思考法をアップグレードする
アラステア・ドライバーグ(田口未和訳)「ビジネスについてあなたが知っていることはすべて間違っている」、阪急コミュニケーションズ(2012)
お奨め度:★★★★★
ビジネスにおける常識を新しい思考法によって打破し、正しい意思決定をするための方法を示している本。価格設定、コスト削減、業績評価、予算と事業計画、行動原則、動機づけなど、ビジネスとマネジメントについて広くテーマを取り上げている。とくに、大企業のマネジャーに読んで欲しい本だ。
コンサルタントとしていろいろな企業に入ってみると、「なぜ」こんなやり方をしているのかと思うことは数多くある。この本の表現を借りると
・売り上げ予測を引き下げる方法を必死に探している営業マネジャー
・ひどい成績を奨励し、それを称えるような報奨制度
・まったく意味をなさないように見えて、収益を増す価格戦略
といったことだ。このような状況をもたらすのは、原始人の脳と、思考の落とし穴だという。原始人は
・よく知っているものは安全だ
・集団思考
の2つの原則に導かれている。これは原始時代には極めて重要な原則だったわけだ。しかし、いまの時代では有用とは言えないも関わらず、未だにこのような原則に支配されており、変化を阻害しているのは
・魔法の効果を期待する魔術的思考
・現状維持の先入観
・視野を狭めすぎて孤立してしまう
・全面的なリスク回避
・根本的な帰属の誤り
といった思考の落とし穴である。この本では、これらの落とし穴をつぶし、原始人の思考から、新しい思考へのアップグレードを手伝ってくれる本だ。
コンセプトはかなり、抽象的だが、内容は実践的である。テーマは上に述べたとおりだが、それぞれのポイントは以下の通りだ。
・価格設定――真のコストは、設計図という形に表された知識の価値にある。
・コスト削減――「利益を上げたい」という本来の目的から問題を考え直す。
・業績評価――計画通りに進んでいても、その要因がわからなければ意味がない。
・予算と事業計画――予算は機会を潰す。実績を重視すると実績を損なう。
・行動原則――なかには、どんなときでも取り入れないほうがいいものもある。
・動機づけ――人を動かすのはお金ではない。金銭的報奨は組織を崩壊させる。
これらのテーマについて、著者のキャリアをベースにした持論を書いているが、それはハッとするものが多い。経営はマクロに考えて行われてきたが、近年、ミクロな視点からの知見が増えてきている。この本で指摘されていることはそのようなものが多いが、
・マネジメントとビジネスの肝になっているテーマばかり
・掘り下げが深い
・幅が広い
という特徴があり、かなり、実践的で、自分たちのやり方を見直すのに役立つ本だ。
この本を読んで欲しいのは、イノベーションをしようとしている人である。イノベーションを妨げているのは、原始人の脳である。たとえば、価格設定の問題を考えてみてほしい。原始人の脳で、原価プラス利益の価格設定をしていたのではイノベーションなどできっこない(ビジネスモデルイノベーションが唯一解のように言われているのはこの理由だ)。顧客が得る価値に基づいて売れる商品であれば、イノベーションを起こせる余地がある。業績評価、コスト削減など、そんな視点から考え直してみてほしい。
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