本人)はマッチャーが多いのではないかと思っていたが、2回目に読むときに今お付き合いのある人の顔を思い浮か べながら読んでみたら、意外とテイカーが多いことが分かった(隠れテイカー?)。この本では、ギバーがテイカーに振り回されないためにはどのようなことに 注意すればよいかを論じており、参考になるだろう。

いずれにしても、非常にインパクトが大きい本で、行動を変えるだけの影響力を持った本である。新年早々、早くも今年のアワード候補に遭遇という感じの一冊だ。

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