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2011年8月15日 (月)

ジョブズのプロダクトマネジメント(ファンが選ぶビジネス書16)

4797362286 ジェイ・エリオット、ウィリアム・L・サイモン(中山 宥訳)「ジョブズ・ウェイ 世界を変えるリーダーシップ」、ソフトバンククリエイティブ(2011)

お奨め度:★★★★1/2


IBMやインテルで働き、その後アップルで上級副社長として人事や教育を担当したジェイ・エリオットが、当時自分の上司であり、今では世界一のCEOと評されるようになってきた、スティーブン・ポール・ジョブズ(スティーブ・ジョブズ)のマネジメントを、ジョブスのキャリアを追いかけながら紹介している。そして、時には、著者自身がその後の自分のキャリアの中でジョブス・ウェイを実践し、その結果を踏まえて、ジョブスの素晴らしさを評価した一冊。



◆ジョブズ・ウェイ

ジョブズに関する本は多いが、これだけ近い人が書いたものは珍しく、また、ジョブズのやり方を実践してみて、その結果を踏まえて意見を述べた本はなかった。本書の一つのポイントはそこにある。実際に、ジェイ・エリオットがジョブスから学んだことの中で、実際に役にたったこととして以下のようなポイントを上げている。

・取り組む以上、どのプロジェクトにも情熱を注ぐ
・チャンスに気づいたら、それを原動力にして、そのチャンスを活かす製品をつくる
・役に立つ人材をいつでも受け入れられる態勢を取る
・直感的な製品に仕上がるように最善を尽くす
・自分の製品については、心から正直に向き合う
・製品が一個人としての自分や、自分の特徴をあらわすように心がける
・部下たちの働きぶりに気を配り、何か一つ成し遂げられる度に担当チームを祝福する
・いま実現可能なレベルを超えて、完璧な未来の姿を思い浮かべ、その理想に一歩一歩近づくように新しいアイデアを積み重ねる
・「それはできない」と言い張る人間に耳を貸さない

これをエリオットは、iリーダーシップ、ジョブズ・ウェイと呼んでいる。

この記事を読んでいる人のなかにも、iPhoneを使っている人は多いと思うが、ジョブスは、開発の早い時期に

アップル製の携帯電話にはボタンをたった一つしかつけない

と決めた。エンジニアからの意見に耳を貸さず、「ボタンは一個だけだ。なんとか方法を考え出そう」と主張したそうだ。何か成算があって主張していたのではないそうだ。「究極の一般消費者」の立場から、ボタン一個の携帯電話が欲しいと考えたからだという。

そして、開発チームは何とか実現してしまう。このiPhoneの開発にジョブズ・ウェイの本質があると言ってもよいだろう。実際に、エリオットの上げているジョブズ・ウェイのすべての要素がこの開発の背後で実践されていると言っても過言ではないだろう。

ただ、このような発想は、思いつきではない。エリオットによると、ジョブスは常々、

「人間の体の各部のなかで、脳が求めることをいちばん頻繁に実行しているのは手だ。手の機能を再現できさえすれば、強力な製品になるだろう」

と考えていたという。ジョブスたちは、ゼロックスPARCにいって啓蒙を受け、それがマウスとWYSIWYGを生みだしたという話は有名すぎるくらいに有名だが、そのときにジョブズが感じたことがこれだったわけだ。

ジョブズのシンプルの原点はここにあり、このような強力な原点があるのでぶれないというのは非常によく分かる。そして、この原点によって、Macintosh、iPod、iPhone、iPadという一連の製品で

・直感的である
・製品が愛着を抱かざるを得ないような満足のいく利用体験をユーザにもたらす

ことを実現した。


◆海賊になろう。海軍に入るな

このようなマネジメントの柱の一つが、タレントマネジメントである。ジョブスのリクルーティングといえば、ペプシコーラの事業担当社長をしていたジョン・スカリーに18か月にわたり交渉し、最後に「このまま一生、砂糖水を売りつづけるのか、それとも世界を変えるチャンスをつかみたいか」という言葉で口説き落としたというエピソードが有名だが、チームメンバーについても同じように熱意を持ち、リクルーティングしている。その際の方針は、才能を持っていて、自分のビジョンに共感することである。特に、後者は重視した。

そして、強力な布陣を備えたチームのマネジメントでも、非常に有名なエピソードがある。それは、

海賊になろう。海軍に入るな(Why join the navy if you can be a pirate?)

