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2011年1月 2日 (日)

語りの戦略論

4492532706 楠木 建「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」、東洋経済新報社(2010)

紙版><Kindle版

お奨め度:★★★★★

戦略は要素ではなく、ストーリーとして語られなくてはならないという考えに基づき書かれた戦略読本。戦略論のテキストに見られる概念的な説明ではなく、また、戦略実践書に見られるフレームワークを中心にした説明やベストプラクティスの羅列でもない。戦略とは何か、よい戦略というのはどのように考えてつくられているかを自分の言葉で淡々と事例をふんだんに使って語っている。新しいタイプの戦略の名書である。非常に巧みな語りで、さしむき、語り部による戦略論といった趣の一冊。500ページというボリュームのある本であるが、ボリュームを感じないのは語りの巧みさだろう。

総合的な戦略力を身につけることは難しい。本書はその理由を「シンセシス(綜合)」であり、分析とは相容れないものだからだと指摘する。しかし、現実に行われていることは、アプローチの難しさ故に、SWOTなどの部分的なフレームワークに依存したり、ベストプラクティスを収集して適用することによってよい戦略をつくろうとする。また、最近は戦略思考がブームとなり、目標設定だけで戦略を創っているような風潮が出てきている。本書では、このような戦略マネジメントの間違いを指摘した上で、ストーリーとしての戦略の重要性を説いている。また、戦略ストーリーの具体的な作り方を提唱し、サッカーのメタファを使って説明しながら、ストーリーの要素についてのベストプラクティスを紹介している。

本書で語っていることはそんなに特別なことではない。多くの人は、文字面だけみると、どこかで聞いた話だと感じることが多いと思う。しかし、戦略の本質がストーリーだという主張の通り、問題はその組み合わせにある。

その組み合わせを淡々と語っているので、腹に落ちるし、また、いろいろと考えながら読み進めていくことができる。

まず、本書では戦略の整理をしている。戦略には、2つのレベルがあることを指摘する。一つは競争戦略で事業レベルで、他社とどのように向かい合うかという戦略である。もうひとつは、全社戦略である。全社戦略はどのような事業分野に経営資源を優先的に投入するか、あるいは事業の撤退を決める戦略である。

そして、競争戦略には、種類の違いを追求する戦略と、程度の違いを追求する戦略がある
前者はポジショニング(SPの戦略)であり、組織能力(OEの戦略)の戦略である。現実の戦略はSPとOEの組み合わせであるのが普通である。この組み合わせを考え、そこに流れと動きをつくっていくのが戦略ストーリーである。

本書の提唱する戦略ストーリーには5つのCがある。

競争優位(Competitive Advabantage)
コンセプト(Concopt)
構成要素(Components)
クリティカル・コア(Critical Core)
一貫性(Consistency)

の5つである。本書では、戦略の目的は、「持続的な利益創出」であり、ここから逆向きに追いかけていくとよいという。これがサッカーでいえばゴールである。その直前の場面、つまり、「利益が創出される最終的な理論」がまず、問題になる。サッカーでいえば、シュートだ。

シュートは極めてシンプルで、

WTP(顧客がどれだけ支払いたいか)-C(コスト)=P(利益)

が基本になる。つまり、WTPを上げるが、コストを下げるかのいずれかである。これが競争優位である。

シュートと並ぶのがコンセプトである。コンセプトは、その製品の「本質的な顧客価値」である。つまり、「本当のところ、誰に何を売っているのか」である。コンセプトはストーリーの起点になるだけなく、因果関係のシンセシスにも重要な役割を果たす。コンセプトが明確であれば、そこから出てくる構成要素には最初から骨太の因果関係が含まれるからである。

その前は、シュートに結びつくパスだ。一つは、他社との違いである。これは5Cでいうところの構成要素になる。ストーリーとは、構成要素を因果関係でつなげたものである。ストーリーの良さは、この因果関係がきちんとしていること(パスが正確であること)、つまり一貫性だ。その一貫性は

・強さ
・太さ
・長さ

の3つの視点で評価できる。強くて、太くて、長い話が筋のよいストーリーである。

さて、競争において、決定的な役割を果たすものがクリティカル・コアである。クリティカルコアは、

戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素

を示す。サッカーでいえば、キラーパスである。クリティカルコアであるには2つの条件がある。一つは、「他の様々な構成要素と同時に多くのつながりを持つ」ことである。もうひとつは、「一見にして非合理的に見えること」である。

これが戦略ストーリーの肝である。

本書では最後に戦略ストーリー「骨法10カ条」をまとめている。本書の全体の語りの中で、要所要所で示された戦略ストーリー作成のTipsであるので、まとめとして、紹介しておこう。

(1)エンディングから考える
(2)「普通の人々」の本章を考える
(3)悲観主義で理論を詰める
(4)物事が起こる順序にこだわる
(5)過去から未来を構想する
(6)失敗を避けようとしない
(7)「賢者の盲点」を衝く
(8)競合他社に対してオープンに構える
(9)抽象化で本質をつかむ
(10)思わず人に話したくなる話をする

ということで、本書の紹介を書いて来たが、本書の本質は事例企業の戦略から読み取られたストーリーにある。ストーリーはフレームワークの説明で多くのものが部分的に使われている他に、1章を割いて、ガリバーインターナショナルの戦略ストーリーの読み取りがされている。これが面白い。このように多くの戦略ストーリーに触れることこそ、戦略能力向上の王道だと思う。

その意味で、この紹介記事は書籍紹介記事としては「機能不全」であり、この記事を読まれた方には、ぜひ、本書を入手し、戦略ストーリーへ触れられることをお奨めしておきたい。

 

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