「自由」を探求する経営
ゲイリー・ハメル(有賀 裕子訳)「経営は何をすべきか」、ダイヤモンド社(2013)
お薦め度:★★★★★
ゲイリー・ハメルというとコア・コンピタンス経営のイメージが強いが、経営思想家としても世界最高だといわれる。そのハメルが今後の経営のありかたについて、5つにポイントを絞り、それぞれについて多面的に先進事例、失敗事例を取り上げながら具体的にすべきことを検討している。いま、経営スタッフはもちろん、経営に関わっているマネジャー以上の人、これから経営に関わっていく人、すべてに読んでほしい一冊。
5つのポイントとは
・理念
・イノベーション
・適応力
・情熱
・イデオロギー
の5つである。
理念の観点からは、実利的に利益、優位性、効率といった実利的なものを重んじる価値観が強くなり、忠誠、慈善、慎重さ、説明責任、公平性といった美徳が置き去りにされていると指摘している。これは資本主義の限界だという人もいるが、資本主義ほど多くの人に恩恵を与えてきたイデオロギーはない。自由な売買、資本調達、リスク覚悟の収益追求、起業、望む対象への投資、事業の拡大や縮小、イノベーションやコスト削減、企業買収や事業売却などの恩恵をもたらしたのが資本主義である。この資本主義の恩恵を受けながら、良心的で責任があり、持続可能な資本主義にするには、高潔な理念を取り戻す必要があるというのがハメルの主張である。
イノベーションの観点からは、イノベーションを手段ではなく、目的であることを認識する必要がある。イノベーションを実践する際に「実用面で役立つから」といった理由漬けは必要なく、創造に携わるのはそのために生まれてきたからで、選択の余地はないと考えるべきである。
そして、イノベーションの方法をイノベーションしなくてはならない。かつてエジソンがGEがR&Dの組織を作り、それに伴って開発された数々の手法が模倣され、100年分に相当する技術開発に寄与した。これと同じようにイノベーションのための新しい仕組みを考えなくてはならない。
イノベーションの得意な企業として真っ先に名が出てくるのはアップルである。アップルの成功に自社もあやかろうとすれば、以下のような理念を持たなくてはならない。
・情熱を持つ
・先手を打つ
・意表をつく
・現実にとらわれない
・絶えず幅広い分野でイノベーションを実践する
・細部まで気を配る
・エンジニアのお発想とアーティストの感性を持つ
次は適応力の観点から。今のビジネスの流れは速い。それをもっとも感じさせるのが携帯電話である。携帯電話は1983年のモトローラの「ダイナタック」から始まり,市場を独占する。しかし、10年後にはノキアのキャンディーバー型の携帯電話が40%のシェアを持つ。そして、2002年にはRIMのブラックベリーがビジネス機能を載せてトップシェアを取る。そして2007年にiPhoneが登場し、あっという間にトップシェアを取る。たった、30年の間に4社が独占的なトップシェアを獲得している。
このように変化の激しい市場においては、リスクもチャンスもあるが、適応力を持つ企業はチャンスをつかむことになる。
企業の適応力を決定づけるのは、6つの要因である。3つは柔軟性に関わるもので、知的柔軟性、戦略の柔軟性、組織の柔軟性である。残りの3つは予測、多様性、逆境に耐えようとする理念である。
情熱の観点からは、組織より個人を優先する必要がある。しかし、これは官僚体制の成功体験があるので、難しいことだ。官僚体制を打ち破る可能性があるとすれば、ソーシャルウェブで、それは以下のような特性によると指摘している。
・すべてのアイデアが対等な立場で競い合う
・階層はボトムアップで築かれる
・リーダーの役割は支配ではなく奉仕である
・仕事は割り振られるのではなく、自分で選ぶ
・グループは自主的につくり、目的も自分たちで決める
・リソースは配分されるのではなく、ひきつける
など12である。
そして最後の観点はマネジメントのイデオロギーである。産業革命以来、マネジメントはコントロール(管理)を密接に結びついてきた。そして官僚制において、正確性、安定性、信頼性、規律などの恩恵を与えてきた。しかし、このような特性はライバルと肩を並べるには有効でも、真の優位性を築くには役に立たない。
管理に対抗できるイデオロギーは自由である。思いのままに興味関心を追いかけ、何にコミットするかを選び、自分の意志で何かに打ち込むことができるような組織を作らなくてはならない。これは階層と無縁な組織であり、ゴアや、モーニングスター、HCLテクノローズの3社をその先進事例とし、経営陣へのインタビューなどにより詳しくその原理を説明している。
そしてこのような事例をマネジメント2.0とし、その実現に向けて、
・志を改める
・能力を解放つ
・再生を促す
・権限を分散させる
・調和を追求する
・発想をかえる
という6つの視点ら、25の課題をあげている。
非常に壮大な議論で、最初に読んだときには全貌が把握できなかった。その後、何度か読んでみて、おおよそ、主張の全貌がわかってきた。要するに、イデオロギーを変えることがすべてのスタートであり、ゴールである。これは経営のイノベーションの他ならない。
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