現場主義のマネジメントの基本
エドワード・ライリー(渡部 典子訳)「アメリカの「管理職の基本」を学ぶ マネジメントの教科書―――成果を生み出す人間関係のスキル」、ダイヤモンド社(2013)
お奨め度:★★★★★
世界でもっとも大きく、歴史のあるマネジメント研修機関AMA(American Management Association)の公式テキスト「Business Boot Camp」の書籍化。AMAはドラッカーが支援したことで知られるが、ビジネススクールではなく、ドラッカーの教えを背景に持つ現場主義のマネジメントの研修を行っている。現場のマネジャーには是非とも読んで欲しい一冊だ。
日本では管理職研修というと日本の終身雇用を前提とした管理職研修が主流である。ところが、マネジメントはどんどん、米国化している。たとえば、内部統制とか、会計制度、プロジェクトマネジメントなどがそうだ。
その中で、これらを日本式に焼きなおしている企業もあるが、グローバル化の中で旗色が悪い。マネジメントはその国の文化に根差す傾向があるので、グローバル 展開するのだから、すべてを欧米式に置き換える必要があるとは思わない。というか、欧米とひとくくりにすることもナンセンスである。
だが、外国で、マネジャーはどのような仕事をし、どのようなキャリア観を持っているかを知っておくことは重要だ。また、そのような人たちが自分の上司になる かもしれない。そのときにこれまでの日本人の上司を同じ感覚で付き合っていると失敗するという問題もあり、そのためにもマネジメントの方法を知っておくこ とは重要である。
ということで、この本は素晴らしい企画だと思う。
まず、第1部と第2部に分かれている。第1部はマネジャーが日々の活動で行わなくてはならないことのためのスキルについて述べている。この本では、マネジャーの役割としては以下の8つであるとしている。
(1)リーダー
物事の全体像を捉え、ミッションやゴールを見すえた上で日々必要なことを検討する。
(2)ディレクター
問題を明確にし、解決策を導き出すように取り組む
(3)コントリビューター
課題や仕事に注力し、自身が成果を出すだけではなく、他の人々をやる気にさせて、組織の生産性を最大にする
(4)コーチ
協調性、理解力、こまやかな気遣い、近づきやすさ、オープンさ、公平さを心がけ、思いやりと共感力を大切にしながら、人材育成に当たる
(5)ファシリテーター
組織の総合力を養い、結束力やチームワークを築き、人間関係の軋轢やごたごたに対処する
(6)オブザーバー
常に人々の行動や人間関係に目を配り、部下がそれぞれの目標を達成しているかどうかを判断し、部門としてゴールに到達していることを確認する。
(7)イノベーター
適合と変化を推進していく。
(8)オーガナイザー
職務計画を策定するほか、業務や体制を組み立てる責任を負う。
マネジャーに必要なスキルは現場において、これらの役割を果たしていくためのスキルということになる。そのスキルを
・人間関係を焦点を合わせる
・組織と個人の利益を調整する(部下の業績管理)
・スタッフを変化に対応させる(人材マネジメント)
・一時的な取り組みを管理する方法(プロジェクトマネジメント)
の4つの活動に分けて説明している。人間関係の中ではコミュニケーション、業績管理としてはモチベーション、権限委譲、コーチングについて述べている。人材 マネジメントでは採用の流れを中心にのべている。さらに、プロジェクトマネジメントでは、PMBOKに近いプロジェクトのマネジメントの方法を説明してい る。
さらに第二部では、ステップアップとして、より上級のマネジャーに必要なスキルを述べている。項目は
・戦略思考
・リーダーシップ
である。
戦略思考では、現実の業務のために戦略的に考えることをテーマに、ビジョンとミッションの分析、ビジョン実現のためのコミュニケーションについて説明している。
リーダーシップでは、自己評価、振る舞い、影響力、社内政治、問題社員への対応といったテーマについて説明している。
本の作りとして素晴らしいのはケースと名付けられている具体的な実践ミニ知識と、マネジメントをするためのフォーマットが結構な点数、紹介されていること。実践的なテキストとして使える。
管理職の役割を明確にした上で、そのスキルを体系的に示しているのは、日本の企業ではあまり見られないやり方である。役割が明確になっていない中で、責任だ けを明確にしているので、なんでもできなくてはならない構図を作っており、なかなか、この本に書いてある内容だけを身につければいいとは思えないかもしれ ない。
この本自体、ブートキャンプという原題のタイトルのように、新任課長研修とかのテキストに使うものだと思うが、まずはここで抽出さ れていることを徹底的に身に付け、自分の役割を明確にしていくとよい。その中で、自分に期待される役割も明確になってくるだろうし、その役割を果たすため に必要なスキルをさらに身につけていけばよいのではないだろうか。
そうすることによって、今、頭を悩ませている問題をもっと合理的に解決できるようになるだろう。
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