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2013年9月 8日 (日)

目的のための本質を考え、実行する

4894515806水野和敏「非常識な本質――ヒト・モノ・カネ・時間がなくても最高の結果を創り出せる」、フォレスト出版(2013)

お奨め度:★★★★★

GT-Rの開発者で知られる水野和敏氏が書いた仕事術。キーワードは、非常識と本質。本質をどのように追及していくかについて自分のしてきた仕事を振り返り、まとめた本。

特に、マネジメントと本質論の間にどういう関係があるかを明確に示しており、クルマに興味がなくてもいいので、イノベーションを実践するリーダーにはぜひ読んで欲しい本。

 

 

水野氏は、日産が誇る名車の一台であるプリメーラの開発をするなど、早くから活躍をしている自動車の設計者だった。ところが、あるときに、レースの監督に異動を命じられる。結果として、そこで活躍をし、そのあと、GT-Rという名車を生み出すわけだが、レースの監督を命じられたときには、自動車マンとしての人生は終わったと思ったという。

ところが、レースの玄人ではとても思いつかないような発想をし、大きな成果を上げたのだから面白い。そのポイントになったのが、非常識と本質だ。

みなさんもちょっと同じ状況を考えてみてほしい。皆さんがある分野に精通し、成果もあげていたとする。その絶頂のときに、まったく別の仕事を命じられたらどうするか。まず、新しい仕事に対して動機を持つだけでも大変なのは容易に想像できるが、そこは乗り越えたとしてどうだろう。

多くの人は、新しい分野の勉強をするのではないかと思う。実は、この問いは僕がやっているあるセミナーの問いとして実際に何度も問いかけたことがあるが、詳しい人から学ぶことも含めて、勉強するという答えが圧倒的に多い。

ところが水野氏はそうはしなかった。レースの目的を勝つことだと決め、勝つためにどうすればよいかをひたすら考えた。つまり、レースの本質は何かということを考え、本質を追求していく方法を考えたわけだ。

レースというと、とにかく、大きいエンジンを積んだ、軽い車が必要だというのが常識だった。レースの玄人であればこれを疑うことなく、(ルール上の)許容範囲の中で大きいエンジンを積むか、車体を軽くするかを考える。この工夫ができるのが玄人の力量だとも考えられている。

ところが、水野氏は実際のサーキットを見て、最高出力、最高速度で走っているところというのはそんなに多くないことに気づく。たとえば、日本の代表的なサーキットである富士スピードウェイだと最高出力で走れるのは全体の18%に過ぎない。

すると、レースを勝つのには82%を速く走れることが必要で、そのためにはエンジンの大きさが本質なのではなく、アクセルを戻して半分しか踏んでいない状態でいかにいかに速いクルマを作るかが本質であるという。そして、実際にそのようなクルマを準備してレースに臨み、勝ったわけだ。

このように、レースに必要な車を具体的なサーキットから分析し、作っていった。それは周囲からみれば非常識だった。同じように、レース活動の進め方にも本質という視点から手を入れた。従来のフォーメーションではなく、勝つためにはどのようなロール&レスポンシビリティが必要かを分析し、従来とは異なるチームを作った。

マネジャーのスキルの中を論じるときに、テクニカルスキル(業務スキル)が必要などうかは常に議論になる。一般的な認識としては部下の指導をするためにはある程度のテクニカルスキルが必要だと言われている。

しかし、マネジメントで差別化しようとすると、逆であることが分かる。テクニカルスキルがある人はどうしても経験にしばられ、従来と同じやり方しかできない。ゼロベースで考えるというのは口でいうのは簡単だが、プロフェッショナルとしてのプライドと常識があり、また、反射的に考えられるところまで熟練した分野でそれをやるのはかなり、難しい。だから、これができるマネジャーは極めて少ないが、水野氏はその一人だったわけだ。

水野氏のやり方を一般的にいえば、目的を明確にし、目的を達成することをゼロベースで考えるという戦略思考に他ならないが、興味深いのは、素人と玄人の組わせである。

ロボットの研究で世界的に有名な金出 武雄先生の言葉に「素人発想、玄人実行」という言葉がある。「独創はひらめかない」という本のサブタイトルになっている言葉だ。

マネジャーやリーダーの仕事というのはこれでなくてはならないことを水野さんの本は教えてくれる。考えるときには、素人として考える。その方が思い込みがないので、本質へのアプローチがしやすい。このようにして考えられた本質は非常識なものが多いし、非常識であればあるほど、成果が大きくなる可能性がある。

本質にアプローチしたら、その本質をどう実現するかを考える。ここは素人ではできない。プロフェッショナルの知識やスキル、経験が必要である。

これが玄人発想だと、実行から考える。つまり、実行できる方法でやろうとする。すると、よほど自制しない限り、経験にしばられた方法になる。非常識なアイデアなど出てこない。

水野氏は、レースの監督の前後に手がけた自動車開発でも、この流儀を貫き通している。当然のことながら非常識だと社内から反発され、前に進めなくなることもある。そこを切った張ったに近いやり方で貫いていく様子が詳しく書かれている。

考えたことはそんなに特別なことではない。しかし、なかなかできない。従来の考えでは非常識であるので、周囲は反対するし、ついてこないから。なぜ、できたのか。それが本質を考えることの力である。論理性が重要なのではない。本質をつき、常識にこだわらない意思決定をすることが重要なのだ。それが、自分が正しいと思うことを貫く唯一の方法である。

重要なことは本質だ。本質を捉えている限り、非常識であろうと失敗することは少ない。むしろ、経験にしばられている場合の方が失敗するリスクは高くなる。そんなことを教えてくれる一冊。イノベーターを目指すマネジャーには必読だ。

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