所有者からメッシュへ!
リサ・ガンスキー(実川 元子訳)「メッシュ すべてのビジネスは〈シェア〉になる」、徳間書店(2011)4198631174
お奨め度:★★★★★
<シェア>という考え方をベースにしたビジネスモデル「メッシュ(Mesh)」について解説した一冊。米国ではアマゾンなどの企業の成長で常識化したロングテールに続く、新しいビジネスモデルとして注目されている。
◆所有からシェアへ
21世紀を迎えるにあたって、「所有」から「利用」へという考え方が注目された。それまでもレンタルCDや、レンタカー、賃貸住宅のような利用を念頭においたビジネスモデルはあったが、これをいろいろな分野で展開しようとしたが、大きなうねりにはならなかった。レンタカーを考えてみると理由はよくわかる。電車で旅行にいって、旅先で借りるのはよいのだが、日常的に使うとなるとまず、レンタカーの店まで行くのに車が必要だ。
この問題を解決するのが、レンタルと似て非なるものである「シェア」という考え方だ。レンタルはオーナーが所有するものをオーナーと利用者の間の取引で利用者に時限的に利用させるものだ。CDのようにオーナーが直接、取引をする場合もあれば、賃貸住宅のようにエージェントが入る場合もある。
これに対して、シェアは利用者同士のコミュニティを前提にする。そして、コミュニティの中でシェアする。エージェントを介さずに、利用者間でシェアをしていく。コミュニティの中で、利用者から次の利用者に渡すために、何らかの「手間」が必要になる。たとえば、次の利用者を探したり、シェアしているものをメンテナンスしたりする。
◆ネットとデータベースがシェアを可能に
利用がレンタルからシェアに移ってきた背景にあるのは、ネットワークとデータベースの発展である。ビジネスをシェアにするには、コミュニティの中で、ユーザのニーズを細かく拾い上げ、そのニーズに対して、商品やサービスを提供していく必要がある。これを可能にしたのは、SNSのようなネットワークとデータベースの組み合わせが必要になる。
ここでポイントは、シェアはコミュニティが前提になっている点である。これにより2つのことが可能になる。まず、一つは利用顧客の情報を収取することによって、シェアサービスの質をより顧客の望むものに変えていくことである。もうひとつは、こちらがより本質的なのだが、他の商品やサービスを追加していくことができる。
たとえば、上に述べたカーシェアリングは、車のオーナーが行えば車のレンタルのように見えるが、本質は情報産業である。ブランドが確立され、信頼されるようになれば、扱うことものは車でなくても構わない。実際に、ジップカーというカーシェアリングの会社は、利用者に対して、飲食、ワインやホテル、フィットネスなどの予約や情報を提供するようになった。
◆ネットワークとネットワークが結びつくメッシュ
これらのシェアの組み合わせは、すべてを自分のビジネスとしておこなう必要はない。パートナーを探して、どんどんと拡張していける。つまり、網の結び目からさまざまな方向に糸が伸びていくように、ネットワークからほかのネットワークにどんどんと結びつき、広がっていく。これが、メッシュというネーミングの所以である。
メッシュは
(1)核となる提供物が、一つのコミュニティや市場、バリューチェーンでシェアされる
(2)ウエブとモバイルネットワークで利用状況を追いかけ、顧客データや製品情報を集計する
(3)シェアできる有形のモノに重点が置かれる
(4)商品内容が、SNSによって広範囲に口コミされる
といった特徴を持つビジネスモデルである。
◆価値のある信頼の輪
メッシュでは、信頼が成功要因になる。信頼が得られることによって、有効な情報が得られ、それまでにも増して顧客の需要に合う商品が提案できるからだ。これを著者は「価値のある信頼の輪」と呼んでおり、
顧客から学ぶ
→試す
→実行する
→顧客を引き込む
というサイクルを繰り返すことにより、顧客との信頼を高めていく。
メッシュが求められる背景には、使い捨て文化へのアンチテーゼがある。長期間にわたり使い続けることを前提にしているのがメッシュだからだ。そのためには、メッシュにおける提供物では、
・耐久性がある
・汎用性がある
・修理可能
・持続可能社会に貢献する
といったデザインが行われることが重要である。
◆信頼を勝ち取る方法
メッシュビジネスで信頼を勝ち取っていくには、
(1)あたながしていることを伝える
(2)試用させる
(3)有言実行
(4)顧客に喜びを与え続ける
(5)ソーシャルネットワークを抱き込み、深く食い込む
(6)透明性を重視しつつ、プライバシーを守る
(7)批判的なPRに対処し、すばたく巧みにフィードバックする
といったことを実現していく必要がある。
◆生態系としてのメッシュ
また、メッシュを成功させるには、メッシュは生態系であり、以下のようなメタファがあることを理解しておく必要がある。
・自然は何もないところを嫌うように、メッシュもニッチを見つけて、すばやく対応していかなくてはならない
・自然に回復力と適応力があるように、既存のビジネスもメッシュ生態系の中では失敗しても回復力を持ち、持続力をつけることができる
・一つのシステムにおいて捨てられるごみはほかのシステムにとって資源となる
◆企業戦略におけるメッシュの利用
メッシュは小規模なベンチャービジネス向けのビジネスモデルのように見えるが、大企業においても戦略的な活用が可能である。そのためにメッシュのメリットを利用する方法には、たとえば以下のようなものが考えられる。
(1)メッシュ・ビジネスを展開し、後押しをするためのサービスやプラットホームを作る
(2)製品と原材料の両方の有形資産をシェアプラットホームとして活用する
(3)資源や情報をパートナー企業とシェアし、密な関係を築くことで、よりデザイン性に優れ、より時代の流れに沿った製品やサービスをタイミングよく市場に投入できる
(4)川上から川下、あるいはその逆のサプライチェーンを統合する
(5)メッシュ生態系を広げていく
などだ。
◆メッシュで震災復興
2011年3月11日に日本は震災により、戦後の高度成長で作り上げてきた多くのものを失った。東日本は壊滅的な被害を受けた。その中でも、西日本は被害なく残り、また、東日本にも残っているものもある。この中で、活用できる資源を活用し、スピーディーに、創造的な復興を遂げるには、メッシュというビジネスモデルは非常に重要な役割を果たすように思う。
メッシュでリカバリーできるものはないか、メッシュで一層の付加価値が生まれるものはなにか、そんな視点を持って復興のデザインをしていきたい。
コメント