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2013年1月 4日 (金)

責任を取るとはどういうことか

4822249352清水勝彦「実行と責任 日本と日本企業が立ち直るために」、日経BP社(2012)

お奨め度:★★★★★

ついに、日本型経営の問題の本質に清水先生が切り込んだ一冊。「戦略と実行」の続編として、非常に面白い問題提起をされており、責任の所在が明確になり、誰かが責任をとれば組織は成功するのか?という問いについて、いろいろな観点から議論されている。清水節の真骨頂。


責任と言う言葉には2つの意味がある。一つは「失敗したときに制裁する」という意味であり、もう一つは「人が引き受けてなるべき任務」という意味だ。

最初の意味で責任をとるという場合、辞任をすることが多いが、これには2つの意味がある。一つは、リーダーや担当者が適任ではないのでその間違いを正すために解任する。もう一つは、失敗したものをそのままにしておくのは信賞必罰ではないという不満が出るので解任する。前者の方が重要なのだが、後者の目的で責任を取ることが多い。

後者意味での責任の取り方は、失敗したらそこから学んでリベンジさせる。つまり、「失敗から学び、成功するまでやらせる」という責任の取り方だ。実は担当を解任しても業績が上向くとは限らないし、失敗したプロジェクトが成功するとも限らない。その意味で、この責任の取り方の方が理に適っているし、いまの世の中で求められているのはこの責任の取り方である。

後者においては責任があいまいであることがしばしば問題になる。責任があいまいになるのは、目的がはっきりしていないことと、責任をとりたくないと思っていることの2つの理由である。

これらの問題を乗り越えて、個人の責任を組織力に結びつけていくには、3つのポイントがある。一つ目は組織の現状、あるいは事実はしっかりと共有すること。二つ目は、全体の責任が大きすぎる場合には、対応可能な単位に責任を分散させて、それぞれの仕事をしっかりとおこなうこと。これは、プロジェクトマネジメントで行われている方法である。三つ目はルールを決めて、責任を回避すること。これもよく行われている方法で、意思決定をしなくてよいように、ここまで決めるのかと思うくらい細かいルールが決められている組織が多い。

さて、この問題をもう少し深く考えるには組織力とは何かが問題になる。本書では、「組織力とは組織の目的をより効果的または効率的に達成する力」だと定義している。その上で、組織力は目的と役割と統合の掛け算で決まり、組織力を高めるためには、

・目的の明確な共有
・フォーマルなしくみ(ルール、報酬)
・インフォーマルな活動(理念、価値感の共有)

などの仕組みが必要だとしている。これらの仕組みの具体的な実現方法を、「組織の慣性と組織変革」、「トップの役割と仕事」、「コミュニケーション」の3つの視点から示している。

最後に組織力を責任を持つ組織という観点から整理し、その基本政策を示している。

(1)「よい目標」を作る
(2)事実を共有する
(3)会社を「私物化」する

その上で、これらの政策を踏まえた日本の組織力再生について論じている。それは

・リスクをとるガバナンスを構築する
・エリート教育をする
・失敗を経験させる

の3つである。

問題提起は非常にシャープであるが、問題解決策は意外と「普通」である。トリッキーな方法はなく、ちょっと考えれば出てくる解決策を如何に実行していくかが問題だということになる。ただ、この本が面白いのは、それを責任という観点から語っていることだ。個人の責任を統合して、組織力を作るという言い方もできるが、この本で提案されているような組織的コミュニケーションにより、個々人が責任を持って活動するようになることもあると思われる。

つまり、責任と組織力というのは卵が先か、ニワトリが先かといった議論に近い。だからこそ、本書の問題提起である「責任の所在が明確になり、誰かが責任をとれば組織は成功するのか」と言う問いがでてくる。責任の所在を明確にし、責任を取るようにしても、米国のようなやり方では、組織力は高まらない。組織力と個々の責任を同時に高めていくところに日本企業に適した方法論があるのだろう。さらにいえば、欧米においても、学習する組織として、そのようなアプローチが着目され始めている。

マネジャーであれば、読んでおくといい一冊だ。

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