発想力を問われる時代は、頑張ったら負けだ(ファンが選ぶビジネス書25)
トミタ・ジュン「「センスいいね!」と言われる人の思考術」、アチーブメント出版(2011)
お奨め度:★★★★★+α
※facebookページ記事「センスは天性ではなく思考技術」
「センス」というよく使うが、実体がよく分からないものについて、建築士であり、グラフィックデザイナーである著者が正体を明らかにし、センスいいと言われるようになるための方法を示した一冊。著者はセンスとは感性と理性の融合であるという。建築士とデザイナーの二面性がある著者ならではのものの見方ではないかと思う。
◆センスとは人の期待にどれだけ応えられるか
この本の面白いのは、センスがいいということに対する認識である。本書の中に、「自分らしさ」に対する言及がある。そこでこう述べている。
「自分らしく」の正体とは、本当の自分ではなく、あなたはこうあるべきという「社会の期待に乗っかる」ことではないでしょうか?
本のタイトルも「センスがよくなる」ではなく、「センスがよいと言われる」なのだ。目から鱗で、どんなに卓越した人でも、自分のことをセンスいいというひとを、センスいいとは思わないだろう。センスという何気なく使っている言葉は、本質的に他人からどう見えるか、もっといえば、期待にどう応えるかという議論なのだ。ビジネスにおける創造性も顕在化されているかどうかは別にして、結果としては顧客の期待に応えることである。この点を頭において読んだ方がよい。
さて、その上で、著者はまず、センスについて、
デザインは才能じゃなく、知識です。
センスは天性ではなく、思考技術です。
「知識」と「思考技術」ですから、誰でも学べます。
電気が発電できるように、「ひらめき」も自家発電できます。
と述べている。
◆なぜ、センスがないと言われるのか
最初になぜ、センスがないと言われるのかを、ファッション、ワークスタイル、インテリア、交際術において、その典型的な症状について例示している。
ファッションの場合、全体としてのディレクションがないこと。ワークスタイルについては、頑張りすぎること。「急がば回れ」の重要性を説いている。急ぐ時こそ直線的に進まず、柔らかく回り込む。その過程で余裕ができ、学びや気づきがあり、いい結果が期待できる。インテリアの場合には、その場に目的がないこと。
センスのいい空間は、自然な生活から生まれるものではなく、マインドにあるという。交際術については定期的なメンテナンスがされておらず、惰性の付き合いになっていること。人間関係をデザインするという発想で、交際を再構築すべきだと述べている。
◆センスのいい思考はどうすればできる?
では、センスという思考はどうすればできるのか。これが次のテーマ。ここで7つの思考マッピングという手法を提案している。
ここでは、まず、冒頭に述べたように、センスは感性と理性の融合」だと主張している。そのこころは
感性により創造力を高め、理性によりブレない成果を生み出すために、感性と理性を周回する思考回路を持つ
ことだ。例として、入社1年目のマスコミ系のパーティに誘われたときの状況を使って説明している。センスがない人は手持ちのスーツでとりあえず、フォーマルということで黒っぽい方を選んできている。ところが、センスのある人はあれこれ、考える。
(1)ハリウッドのパーティーならテレビでみたことがある。パーティといえば豪華絢爛な装いがイメージできる。自分も仲間に交じってブランドもののラメスーツにエナメルのくるをはいていくのはどうだろう?
→スターと同じ格好をしたところで、自分は芸能人でもない。単に友達の招待だから、普段と同じスーツでよいかもしれない。
(2)もしかしたら、女優さんが来るかもしれない。お友達になりたい、センスよく目立ちたい
→普通のスーツだと相手にされないだろう
(3)おしゃれだけど、スターほど派手じゃないジャケットとパンツでもカッコいいのでは?あと、若造だと思われたくない!
→シックなジャケットとパンツ路線、大丈夫そうだ。いい時計をしたら信用される
(4)雑誌で見たパネライやフランクミューラーーラーがカッコいい!
→でも持っていない。お金もない。
(5)じゃあ、お気に入りのデザインウォッチでいいんじゃない?
