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2013年2月 1日 (金)

アングロサクソン化をやめろ

4799312553古我 知史「もう終わっている会社」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2012)

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お奨め度:★★★★★

経営の論客、古我 知史さんの新刊。前作の「戦略の断層――その選択が企業の未来を変える」も示唆に富む本だが、この本はさらに視点を広げ、戦略、経営計画、顧客という3つの大きな問題を論じている。方向性は、日本はアングロサクソン化をやめろ。


まず、戦略。戦略に関しては、選択と集中をしているが、多くの企業はコア事業に回帰しているというのが著者の指摘。本来、ジャック・ウェルチがやろうとしていたリストラクチャリングは、コア事業への集中ではなく、将来コア事業になる可能性のあるものへの集中だった。GEはこれに成功し、リストラクチャリングが注目されるようになってきた。著者に言わせると、「大いなる賭け」だということになる。

ところが、日本企業はコア事業に回帰している。つまり、将来的に可能性のある事業を捨てて、成熟産業や、安定した市場を優先したわけだ。これを「未来をリストラクチャリングしている」と揶揄している。

さらに、GEはリストラクチャリングにあたって、膨大な人材育成投資をし、人材を育てた。ポイントはここで、日本企業も自信のある商品、事業、産業に集中するのではなく、自社の潜在性、すなわち未来の能力に集中すべきだったとしている。

さらにいえば、イノベーションは不連続の中で起こるものだ。つまり、誰も見向きもしなかった経営視野の辺境、つまり、非コア事業で起こっている。コア事業に投資をしても、イノベーションを起こすことはできないのだ。この点において、改善とは異なるのだ。

次にやり玉に挙げているのは中計である。著者が指摘しているのは、楽観的な予測しかしない中計に実務的な意味はなく、単にサラリーマン社長がバトンタッチをするためのツールになっている。こんなものは止めてしまえという指摘。

また、そのようになっている理由に、MBAをとった参謀がたくさんいて、現状肯定をすることがあげられる。そして、官僚主義の三種の神器である、予算、手続き、縄張りが氾濫している。これではもう終わりだ。優秀な参謀が一人だけいるなら、こんなことは起こらない。

そして、現状とゴールには断層があってよい。経営者や会社はゴールにこだわらなければ嘘だという。真の経営計画は現状プッシュではなく、未来プルだ。断層的未来からやってくる戦略策定や長期目標の立案こそ、参謀のやるべきことだ。

また、現場においては、善があり、夢があれば計画など不要だ。中計など捨てて、未来の魂胆を持つべきだ。

三番目は顧客至上主義。顧客至上主義が古い顧客にばかり目を向け、そのような顧客に対する製品やサービスを中心に展開しているうちに、市場競争力をなくしてしまっている。

そうではなくて、継続顧客を捨てて、新しい顧客にアタックしている会社の方が、結果として継続顧客を魅了し、顧客を囲みこむことができている。勘違いしてはならないのは、継続顧客は満足しているとは限らないことだ。

そんな顧客のいうことを聞いて、完全無欠な商品を作ることは愚かなことだ。アマゾンなど、賢い会社は顧客と一体化し、自己チューになっている。つまり、顧客は基本的に無視する。尊敬し、気にしながらも無視するのだ。これが今の時代に通用する顧客主義なのだ。
この本で指摘されていることは、守る経営をしても生き残れないということだ。経営環境が厳しくなったときに、安定に固執し、目の前した見ない。そして、今の顧客を満足することで、自己満足する。日本の代表的な経営者を見ると愕然とすることがあるが、本当に今しかみていない。おまけに、今すらうまくできず、だからまだまだ、若い人には無理だと平気で言っている。

ライフサイクルも終盤に差し掛かると、人は次の世代を育てることに関心を持つようになるが、それが見えない。仕事だけの生活をしているうちに、生殖本能や育児本能をどこかに忘れてきたのではないだろうか。

ジャックウェルチがリストラクチャリングと同時に未来を見すえた人材への投資をしたように、次世代の人材を作り、未来への投資をして後継に委ねることが、最後のミッションである。

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