見えないものを重視する経営
山川 和子「無形の力 インタンジブルが会社を変える」、PHP研究所(2013)
お奨め度:★★★★1/2
経営を成功させるには目に見えるもの(タンジブル)、目に見えないもの(インタンジブル)の両方が必要である。本書は、それぞれがどのような力と価値を持ち、どのように活かせば成功につながるかを、日本でシュニール織の販売事業で成功をおさめた著者が語る。ビジネスマンはその職位が上がるにつれて、インタンジブルをうまく活用することが不可欠である。特に、マネジャー以上のビジネスマンに読んで欲しい一冊。
著者の問題意識は、現代の経営はタンジブルなものを偏重評価している。タンジブルなものの真っ先にくるのは利益であり、そこに偏重するあまりに、「今売れ ているもの」、「早く結果がでるもの」だけに力を入れる。これは自分の首を絞めているようなもので、行く先はインサイダー、談合であると手厳しい指摘をし ている。
しかし、この指摘は的外れではない。実際に米国で起こっている多くのコンプライアンス違反、そして経済犯罪の背景の一つにタンジブル重視があるのは間違いない。
著者のいうタンジブルとインタンジブルはどういうものか。タンジブルとは、社屋、土地、設備、倉庫、在庫、有価証券、現金などだ。企業の評価をするときにはタンジブルなものに注目するが、立派な自社ビルを持つ会社で、従業員は覇気にかける会社というのも少なくない。
インタンジブルは、経営者が掲げるビジョン、社員のモラルや創造性、チャレンジ精神など、また、組織の風土や文化もインタンジブルである。
他社がまねをすることができない、すばらしい価値を有した商品は、インタンジブルなパワーを活かすためのツールによって実現される。インタンジブルなツールには、以下のようなものがある。
・ビジョン
・クリエーション
・責任
・信用と信頼
・意思決定
・感応道交
・チャレンジ
・自信と自己評価
・成功
この本は、これらの一つずつについて、具体的な効用とあるべき姿について論じている。この中には一般的に使われているものとそうでないものがある。この著者の独特の表現について若干触れておく。
まず、クリエーション。クリエーションは売り上げを伸ばし、マーケットを確保するためのツールと定義している。社員のモチベーションを上げ、希望や夢などの無形の価値に直結する。
その次の責任。これをツールとしてとらえていることも興味深い。しまいこんだり、さび付かせると、企業を壊してしまうと指摘している。また、意思決定においては、責任と一対としてつかうべしとする。
感応道交(かんのうどうこう)は言葉自体も知らない人が多いと思う(僕も知らなかった)。仏教用語で、仏と人間の気持ち、また教える者と教えられる者の気持ちが通じ合うことを言う。広義では、身近な人と分かり合うことを指していう場合もあるとのこと。
感応道交と関連するのが、自信と自己評価。自信に満ち溢れ、活気が生まれるのはいいことだが、自信過剰になり、自分が、自分がになると、感応道交が成り立たなくなる。そこで、自分や自社をありのままに評価することが大切だという。
インタンジブルツールの中に、「成功」が入っているのも面白い。成功は波及力があり、周囲に幸せをもたらす。しかし、独占したいといった欲望があると、あとでしっぺ返しを食らうことになるという。つまり、成功をみんなで分かち合う、感応道交が大切なのだ。
タ ンジブルに偏重した経営においては、見える化を重視する。しかし、過度の見える化は経営を弱体化させるのではないかと思ってしまう。この本では、タンジブ ルとインタンジブルを花のメタファを使って説明している。花は、太陽や水、土の中の栄養素といったインタンジブルな力を吸収し、花と言うタンジブルな成果 を生みだしている。このとき、人工的なコントロールされた環境をつくることは、均質な美しさを持つ花を作る一方で、感動させるような美しさの花を生まな い。感動的な美しさは、偶発的な天候、栄養素などで偶発的に生み出される。
ビジネスにおいても同じで、感動を生み出すには偶発性は重要だ。そして、偶発性は、人との交わり、チャレンジ精神などによって生まれる。そんなことを気づかせてくれる一冊である。
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