ビジネスモデルデザインのアイデアの素
マイケル・プライス、マシュー・フレデリック(美谷広海訳)「ビジネススクールで学ぶ 101のアイデア」、フィルムアート社(2011)
お奨め度:★★★★★+α
ビジネススクールで学ぶ101のエッセンスを、両面見開き2ページで、左ページに図表、イラスト、右ページに説明や、名言という構成であらわした本。ページもないし、並びの順序も何かの意図はありそうだが、明確ではない。
写真集を眺めるように、気の向くままにページをめくりながら、そのページに表現されていることを巡って思考をする。そんな使い方をしたい本だ。
この本、facebookでコメントしたところ、すぐに5冊売れた。よい香りがするのだろう。
◆MBAの価値
日本でもMBAは普通の存在になってきた。僕の出身の神戸大学は日本型MBAの草分け的存在の一つだが、何のためのMBAかということは、古くて新しい議論である。
神戸大学のMBAコースは、修士論文や、プロジェクト学習がプログラムの中にある。OBがプログラムの評価をする機会があるが、この点は議論になるようだ。
僕は自身はそんなに難しい問題ではないと思っている。MBAの価値というのは2つである。一つは人脈の形成、もう一つはシステム的にビジネスをデザインし、推進できる能力の構築である。
前者についてはほとんど異論のある人はない。大学教授とのコネクション、クラスメートとの友情はMBAで学ぶ人のほとんどが期待している。問題は後者だ。
日本人というのは極めて、実践的な発想をする。仕事に必要がないかぎり、変革マネジメントの理屈を学ぼうとはしない。知識だけ得ても無駄だと考える。といっても興味がないわけではない。龍馬伝を興味深く読む。教養や人生のためだ。
このような行動特性はいろいろな解釈ができるが、もっとも一般的な解釈は経験から学ぼうとするということだろう。MBAのなかでも、理屈よりは、事例だ。ケースメソッドが好きだというわけでもない。そもそも、知識と思考と行動は別などとは考えない。その意味で、プロジェクト学習はあっているともいえる。
◆日本のミドルマネジメントの問題の根源
少し脱線したが、ビジネスにしろ、システム的にデザインしようとすると、会計、コミュニケーション、経済学、ファイナンス、リーダーシップ、マーケティング、オペレーション、心理学、社会学、マネジメント、戦略など、実に幅広い知識が必要となる。
このような知識がないと、「ビジネスモデル」のデザインができない。ここだ。
日本では、ミドルマネジャーの処遇に悩むことが多い。
キャリア的にみれば、ミドルマネジャーは欧米ではビジネスモデルの設計の責任者である。知識に+αで多少の経験、加えて、社外とのコネクションを身につけ、企業に自分が抱えている部下以上の付加価値の提供を求められる時期である。これで成功すれば経営陣の一角に名を連ねることになる。
ところが日本人のミドルはこれができない。これがミドルマネジャー問題である。野田先生はこの問題に社内プロジェティスタ制度の導入を提唱されているが、プロジェティスタに欠かせないのが、ビジネスモデルのデザイン能力である。
◆ビジネスモデルデザインのアイデアの素
この本は、上に述べたように、そこに簡潔に書いてあることの意味をじっくりを吟味していくことにより、ビジネスモデルのデザイン能力を強化するには非常によい自習用のテキストになる。選定が非常によい。まさに、アイデアというタイトルが付けられている理由はここにある。
どんなことが書かれているのか。たとえば、しょっぱなは
1.ビジネスとは価値が割り当てられているものの交換である
とある。
売り手:売価=原価+利益
買い手:買値=原価+感情的な喜び
という図式が左ページに描かれている。価値とは経済価値と感情である。ここから、自分のビジネスを考えてみると、様々な洞察や気づきがあるだろう。
僕の気に入ったベスト5
17.ビジネスで最も難しく時間がかかる問題はビジネスの問題ではない
48.理論を”現実とは違う机上のもの”という人は、その理論を理解していない
54.機能は単なる事実。その機能がどのように顧客を助けるかがベネフィットである
71.もしリーダー(Leader)になりたければ、読書家(Reader)にならなくてはならない
75.良い管理者は不完全な決断をする
本書の出版社に見本が見れるページがあるので、興味があれば見てほしい。
http://www.filmart.co.jp/business_sample0.pdf
http://www.filmart.co.jp/business_sample1.pdf
http://www.filmart.co.jp/business_sample2.pdf
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