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2011年1月27日 (木)

マッキンゼーとボスコン、あなたはどちら派?

4862760856 安宅和人「イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」 」、英治出版(2010)

お奨め度:★★★★☆

マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の著者が書いた課題設定型の問題解決の本。イシューという概念を持ち込み、イシューをどのように作り、どのように分析し、どのようにプレゼンするかを魅力的にまとめた本。ビジネスパーソンが生産性を向上させるためには不可欠な考え方である。また、プロフェッショナルな仕事をするためにも不可欠である。プロフェッショナルを目指すすべてのビジネスパーソンに読んでほしい。

本書が前提としている考え方は、マッキンゼーの教義だとされている「コンプリート・スタッフ・ワーク」である。これは、「自分がスタッフとして受けた仕事を完遂せよ。いかなるときにも」という意味だそうだ。そして、コンプリート・スタッフ・ワークの指標になるのが、「バリュー」ということになっている。

著者の考えでは、バリューはさらに2つの軸で表現できる。「イシュー度」と「解の質」である。イシュー度とは、「自分の置かれた局面でこの問題に答えを出す必要性の高さ」であり、解の質は、「そのイシューに対してどこまで明確に答えを出せるかの度合い」である。

この2軸で考えた場合に、バリューのある仕事はほんの一握りに限定されるが、逆に絶対に行ってはならないことがあるという。一心不乱に大量の仕事をすることにより、解の質を上げ、仕事のバリューを求めることである。著者はこれを「犬の道」と呼んでいる。

世の中に問題だと思われることが100あるとすると、ビジネスとして取り組み価値があることは、せいぜい2~3であるというのが著者の認識である。

この認識に基づくと、問題に遭遇したときに、その2~3をどのように見つけるかが問題になってくると同時に、残りの97~98個の問題はいくら一生懸命やっても、価値がないということになる。

すると、まず最初に考えるべきことは、答えを出すべき問題はなんだということになる。片っ端から問題を考えていたのでは、100のうちの97は無駄になってしまうし、総ざらいでなくても絞り込みが不適切であれば、その分だけは無駄になってしまう。

分析であれば、「何に答えをだす必要があるか」という議論から始めて、「そのために何をすればよいか」という流れで分析を設計する。これが、「イシューよりはじめる」という意味である。

このために重要なことは、問題を絞り込む、つまり、イシューを見極めることである。よいイシューには3つの条件がある。
(1)本質的な選択肢である
(2)深い仮説がある
(3)答えを出せる
の3つである。(1)の本質的な選択肢とは、それに答えが出るとそこから先の検討方向性に大きく影響を与える選択肢であることを意味している。(2)の仮説とはスタンスのことである。「常識を覆るような洞察」や「新しい構造で説明」などに基づく仮説であることが必要だ。(1)~(2)は重要性を求めるものだが、それだけでは不十分である。イシューには答えを出せることが重要である。答えがないが、重要なイシューは世の中にたくさんあるが、そのようなイシューを設定しても意味がない。

よいイシューを設定するためには、情報収集の工夫が必要で
・一次情報に触れる
・基本情報をスキャンする
・集めすぎない・知りすぎない
といったことが重要である。

情報が集まったらつぎは分析する。ここでは、解の質を高めることが重要である。そのために重要なのが、「ストーリーライン」づくりと、それに基づく「絵コンテ」づくりだ。この2つの併せて、イシュー分析という。

ストーリーラインづくりはさらに2つの作業がある。一つは「イシューの分解」であり、もう一つは「分解したイシューに基づいてストーリーラインを組み立てること」である。イシューの分解に有用なのが、MECEや各種のフレームワークである。これらのツールを使ってイシューを分解したら、つぎにストーリーを組み立てる。典型的なストーリー組み立ての手順は

1.必要な問題意識・前提となる知識の共有
2.カギとなるイシュー、サブイシューの明確か
3.それぞれのサブイシューについての検討結果
4.それらを総合した意味合いの整理

というものである。ストリーラインには

・WHYの並び立て
・空・雨・傘

の2つの典型的な型があるので、これらの型を念頭において、1.~4.の作業をしていけばよい。

イシューを見極め、それを検証するためのストーリーラインができたら、つぎは分析メッセージをデザインする。本書では、分析メッセージづくりを「絵コンテ」と呼んでいる。そして、そのステップとして

(1)軸の整理
(2)イメージの具体化
(3)方法の明示

という3ステップで進めて行くことを推奨している。

絵コンテができたらいよいよ、実行である。実行に際しては

・答えありきではない
・トラブル(欲しい数字が出ない、自分の知識では不十分など)を捌く
・軽快に答えを出す

などの注意する必要がある。

実行したあとは、結果の表現とブラッシュアップをする必要がある。ここでは、

・本質的、シンプルを実現する
・ストーリーラインを磨き込む
・チャートを磨き込む

などを行う。これによって、コンプリート・スタッフ・ワークとなるわけだ。

本書の作り自体が、著者の薦めるイシューマネジメントのプラクティスであり、この本を読んで魅力的だと思った人はこの本に書いていることはきっと役立つと思う。

ちょうど1年くらい前に、ボストン・コンサルティング・グループ出身で、現在は早稲田大学ビジネススクールの教授である内田和成さんの「論点思考」という本が出版された。この本も同じ問題意識で書かれた本で、限られた時間の中でどれだけクライアントに満足して貰える成果を出せるかは、イシューマネジメントによるという主張をしている。

内田さんの論点思考は非常によい本だと思うが、それに負けず劣らず、安宅氏の本も良い本。どちらがよいかというよりは、垣間見えるマッキンゼーとボスコンのスタイルの違いが興味深い。ぜひ、読み比べてみることをお薦めする。

 

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