ミドルリーダーのための「君主論」
冨山 和彦「結果を出すリーダーはみな非情である」、ダイヤモンド社(2012)
<紙版><Kindle版>
お奨め度:★★★★★
ボストンコンサルティングと産業再生機構というある意味で両極端なキャリアを歩み、さまざまなタイプの企業を知り尽くした冨山和彦さんのミドルに向けたリーダー論。組織の歯車としてのミドルマネジャーではなく、次の経営を担う「ミドルリーダー」を目指す人は必読の一冊。
この本で冨山さんが論じていることの背景にあるのは、「現場に権力を渡すな」ということである。日本企業は現場が強いが、現場が権力を握ると会社はつぶれるというのが冨山さんの持論だ。
その上で、現場という資産を活かすにはミドルの活動がポイントになる。ここまでは異論はないと思うが、冨山さんはミドルはミドルマネジャーではなく、ミドルリーダーになれという。ミドルリーダーとは、経営者の視点を持ち、問題解決に当たるミドルである。
ミドルリーダーが重要な理由はいくつかある。まず、複雑な問題になればなるほど、上部構造では決められず、現場で決められることが多い。そして、現場で次世代のトップリーダーと目されているミドルには情報が集まり、また、下の世代に対して絶大なる影響力をもっている。したがって、ミドルリーダーであることによって、実質的な変革者になることができる。
ところが、現場リーダーとミドルリーダーの間にはギャップがある。それは、現場リーダーとして優秀であればあるほど、調和を乱すような決定ができない。ここを乗り越えたミドルリーダーとしての課長や部長が必要である。
では、ミドルリーダーにはどのようなリーダーシップが必要か。4つの条件を上げている。
(1)論理的な思考力、合理的な判断力
(2)コミュニケーションで情に訴え根負けを誘う
(3)実践で役立つ戦略・組織論を押さえる
(4)評価し、評価されることの本質を知る
(1)では、情に流されると、会社を潰してしまうほどの結果を招くことを知った上で、徹底的にリアリズムと合理性を追求することが重要だ。全体の調和を乱しても、必要なことをやっていく非情さが必要なのだ。また、サンクタイムに目を奪われないようにしなくてはならない。
(2)では、組織の空気を少しずつ変えていくような根気強さとともに、組織と人を変えていく戦略性が重要である。
(3)では捨てることの重要性を知ること。捨てるとは成長することであり、捨て続けることが持続的な成長をする唯一の方法であることと認識することが必要だ。また、組織の中では常に与党であることも重要だ。
(4)では、能力と成果を混同しないことが重要だ。ヒューマニティックな判断は人だけではなく、組織も不幸に陥れることを十分に認識すべきだ。
現場リーダーからミドルリーダーへのトランジションは非常に難しい。著者が指摘するとおり、情が入ってしまい、現場の価値観を大切にしようとする。しかし、それは現場にためにもならない。日本の素晴らしい現場を活かすためには、非常になることが重要であることを腹落ちするような語りで教えてくれるこの本をミドルマネジャーは、座右の書とするとよいだろう。
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