イノベーションには「管理された、健全な戦い」が必要である
サジュ=ニコル・ジョニ、デイモン・ベイヤー(満園 真木訳)「ザ・ライト・ファイト」、出版社: アルファポリス(2010)
お奨め度:★★★★1/2
対立をイノベーションのためのリーダーシップツールとして活用することを提唱する一冊。思考レベルや、マンツーマンの行動レベルではなく、組織行動レベルで対立を使うことや、その際に必要になるリーダーシップについて述べている。イノベーションを企ててるマネジャーは必読の一冊。
著者の問題意識は、
ビジネス組織にとって「チームワーク」や「協調性」は不可欠のものだが、イノベーションのためにはそれだけでは不十分である。必要なのは、適切に管理された、一定程度の健全な対立である。このような対立を本書では、ライトファイトと呼ぶ。人も組織も、適切かつ、適度なストレス下に置かれている状況でこそ、最適に機能する。
そのように考えると、リーダーの重要な仕事はライトファイトを起こし、それを正しいやり方で進めさせることである。ライトファイトによって、チーム、組織、共同体の持つ潜在的な創造性、生産性を引き出す。さらに、新しい可能性を呼び起こし、よりよい結果をもたらす。その結果、画期的なパフォーマンスを達成し、真のイノベーションを実現するとともに、明日のリーダーを育てることができる。
本書では、
・ダグラス・コナンによるキャンベルスープの再建
・ジャックウェルチによるGEの後継者選び
の事例を取り上げ、ライトファイトがどのように機能するかを説明している。
ところが、実際には対立をうまく引き起こし、管理することは難しい。戦いの中身が適切でなかったり、戦い方が適切でなかったりするためだ。避けなくてはならない戦いは
・戦いそのものも、戦い方も正しくない
本質的な争点をめぐる戦いではなく、リーダーシップも機能しない
・戦いそのものは正しいが、戦い方が正しくない
十分に意義のある戦いだが、手法に難がある
・戦い方は正しいが、戦いそのものが正しくない
手法は優れているが、争点が間違っている
の3つである。本書では、この3つについて、具体的な事例を取り上げ、どこに問題があるかを指摘している。
・大型SUVのGM
・HPのカーリー・フィオリーナCOE
・ハーバードのローレンス・サマーズ学長
そして、なぜ、そのような間違いが起こるかを分析し、
・人間関係
・構造的な問題
・事業サイクルの問題
に整理している。
このような問題を起こさないためには、6つの原則が必要である。
まず、最初の3つは、戦いの中身を正しくするための原則だ。
原則1:意義のある戦いを
リーダーは、誰もがモチベーションを保てるよう、骨折り損感じさせないよう、戦いを意義あるものにしなくてはならない。
原則2:未来に向けた戦いを
リーダーは、過去のことをあげつらったり、権力闘争を蒸し返したり、罪をなすりつけたりしないよう、未来に向けた戦いにしなくてはならない。
原則3:尊い目的を追求せよ
リーダーは、私利私欲を越え、世界をよりよくするという目的のための戦いにしなくてはならない。
次の3つは、正しい戦い方についての原則である。
原則4:戦争ではなく、スポーツに
リーダーはうまくレフリーを務め、泥仕合にならないようにする
原則5:フォーマルな仕組みとインフォーマルな仕組みを賢く利用せよ
リーダーはフォーマルな組織を通じ、命令系統や組織の手続きを、インセンティブなどに存在するギャップを利用してライトファイトをお膳立てする
原則6:痛みから得る
リーダーは、争いにより、人を活気づかせ、スキルを伸ばさせる。参加した者すべてが、敗者も含めてメリットを得られる結果となる
また、これらの原則の実践について、物語を使って説明している。非常に分かり易い物語であり、深い洞察に役立つ。
対立をテーマに書かれた本は少なくない。思考レベルで有名なのは、TOCや、TRIZがある。まあ、交渉術の中にも対立をツールとして使うという流儀のものは多い。しかし、これらの議論をリーダーシップ行動と明示的に結びつけた理論というのは、結構、斬新で、この本の価値はそこにある。
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