« マネジメント10選(facebook) | メイン | ビジネス書の杜別館(facebook)で2011年3月1日~10日にコメントした本 »

2011年3月 7日 (月)

IT企業のマネジャー必読!戦略的「職人」育成

4495591916 阿久津 一志 「「職人」を教え・鍛え・育てるしつけはこうしなさい!」、同文館出版(2011)

お奨め度:★★★★1/2

左官のサービス業を営む著者が、同業の経営者をターゲットに、「職人」育成について、体系的に解説した一冊。体系的でありながら、自社での具体的な取り組みを豊富に紹介されている。自社の左官職人を念頭において書かれた本であるが、ロジカルな取り組みが多く、どのような分野の職人にも通用する。特に、著者の会社は少数誠意を目指しているため、ソフトウエアの現場を育成するマネジャーに非常に参考になる。

本書の経営的な問題意識は

・顧客のリピートを得られる
・収益が上がる

の2つである。職人の意識変革と、育成によってこの2つを実現する経営を可能になるというのが著者の主張である。

職人を育てるのに、まずすべきことは、理念を掲げて社風を変えることだという。著者の会社では、

私達は、礼儀・技術・知識の向上を目指し、感謝の気持ちで社会に貢献します

という経営理念を掲げている。ここのこの本での著者の言いたいことがほとんど込められている。これからの職人は、単に技術だけではだめで、礼儀はもちろん、技術に関する知識や、さらにはビジネスに関する知識も持っておかなくてはならないというのが著者の考えである。ここで、面白いことを言っていて、

・職人が嫌がるものほど、やれば効果がでる
・職人の常識は間違っているものが多い

という2つである。IT系のエンジニアを思い浮かべても、この2つはよくわかる。間違った常識が多く、問題の本質に切り込まれると逃げたり、反発をする。ここを変えていかないと前には進めない。

では、著者が理想とする職人とはどういうものか。サラリーマン化した職人は不要だというが、特に職人はこういう気質を持っていなくてはならないといったことを言っているわけではない(随所に出てはくるが、それは「例」である)。著者が重視するのは

(1)時代に併せて進化すること
(2)学び続けること
(3)経営的な感覚を持つこと

の3つである。一言でいえば、「考えること」のできる職人だ。

そのような職人を育てるのは難しい。粘り強く教育する必要がある。左官だと技術で一人前にするのに、5年かかるという。一人前になるまではすべて投資である。

育成は現場だけでもだめ、座学だけでもだめだ。そもそも、職人に学習動機を与えることが重要である。そのためには、OJTとOFFJTのバランスが大切だというのが著者の考えである。

また、教育の視座としては、一匹狼的な職人を育てるのでは意味がない。チームワークができる職人を育てなくてはならない。たとえば、夏場に1000m2を超える大きな面積の床にコンクリートを塗ることがあるそうだ。時間がかかると乾いてしまう。失敗は許されない。体力と精神の極限に挑戦するような仕事である。このような仕事で、チームによって疲れ方がまったく違うそうだ。チームワークができていると、疲れない。

チームワークの中でポイントになるのは、やはりコミュニケーションだそうだ。著者の会社では、コミュニケーション能力を高めるために

(1)年齢差のある職人同士を組ませる
(2)組ませるメンバーを定期的に変える
(3)朝礼への参加と朝礼での発言の場を設ける

といった取り組みをしている。

チームワークが重要であっても職人である限り、技術がもっとも重要である。技術力を育成させるためには、自信が必要である。今の若い人は技術に自信を持てない人が多い。理由は2つある。

・苦労や努力をあまりしていない
・自分の仕事を他人任せにしている

このため、徹底的に厳しく仕込み、自信を持たせてやることが重要である。特に、責任を持たせることが重要だ。著者は、責任感がない人は、一生、自信はつかないと断言している。強く共感する。

ITエンジニアの育成で、ここがもっとも問題だと思う。厳しさがない。責任を取らせようともしない。これでは、よいエンジニアは育たない。見える化がある程度の解決になるが、問題の本質は見えないことではないように思う。

仕込みをする中で、重要なのは創意工夫をする職人を育てることである。そのためには、3K環境に入れることが重要だという。

一定のレベルまで育ったら、次は経営的な感覚を持たせることが重要である。数字に強い職人を作る。具体的には

・コスト意識
・営業力
・タイムマネジメント

の3つの育成が特に重要である。これらを育成するには、施工責任を持たせることだ。上に述べた責任感は「レスポンシビリティ」であり、施工責任は「アカウンタビリティ」である。レベルが違うが、いずれも育成のために責任を持たせることが不可欠である。

この本の結論として、著者は職人の差別化による、競争優位性を作るという戦略を掲げている。バーニーがいうリソースベースの戦略である。人材に依存するサービス業のあり方として、本書に書かれていることは非常に参考になる。

冒頭にも述べたように、大きな企業のマネジャーに非常に示唆の多い一冊である。

トラックバック

このページのトラックバックURL:
http://bb.lekumo.jp/t/trackback/605869/31149257

IT企業のマネジャー必読!戦略的「職人」育成を参照しているブログ:

コメント

コメントを投稿

PMstyle 2024年5月~7月Zoom公開セミナー(★:開催決定)

アクセスランキング

カテゴリ

Powered by Six Apart

Powered by Google

  • スポンサーリンク
  • サイト内検索
    Google