というスローガンを打ち出した。そして、ビジネス合宿で、メンバーたちの非凡な才能をたたえ、革命的な製品をつくるうえで重大な役割を果たしているという気分をあおった。

このようにしてリクルーティングしたメンバーが、ユーザ・ジョブスの夢をかなえていくという構図を作っていったが、その中でもう一つの柱が、「製品中心」である。製品を中心にして、少数精鋭を集め、海軍では絶対にできないことを求めていった。たとえば、こういうエピソードが書かれている。

Macintoshの最終局面で、ソフトウエアの問題が発覚し、担当者に対応にかかる時間を問い合わせる。担当者は1か月かかるところを、状況を踏まえ、2週間とい答える。ジョブズは2週間の意味を理解した上で、「もっと早く仕上げてくれないと困る」という。最終的に担当者は承諾し、折れる。

ジョブスは無理難題を吹っかけているが、不可能なことを言っているわけではない。プロジェクトマネジャーの技術的貢献という議論があるが、まさに、こういう技術的な意思決定を求められているのだ。


◆製品中心主義

このような言動の背景にあるのが、とにかく、製品中心なのだ。ジョブスは18か月かかってりくりーティングしたジョン・スカリーから結果的にアップルを追い出される。その原因になったのが、製品中心の考え方である。スカリーは、機能組織でアップルを運用しようとした。その背景には、Macintoshの前の主力製品であるApple IIがあり、そこから収益を上げない限り、経営は立ち行かなかったからだ。

しかし、ジョブスが目指したのは、製品を中心としたプログラムマネジメントであった。プロダクトマネジメントだといってもよい。実際に、10年後に復帰を果たしたジョブスは、アップルのプロダクトマネジメントをプログラム単位で行い、iMac、iPod、iPhoneとどんどんと新しいヒット商品を生みだしている。

アップルの技術戦略の特徴は、ホールプロダクト戦略にある。ホールプロダクト戦略はソフトウエアとハードウエアの統合を意味している。さらに、自然なかたちで生活に溶け込み、物事をふだんこなす方法で処理でき、あらたな操作方法になれる必要がない。そのような製品設計を目標にすることである。

この発想は極めて興味深い。本書の中に車のエピソードが紹介されている。モーターショウで素晴らしいデザインの車が、4~5年後にショールームに並び、テレビでコマーシャルされることにはひどい姿に変わり果てている。この顛末とジョブズは

設計者が素晴らしいアイデアをエンジニアに見せた。けれどもエンジニアは「無理、こんなのは作れない。不可能だ」と突っぱねる。手直しをさせてくれと言って、エンジニアが「可能」と思えるものに変え、今度は製造担当者のもとに持って行った。すると、製造担当者は「こんなもの、製造不可能だ」と変更を要求する。

と推察しているという。そして、「彼らは成功をこねくり回して、失敗に仕上げた」と指摘したという。このような失敗をしない方法が、ホールプロダクトにすることなのだ。


◆プロダクトマネジメント

日本企業で働くものの感覚でいえば、ジョブズはスーパーマンのような気がする。そもそも、なぜ、それだけ広範にかかわれるのかわからないだろう。それは、日本企業には、プロダクトマネジャーという職種がないからだ。ジョブスの活躍はエリオットがジョブズ・ウェイと呼ぶ個人的な資質に基づくものであることは確かだ。ただし、それは、やり方が非常にエキセントリックであるという程度であり、活動の枠組みは、プロダクトマネジャーのそれである。このあたりのくだりはfacebookに書いたこちらの記事を参考にしてほしい。

ジョブス流プロダクトマネジメント

もし、ジョブズ・ウェイを実践したければ、プロダクトマネジャー(あるいは製品のプログラムマネジャー)になることを目指すことだ。facebookでこの本に触れたところ、読んだある人から、チームマネジメントが非常に参考になったとコメントをもらった。

確かに、素晴らしいとは思うが、ジョブズのチームマネジメントはジョブズだからできることだ。たとえば、あなたのチームにジョブズスタイルで現場をふらふらしていたら、メンバーはどう思うだろうか。一緒に開発しているだという感覚を持ってくれない限り、うまく行かないだろう。

そのためには、何はなくてもビジョンを示すことが必要である。そのビジョンは、その商品ができることをメンバーが楽しみにするようなものでなくてはならない。

エリオットが指摘しているように、ジョブズのアプローチは、プロダクトだけではなく、マネジメントも含めてホールシステムアプローチである。そう考えたときに、つまみ食いをすることは決してプラスにならないことを警告しておく。

むしろ、プロダクトマネジメントをしっかりと導入し、その中のベストプラクティスとしてジョブズ・ウェイを参考にするのがよいだろう。

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