→悪くない、服はシック路線。それとポップな腕時計をつけよう。
()は感性思考、→は理性思考である。
自分では発想できない場合には、人のアイデアを借りる。これが、バイパス思考。
どうしても、発想が固まる場合もある。大きな理由は、考え付けと決めつけ。この2つに対処するには、プロトタイプ(試作品)を作ってみて、早い時期に失敗し、学習していくプロト思考が有効である。
発想のためには、アイデアソースを持つことが大切だ。デザイナーが美術館で名画を鑑賞する、外を散歩しながら五感を研ぎ澄ますなど、いろいろな方法があるが、アイデアを生み出すための方法を持つことを心がける。
また、連想(アソシエーション)もアイデアを生み出す有効な手段である。連想で有効なのは、マインドマップや、コネクションを重視した電車の路線図などである。
ただし、アイデアは連想ではなく、突発的に出てくることもある。これはクラウド発想と呼ぶべきものである。
以上の7つの思考をステップを踏んで行う手法が、7つの思考マッピングである。実は、PM養成マガジンの10周年企画でこの方法を使ってみた。機会をみて公開する。使いやすい手法である。センスがいいできたかどうかはみなさんの判断である。
◆自分をデザインする
次に自分をセンス良くデザインする方法を示している。これがなかなか、面白い。まず、フィールドワークを行い、自分が何族かを決定する。
次に族の詳細として自分のコンテクストを決める。著者の考えは人には、内面の特徴(ギャラクター)と外面の特徴(コンテクスト)があるというもので、コンテクストには、持ち物、車、家、交友関係、家族、学歴、結婚歴、会社、仕事などがある。コンテクストづくりには、エスノグラフィーが役立つ。コンテクストは、現実だけでなく、理想が含まれていてもよい。
コンテクストが決まったら、成りきる。これをアブダクションという。アブダクションでは、現実と理想のギャップが阻害要因になる。そこで現実との折り合いを付けながら、理想に向かって、少しずつリデザインするとよい。
アブダクションの際に、ブランドのうまく使うことも重要だ。ブランドはとは、社会の中で使われている信頼と評価の記号である。たとえば、エグゼクティブというコンテクストを持つ人が、ゼニアのスーツを着ると、理想に一歩近づく。本の中ではあまり議論されていないが、ワークスタイルのセンスをよくするために使えるブランドとして、○○企業に勤務しているというのは有効なことが多い。ただし、センスのいい会社であればだが(笑)。たとえば、リクルート出身の起業家、IBM出身の経営者などはその典型だ。
コンテクストの中で、ウィークポイントの設定というのは意外と重要である。弱みは、社交性であり、愛嬌である。さらに、自信も重要である。自信はセルフエフィカシー(自己効力感)から生まれてくる。セルフエフィカシーを高めるには成功体験を積み上げていくとよく、その意味で、自信もデザインできる。
◆ファッション、ワークスタイル、インテリア、交際術のアナロジー
次に、スケッチ思考によってセンスを鍛えるというテーマで、具体的なスケッチの方法を、エクスサイズ付きで説明している。文章で説明するのは難しいので、紹介は省略するが、僕はこの本の中で、このパートが一番役立った。それから、パワーポイントにSmartArtというメニューがあるが、このメニューの正当性がよく分かった。
最後は審美眼について論じている。例によって、ファッション、ワークスタイル、インテリア、交際術の各カテゴリーで述べているのだが、ここまで読み進めて、この章を読むと、アナロジーが聞くようになる。たとえばファッションの話がワークスタイルの話として読み替えることができる。これはこの本の、本としての素晴らしさの証明だと思う。
あまり、ないタイプの本で、最初にさっと読みした印象はあまりファッションやインテリア系のデザインの知識を、ワークスタイルに応用しているような印象を受けたが、丁寧に読んでみるとそんなことはない。分野に関係ない、デザインの本だ。
一番、共感できたのは、この言葉。
発想力を問われる時代は、頑張ったら負けだ。ワークスタイルに限らず、ファッション、インテリア、交際術すべてにおいて、目的をしっかりともち、自然体で目的に向かうというのが、センスのいいといわれる人になる秘訣ではないかと思った。
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